自身を“表現家”と呼ぶシンガーソングライター、西片梨帆の弾き語りライブ『独り舞台 Hope you like it. −気に入ってくれたらいいな。−』が、10月23日に渋谷WWWにて開催された。
自作の詩が展示され、フロア前方には、白地に一筆書きのような青いラインを引いた長い帯と、木製のベンチ。ステージには、白いスタンド型ライトに、小さな黒いチェアーと木製の丸椅子。そんなインスタレーション・アートさながらの空間で、ライブが幕開けした。が、ステージは無人で、スクリーンに映像と詩が断片的に映され、そこに本人の朗読が重ねられていく。無機質な階段、池の水鳥、汗をかいたグラス、スクランブル交差点……。「毎日は、うすらぼんやり」「私がいなくなる時、あなたはどんなふうになるんだろう」「もういらない」「このやり方しか知らない」……。
映像が終わったところで、暗闇の中に本人が登場。自ら明かりを点け、ギターを抱えてステージ端に直接座ると、戯れるようにギターをつま弾きハミングしながら、未発表曲「また会えるの?」へ。そこから、やはり未発表曲で公演タイトルとなった4曲目「気に入ってくれたらいいな」までは、いわゆるMCの語りと、作風であるトーキングやポエトリー・リーディング、歌メロがナチュラルに繋がり、ドラマティックな物語を綴った組曲のようだった。
心の叫びとも言える、時にハッとさせられるほどリアルな歌詞が注目を集めている西片梨帆のメッセージは、極めてシンプルだ。シンプルで、揺るぎない。それは、愛したいということ、愛されたいということだ。明かりを消してチェアーに座り、スポットに浮かんだ彼女は、<月曜から日曜までで何回私を思い出した?>と歌う「なりたい」で、初めてギターをストロークでかき鳴らし、それまで内に向けていた感情を解き放った。気がつけば、静寂が破られ拍手が起きたのは、この曲が初めてだった。
以降は、1stアルバム『まどろみのひかり』収録曲を中心としたステージ。ラップを聴かせる「ゆるゆる」に「耐えがたいアイロニー」、<愛してるよ>と18回伝えて<愛してる?>と16回確かめる、最新シングル「僕らが映画」などが披露され、<この歌を『俺のことだ』と思って>と願う「桜上水で」で幕を閉じた。
アンコールはなし。スポットが消え、雨音が流れるエンディングまで、西片梨帆の生身の体温に触れたような濃密な90分だった。(Text:鈴木宏和)
単独公演『西片梨帆独り舞台 Hope you like it. -気に入ってくれたらいいな。-』【セットリスト】
01. また会えるの?
02. まどろみのひかり
03. 振り向かないで
04. 気に入ってくれたらいいな
05. 海はビア
06. なりたい
07. ゆるゆる
08. 耐えがたいアイロニー
09. そのままでいてね
10. 天使はいた
11. 僕らが映画
12. 桜上水で