昨年、公演先のホテルで急逝した浅川マキ。石川県から上京し、米軍キャンプやキャバレーなどで歌手活動をスタートした浅川マキは、1968年という激動の時代に寺山修司と出会う。寺山のプロデュースで新宿の伝説のシアター「蠍座」で初のワンマンを行い時代の寵児となった浅川は、その死の時まで変わらぬスタンスと美意識を貫いた希代のシンガーだった。本書は、浅川マキの世界を活字と写真で構成した最初で最後のオフィシャル本。写真はデビューから彼女を撮り続けた田村仁のもので、その時々の空気や匂いまでが感じられる。文章は、浅川本人の原稿や対談の他、朋友達の追悼文など多数収められている。「時代に合わせて呼吸するつもりはない」などの発言がされたインタビューも貴重だが、とりわけ本人が書いたエッセイが素晴らしい。「あの傷ついた男たちが、一片の紙切れに書いてよこした幾つかの歌謡詞を、わたしは今日も唄っているのである」('73年発表「あの娘がくれたブルース」より)。ちなみに編集は末井昭だ。(加藤梅造)