2023年11月29日(水)発売
avex trax
フォーマット:CD
【収録曲】
1. WITH LOVE
2. G.
3. HURT
4. RA-SE-N
5. LUV U
6. FOREVER & EVER
7. 1999
8. END OF SORROW
9. DESIRE
10. IN SILENCE
11. SELVES
LUNA SEAの二大名盤、『MOTHER』、『STYLE』の再現ツアー『DUAR AREANA TOUR』の開催に伴い、約30年ぶりにセルフカバーされた5thアルバム『STYLE』は、前作『MOTHER』の2年後、96年にリリースされ、オリコン1位を獲得。シングル「DESIRE」、「END OF SORROW」、「IN SILENCE」が次々とチャートを席巻し、『MOTHER』の大ヒット以降さらなる飛躍を遂げ、メジャーシーンでの存在感を増していった。それに伴い、“ヴィジュアル系”というジャンルが世間一般に確立し、いわゆるヴィジュアル系全盛期となる。それまでアングラだったシーンをメジャーへ引き上げたのは間違いなくLUNA SEAだろう。
この『STYLE』は、LUNA SEA史上最もオルタナティブなアルバムであり、作品として一番精度が高い。それは『MOTHER』の大ヒット以降、バンド周りの環境が一気に変わったことによるストレスやメンバー間の歪み、そして『MOTHER』を超えなければならないというプレッシャーによる極限まで追いつめられたギリギリの精神状態で作られたという背景がある。このアルバムのツアー後バンドは活動休止し、翌年再始動するも、この時期に生まれてしまった歪みは解消出来ず00年に終幕してしまう。
そんなギリギリの状態で作られた作品だけあり、ヒリついた空気感が端々から感じられ、聴いているこっちが息苦しくなるぐらいシリアスで、気を抜いて聴ける曲がほぼない。「1999」という曲が収録されているが、当時ノストラダムスの大予言を間近に控え、本気にはしていないものの、みんなうっすら感じていた世紀末感も相まって、96年当時にしか出せないヒリついた極限状態の空気感がそのまま封じ込められている。バンドの状態は最悪、だからこそ生まれたストイックな作品、というファンとしては複雑だが、やはりここがLUNA SEA最盛期であり、最高傑作だと言える。
その『STYLE』を今どうセルフカバーするのか。あの当時にしか出せないヒリつきを変に壊してほしくない。『MOTHER』以上に『STYLE』のセルフカバーに対しては複雑な思いを抱いていたが、『MOTHER』同様、見事に最高のカバーの仕方をしてくれた。
『MOTHER』以上に余計なアレンジをせずほぼ当時のままのサウンドと、RYUICHIの抑えたボーカルが30年前のヒリついたシリアスな空気感を全く壊すことなく、見事に再現されている。1曲目「WITH LOVE」のまどろみからの「G.」、「HURT」、「RA-SE-N」と深く潜っていくような怒涛のオルタナゾーンは健在。
では、何が当時と違うのか。新『MOTHER』では行間に30年分の想いが詰まっていたのに対してこの『STYLE』は、アルバムの真ん中に位置する「FOREVER & EVER」に全てが込められている。
10分を超える壮大なバラードのこの曲は、96年12月23日に横浜スタジアムで行われた『真冬の野外』でラストに演奏され、その直前のMCでRYUICHIが活動休止を発表した為、当時のファンにとっては胸が痛い曲でもある。ほぼ同じメロディが繰り返され、シンフォニックな終盤まで激しい緩急もなく、新録ver.も特別新しいアレンジが加わっているわけではない。だが、だからこそ映えるRYUICHIのボーカルから、30年分の重みがひしひしと伝わって来る。
そして何より、中盤のJが語る英詞パート。当時のバラバラになってしまいそうなバンドをなんとかつなぎとめたい、もし壊れてしまっても諦めたくないという思いや希望が痛いくらいに込められているように受け取れる詞が、一度解散したものの再結成し、30年経った今証明されたことに胸がいっぱいになる。2人の声に詰まった30年分の想いに、新録「MOTHER」同様LUNA SEAのライブ終演後に得られる充足感や温かさを感じ、当時の悲しい記憶がすべて救済されたような気持ちになる。
アルバム全体のヒリついた空気感はそのままに、「FOREVER & EVER」1曲に30年分の歴史と想いをたっぷり込めることで『STYLE』の良さをしっかり保った、見事なセルフカバーアルバムとなった。
目に見えるような分かりやすいアレンジをして変化を見せるのではなく、背中で語るかのように多くを言わずとも30年間の生き様を包み隠さずそのまま見せたこの2作品に、こんなセルフカバーの仕方があるのかと驚いた。ただのリテイクなんかではない。今聴いても独自性のある色褪せない楽曲と、彼らの人間力、そして、ただ過去を懐かしむだけではなく前に進み続けるアーティストとしての攻めた姿勢に、改めて魅了された。(小野妙子 / Rooftop編集部)