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わが輩は「男の娘(おとこのこ)」である!

2010.12.29   CULTURE | BOOK

いがらし奈波 (コンペイトウ書房)950円+税

 アニメや漫画を中心に局所的な盛り上がりをみせ、リアルの世界でも徐々に市民権を獲得しつつある“女装”。「女装子(じょそこ)」や「男の娘(おとこのこ)」なんて“難しい”漢字をすらすら読める人口も、以前に比べれば格段に増えたのではないだろうか。そして、そんな市民権拡大に併せて発売されたのが、本書『わが輩は〜』である。著者いがらし奈波は、『キャンディ・キャンディ』などで知られる漫画家・いがらしゆみこの長男で、自身も漫画家を目指す「もうすぐ三十路」の男性。性の志向としては異性愛者(自称ロリコン)で彼女もいるが、れっきとした女装男子だ。本書はそんな彼自身の人生遍歴を織り交ぜながら、女装文化が漫画で分かり易く紹介・解説される。

 重ねて言うが、本書は非常に分かり易い。基本的に四コマで進行し、登場するキャラクターも(ほぼ)すべて実在の人物ながらとことんデフォルメされ、台詞運びもテンションが高い。また、ポンポン飛び出すオタク用語にも、これでもかと注釈が付けられているし、写真を交えた化粧講座も載っていて……とにかく、女装をとことん“ポップ”な文化として演出することに腐心していることがよく伝わる。そこには、女装への偏見を少しでもなくしたいという、ある種の啓蒙精神がある。

 ちなみに、女装専門誌『オトコノコ倶楽部』の編集長・井戸隆明は、ルーフトップのインタビュー('10年3月号)で「100パーセント性欲に関係ない女装は無い」と喝破したが、本書における性欲云々は通底音として流れてはいるものの、厚めのオブラートに包まれている。だからこそ、ある程度深く女装の世界に足を踏み入れた向きにはややライトに映るかもしれないが、これから女装を始めようとしている貴方や、女装文化に興味はあるが何となくアンダーグラウンドなイメージから敬遠していた貴女や貴方には、気軽な入門書として本書をお薦めしたい。

 また、巻末にはいがらしゆみこが我が子へ贈った9ページの読み切り漫画が掲載。世間様からは白い目で見られるであろう人生を送る息子の、ありのままを受け止める母の、この真っすぐな想いを愛と呼ばずになんと呼ぼうか。「ディア・ムスコ」から始まるラスト1ページは、何度読んでも胸がしめつけられる。子を持つ親は必読。(前川誠)

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