三島の死から<全てが始まった>
日本の思想家・鈴木邦男さんが書き下ろす、三島由紀夫と野村秋介論である。折しも三島由紀夫没後40周年である。日本右翼民族運動に衝撃を与えた奇数な二つの「自決」事件の二人が本書の主人公である。勿論この三島事件以降、当時日本の運動の主流だった新左翼過激派にも多くの影響を与え、赤軍事件等いろいろな事件を引き起こした。著者・鈴木邦男は言う。
<全て>は三島由紀夫から始まる。いや、三島の死から<全てが始まった>。1970年11月25日(三島が防衛庁で割腹自殺した日)。日本は変わった。・・・新右翼の登場、野村秋介経団連事件は三島事件の延長線上の出来事だ。個人的に言えば僕の運命も変わった。(本書始めにより)
やはり鈴木邦男にとっては、まさに本書は彼のライフワークの最終章のつもりで書き上げていることを意識して読みすすんだ。著者はこの二人の思想家が「死を一つの武器にし」新しい民族派運動に多くの期待を寄せたのだろうと文脈から理解できた。三島事件の「死に様」が契機になって赤軍の一連の事件や野村秋介さんの自決が連鎖したのだと言う。<さらば群青・戦闘的ナショナリストの「遺書」饒舌の徒・進歩的文化人と称する醜い日本人よ、語るなら命をかけろ!>ーこれが言葉と情念が激しく交差する行為者に対して俳人・野村秋介の、これは「遺書」である。凄い。特に最近の鈴木邦男はもの凄く進化し続けていると思う。 (平野 悠)