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トップレビューLUNA SEA『MOTHER』- 行間に詰まった30年分の想いこそが最大のアレンジ

LUNA SEA『MOTHER』- 行間に詰まった30年分の想いこそが最大のアレンジ

2023.12.12    | CD

2023年11月29日(水)発売
avex trax
フォーマット:CD

【収録曲】
1. LOVELESS
2. ROSIER
3. FACE TO FACE
4. CIVILIZE
5. GENESIS OF MIND ~夢の彼方へ~
6. AURORA
7. IN FUTURE
8. FAKE
9. TRUE BLU
10. MOTHER

LUNA SEAの二大名盤、『MOTHER』、『STYLE』の再現ツアー『DUAR AREANA TOUR』の開催に伴い、約30年ぶりにこの2作品がセルフカバーされることになった。94年リリースの『MOTHER』は累計枚数70万枚を記録。先行シングル「TRUE BLUE」が初のオリコン1位を獲得し、名曲「ROSIER」とともに一気にメジャーシーンのトップに登り詰めたLUNA SEAの代表作である。

LUNA SEAの曲は音楽ジャンル的な言葉で形容するのが非常に難しい。ニューウェイヴ、ゴス、グラムロック、ニューロマ、テクノ、サイケデリックロック、プログレ、パンク、メタル、ハードロック、シューゲイザー、クラシックなど、各々バックボーンがバラバラの5人が集まり、どこにも存在しない自分達だけのサウンドを作ることに命をかけて作られた曲は、どれも既存の音楽ジャンルに当てはめることが出来ない。
中でもこの『MOTHER』は一番形容しがたい。特に、1曲目の「LOVELESS」。もうSUGIZOサウンドとしか言いようのない宇宙的なギターのイントロが醸し出す神聖さ。特に山場的な盛り上がりがある曲ではないのに、なんとも言えない高揚感と、心身が清められるような美しく透明感のあるサウンドは、未だにこれを真似しているバンドや似たような曲を聴いたことがない。インディー / アンダーグラウンド的な1st『LUNACY』、2nd『IMAGE』と、3rd『EDEN』で生まれたポップな陽の要素が上手く消化された4th『MOTHER』は、これまでにない新しい彼らだけの音楽とポジションをメジャーに築いた、彼らにとって、また音楽シーンにとっても分岐点となった。
 
そんな名盤を30年経った今、どうセルフカバーするのか。一番気になるのは、やはりRYUICHIのボーカル。いわゆる“河村隆一的”な甘めのボーカルは、近年LUNA SEAで歌う際にはかなり抑えられている。しかし、2021年に静脈瘤を除去するため喉の手術をし、見事に復活を遂げるも未だ本調子ではない苦しそうな歌い方は、発声障害の疑いがあると最近公表された。
 
例えば、RYUICHIのボーカルをカバーするために思いっきりアレンジを変えて別物のようにリミックスしてしまうということも出来たはずだが、彼らが選んだのは、曲のアレンジはほぼ当時のまま、今のLUNA SEAをそのまま封じ込めるという選択肢だった。
RYUICHIのボーカルは確かにところどころつっかかるような部分もあるが、河村色がほぼ抑えられたハスキーでクールな歌い方が当時に近く、むしろ聴きやすい。余計なアレンジを加えず、パーフェクトではない今のボーカル(と言っても十分素晴らしいのだが)をそのままパッケージすることで生まれる空白、行間にパンパンに詰まった30年分の歴史や想い、それこそがこのセルフカバーアルバムに付け加えられた最大のアレンジなのではないか。LUNA SEAの30年に自分の30年も重なって、どの曲を聴いてもこみ上げてくるものがある。
また、オリジナル盤に比べて、全体的にライブ感がある。先述の「LOVELESS」、「ROSIER」はもちろんのこと、原曲と比べてグルーヴ感が増し、コーラスに厚みを持たせた「FACE TO FACE」のアレンジ、そして、ラストの「MOTHER」。ライブでは中盤からSUGIZOがギターからバイオリンに持ち替えて演奏する壮大な曲だが、イントロからバイオリンの音色が原曲よりノスタルジックに響き、壮大で美しい曲でありながら寂しさを感じる原曲に比べ、すべてを優しく包み込むような温かさを持ったアウトロに、LUNA SEAのライブ終演後に得られるのと同じ充足感で満たされる。
 
正直、最初はセルフカバーに対してマイナスイメージしかなかったが、変に余計なものを付け加えず、今のそのままを封じ込め、行間ですべてを伝える彼らの想いがパンパンに詰まったこの新『MOTHER』は、最高に素晴らしいセルフカバーアルバムだ。
そして何より、当時小6の私がロックに目覚めるキッカケとなったこのアルバムのレビューを今、リアルタイムで書いていることが非常に感慨深い。(小野妙子 / Rooftop編集部)
 

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