お笑い芸人・にしおかすみこが、2023年1月18日に『ポンコツ家族』を発売。刊行を記念し、1月21日に紀伊国屋書店新宿本店でミニトークショー&サイン会「楽しい介護?あるかそんなもん!」が開催され、イベント前には記者会見も行なわれた。
ロングヘアをなびかせ、SMの女王様の格好で行う漫談で人気を博し、『エンタの神様』にも出演していた芸人・にしおかすみこ。現在48歳で、髪もショートヘアにカットしたにしおかが、愛を込めて「全員ポンコツ」と語る、認知症の母をはじめとした自分の家族と介護の暮らしを綴り、2021年9月より「FRaU web」にてスタートしたエッセイが待望の書籍化。
「壮絶なのに笑って泣ける!」と、連載1回の記事で1,200万PVを記録、公開日まで7人だったTwitterのフォロワーは7,000人を超えた(現在は1.2万人)。このたび1年分の記事を13本に、書き下ろし5本を加えた単行本が刊行。1月18日に発売されるや否や、即座に重版決定するという好スタートを切った。
かつて人気を博した“あのセリフ”で登場
「にしおかぁ~すみこだよ~~! 『ポンコツ一家』という本を出して、調子に乗っている、2007年ぐらいに流行った一発屋っていうのは、どこのどいつだい? あたしだよ!」
かつてSM女王の芸風で一世を風靡したにしおか。刊行記念の取材に現れるなり、当時の決まり文句をアレンジしたコメントで取材陣を笑わせたが、トレードマークだったボンデージ衣装と黒髪ロングヘアから一点、白いワンピースにショートヘアのいでたちになっている。
「連載から読んでくださっている読者の方々や、たくさんの人に支えられて、ここまでたどり着きました。本が出来上がってホッとしています」
なぜ『ポンコツ一家』を書き始めたのか?
自ら「一発屋」を名乗っているが、家族の異変に気づいたきっかけは、コロナ禍で芸人の仕事がゼロになったことだった。久しぶりに帰った実家がゴミ屋敷化しており、母も今までとは大きく変わっていた。認知症かも? と思ったきっかけは、以前は絶対に口にしなかった「死」という言葉を、母が発したことだった。
「書くことはもともと好きだったんですけど、認知症になった母を目の当たりにして、頭と心と体のすべてが健康である状態は意外と長くないなと思ったんです。だったら自分が元気なうちに、好きなことをやってみたい。もし私以外の家族の誰かが倒れたときでも、家でパソコン1台でできる仕事があればいいと思いました。家族の生活費を稼ぎたかったんです」
まさに無職からの再出発。実家に帰った時点で貯金はゼロ、ダイビングショップでバイトしながらのスタートだった。連載のタイトルは、認知症の母、ダウン症の姉、酒好きの父、一発屋の自分を含めて『ポンコツ一家』と名づけた。
それから1年数カ月。いま単行本が出版されることを、母には言わないつもりだったが、刊行が決まったときに嬉すぎてついバラしてしまった。
それから1年数カ月。いま単行本が出版されることを、母には言わないつもりだったが、刊行が決まったときに嬉すぎてついバラしてしまった。
「母がこの本を読んで、自分が正常な生活をできなくなっていること、娘にこれだけ迷惑をかけているんだということを知って、傷ついて欲しくなかったんです。だから敢えては読ませたくなかったのですが、本が出ることが嬉しくて、つい言ってしまったら、『誰が買うんだ?』と。さすが身内のコメントだと思いました」
「母はまだ徘徊もせず自力で動けるレベルなので、自分のやっていることは、介護と呼べるものではない」と言うが、48歳独身のにしおかが一家を背負っている状態だ。本が爆売れして、まとまったお金が入ったら、「(いざというときに)母が希望する施設に入れるように準備できればいい」と語る。
現在のにしおかすみこは?
現在は、毎朝5時に起きる母に合わせて、温かい朝食を作るために早起きする毎日。3食分の作り置きをはじめ、家事全般をこなしている。ストレス解消法を見つけられず悶々とする日々の中でも、高いランチを食べに行ったり、趣味のマラソンやベジタブルカービング(野菜の飾り切り)に打ち込んだり、マネージャーにひたすらグチって息抜きしているという。ときには介護の先輩方に相談に乗ってもらったり、似たような境遇の友人と一緒に愚痴り合ったりすることもある。
今は商売道具のムチを持って表に出ることはほとんどない。「書くこともお笑いも劣等感でいっぱいですが、そんなことは言っていられないので、これからは他の題材にも挑戦しながら、書くことが仕事になっていけばいいなと思います」
現在、恋人はいない。社交的な性格でもなく、友達は少ないが、芸人仲間の波田陽区が連載を読んで連絡をくれたのは嬉しかったという。今も家族との生活に追われる日々だが、あくまでも「自分ファースト」を大切にしている。
「私が幸せじゃないと、家族も幸せじゃない。自分が健康でないと、家族のケアもできないので、状況によっては公共のサービスを使うことも視野に入れています」
それでも先々を考えて絶望的になることはある。先を考えると不安しかないので、できるだけ考えないように、せめて今日か明日の朝ごはんのことぐらいまでにとどめている。
「敢えてコメディタッチを意識したわけではないのですが、私の書いたものでたくさん笑って欲しい。悩みを抱えていたり、疲れている方の心にとって、少しでも心の箸休めになれたら嬉しいです」と語った。
イベント会場には、実際に介護で悩む40~50代の読者や、若いファンも駆けつけ、にしおかの温かいトークに耳をかたむけていた。サイン会でも、気さくな人柄でイベントは終始笑顔で包まれた。
▼『FRaU web』連載第1回を読む
本書は『FRaU web』2021年9月~2022年9月公開の記事(毎月20日更新)を加筆修正のうえ、書き下ろし5本の原稿を加えたものです。
【にしおかすみこ プロフィール】
1974年生まれ。千葉県出身。2007年、日本テレビ『エンタの神様』で女王様キャラのSMネタでブレイク。現在はテレビ東京『なないろ日和!』など、リポーターとしても活躍中。趣味のマラソンでは、2019年にフルマラソンで3時間05分03秒、2015年ウルトラマラソン100キロ女子の部にて第2位。最近はベジタブルカービングにハマり、クオリティの高さで話題になる。デジタルメディア「FRaUweb」にて「ポンコツ一家」連載中(毎月20日更新)。