8月15日(土)、flumpoolが自身初の無観客ストリーミングライヴ『「FOR ROOTS」~半Real~』を開催した。〝FOR ROOTS″とは、彼らが故郷・大阪で行ってきた特別なライヴのたびに冠してきたシリーズ・タイトル。会場は、本来ならばこの日、最新アルバム『Real』を携えたツアー『flumpool 10th Tour「Real」』で訪れる予定だった、大阪フェスティバルホール。ファンに埋め尽くされていたはずの客席に、スタッフ以外の人影は無い。新型コロナウイルス感染症が引き起こした未曽有の状況に彼らは直面し、新たな試みに挑戦。アルバム収録の全13曲と、地元・大阪の思い出の地を4人で辿るドキュメンタリー映像とで構成された、この日・この場所だけの特別なライヴを届けた。
18時に配信はスタートし、山村隆太(Vo&Gt)、阪井一生(Gt&Cho)、尼川元気(Ba&Cho)、小倉誠司(Dr)が、会場内のそれぞれの場所からステージへと向かう姿にカメラは密着。遊び心に満ちたアナウンスのナレーションは、地元ラジオ局FM802のDJ大抜卓人が務める。全員がステージで位置に着き、手を重ねて気合入れをすると、「NEW DAY DREAMER」でライヴはスタート。青い光の中に浮かび上がるような白系の衣装に身を包んだ4人は、アイコンタクトを取りながらリラックスした様子で歌い、奏でていく。山村は「カモン!」と曲間でシンガロングを呼び掛け、無観客という状況をイマジネーションで盛り立てる。続く「ネバーマインド」でもそうだが、<人><君>という歌詞に合わせて指さしたり、微笑んで手を差し伸べたり、といったアクションも多数。画面越しではあるが観客の存在をしっかりと意識しながら、序盤はいつもと変わらない彼ららしさで安心をもたらし、等身大のライヴを繰り広げていく。
「ディスカス」はAR(拡張現実)映像を駆使し、浮かんでは消えていく歌詞の文字列や熱帯魚、女性のイラストレーションをライヴ画面に投影。浮遊感のある曲にピッタリと合った世界観で、まるで架空のアクアリウムに迷い込んだような疑似体験をもたらした。「不透明人間」では大勢のカメラクルーがステージに上がりメンバーに接近、臨場感たっぷりに撮影。通常のライヴとは全く異なる、配信ならではの演出を次々と繰り出しては驚かせていった。
ドキュメンタリー映像は、場面転換のタイミングで3度上映。トータル30分に及ぶ見応えのある作品となっていた。4人がマスク姿で立つJR天王寺駅前の映像からスタートし、「コロナで人と人とが触れ合えない中ですけど…僕たちの故郷・大阪を紹介したい」(山村)との言葉通り、flumpoolの〝聖地″を辿りルーツを掘り下げていく。デビュー前に路上ライヴをしていた駅周辺のスポットに続き、およそ1年の活動休止からの再開、ゲリラライヴを行った地・天王寺公園を訪れ、当時の緊張を語り合うメンバーたち(※VTRのナビゲーターを務めるのは高橋優)。4人は車に乗り込み、山村の運転で旅は続いていく。
画面が会場に切り替わると、4人はなんと、客席でスタンバイ。この無観客配信でしかできないバンドセットで客席のど真ん中に横一列に並び、「遠い!」「やりにくい(笑)」などと談笑しつつ、「ちいさな日々」を染みわたるような穏やかさで披露。続いて、両親に向けた感謝を初めてストレートに書いたという「初めて愛をくれた人」は、コロナ禍で例年のお盆とは違って自由に帰省をしづらい今夏の状況に触れ、「皆さんの想いが届くように願って…」(山村)と語り、祈るように優しく歌い届けた。青春を歌った温かいフォークロア「勲章」は、ドキュメンタリー映像の直後に聴くとより具体的なイメージが浮かぶ。flumpoolの原風景を追体験するような、時空を超えた音楽体験だった。山村は郷里のアクセントで「ありがとう」と笑顔で挨拶したが、アットホームなムードはこの後一変。ドラマ『知らなくていいコト』主題歌として話題となった「素晴らしき嘘」で、4人はまた別の顔を覗かせた。シリアスな物語世界に深く入り込んだように、抑制を効かせクールにパフォーマンス。洗練されたレーザー演出も美しく、画面内に広がる光の芸術に魅入られた。
続くドキュメンタリー映像では、初の単独野外ライヴ(『flumpool 真夏の野外★LIVE 2015「FOR ROOTS」~オオサカ・フィールズ・フォーエバー~』)を開催した大泉緑地を再訪。豪雨に見舞われた伝説の公演だったが、幼い頃から慣れ親しんだ場所でライヴできた喜びをうれしそうに語り、「近いうちにまたやりたい」(阪井)と4人は頷き合った。更に、大和川の高架下にある〝秘密練習場″へ向かい、当時と同じ場所に座ると、初めてのオリジナル曲「サヨナラの日」を再現セッション。思い出話に明け暮れるうちに他の曲の記憶も蘇り、自然に演奏し始める彼らの姿は、音楽好きな少年そのものだった。最後はガスト松原店へ到着。デビュー前に朝までしゃべっていたという懐かしの場所で、次曲のタイトルにもなった思い出のメニューを味わいながら、会場へとバトンを繋いだ。
メインステージに戻った4人は、「ほうれん草のソテー」を披露。<いつものファミレスで>という歌詞では自然に、直前の映像が思い浮かんでくる。1つのテーブルで向き合って会話していた4人の楽し気な空気感そのままに、音と音もテンポ良くリズミカルに絡み合っていく。ピッタリと合った呼吸は次曲「アップデイト」の演奏にも引き継がれ、バンドサウンドならではのダイナミズムを発揮。ライヴは終盤に突入し、小倉のドラムに乗せて山村が「楽しんでくれてますか~? 皆、行けますか?」とオーディエンスに呼び掛けると、「PEPEパラダイス」へ。ゴージャスで艶やかなロックサウンドが響き渡り、阪井はギターを激しく搔き鳴らす。ピークを迎えた興奮は、「虹の傘」の静けさでそっと鎮められた。山村も阪井もアコースティック・ギターを爪弾き、コーラスワークは清らか。尼川は2段組のシンセサイザーでオルガンのような音色を奏でていく。雨粒を思わせる無数の光の粒が会場を照らし、そこには現実とも非現実ともつかない、幻想的な光景が広がっていた。
ラストのドキュメンタリー映像では、バンドの礎を築いたライヴハウスESAKA MUSEを訪問。再会した中川店長は、当時の彼らがストイックに努力していたエピソードを明かした。解散について話し合ったこともあるという懐かしの楽屋を再訪し、「教師をやろうか、迷ってた」(山村)など、メンバーは当時の苦悩を笑顔で語り合っていた。バンドのルーツを辿ってきたこのドキュメンタリー企画を振り返りつつ、flumpoolの今、未来についてのインタビューに答える4人。
途中加入した小倉は、この機会に初めて知った初期エピソードもあったと言い、「俺は新鮮やったわ。昔は気を遣って、あまり3人の思い出の話をしない時もあったから」とも。活動休止期間を支え合って乗り越えた2020年の今、そういったあらゆる垣根が消え、バンドがより結びつきを深めているのだと感じられた。山村は、「1人じゃなくて、4人で越えて来たという気持ち、その強さを持っている気がするんですよね。音楽って弱さとかを強さに変えて歌う、伝えていくということだと思うんですけど、1人じゃ伝えられないメッセージをflumpoolでは伝えられる。そういうバンドの強さを感じる」「今日のライヴを通して、今動きたいけど動けない人とか、コロナが収束するまでの勇気になってほしいと思いますし…力になってくれれば」と語り、このライヴを届ける意義、込めたメッセージを言葉にした。
最後は、4人が向き合って円を描くような形で立ち、「HELP」を届けた。ここで、予めTwitterで募集していたハッシュタグ企画の全貌がいよいよ明らかに。投稿した言葉がARで投影されflumpoolと〝共演″を果たすという、ファン参加型の試みだ。「ありがとうございます」「明日から頑張れそうです」など、“今の想いを”というテーマで寄せられたコメントが次々と浮かび上がり、やがて銀河へと吸い込まれていくようなイメージ。大阪フェスティバルホールを目掛けて想いが全国各地から集まってくるような、心を震わせる演出だった。
ラインナップした4人は、観客へ、そしてライヴをつくり上げたスタッフへの感謝を述べると、ツアーについて「今日は僕らの故郷・大阪から届けましたけど、ツアーの時は皆さんの大切な街へ行って、今日とはまた違ったライヴをお届けできると思うので、楽しみにしていてください!」(山村)と語った。エンドロールが映し出された後、オフィシャルファンクラブ会員限定で「未来」「流れ星」の2曲を届け、約2時間の公演は終了、4人は清々しい表情を浮かべ、手を振ってステージを去った。「大変な毎日が続きますが、どうかお身体と心を大切にお過ごしください! flumpool」というメッセージが映し出された最後の瞬間まで、配信画面にはバンドからの観客への想いが途切れることが無かった。
テクノロジー、アイディア両面に長けた、配信ライヴをならではの演出。そして、故郷・大阪への想い、紡いできた歴史を丹念に振り返るドキュメンタリー映像。それらを2本の柱として、独自の初配信ライヴを成し遂げたflumpool。充実した内容だったが、その上で、ドキュメンタリー映像中のインタビューで未来について問われた山村は、「『Unreal』(デビューミニアルバム)から始まって一回り、12年経って『Real』というアルバムを出せて。活動休止と復帰、いろんなことを乗り越えて、その想いを詰め込んだアルバムなので…その先というよりも、このツアーをまわることが、僕らの今一番やりたいこと」と、ツアー開催への強い意欲と決意を語っていた。コロナ禍で先行きが不透明な状況ではあるが、自分たちの音楽を信じ、しっかりと前を向いている。そんな姿勢を感じ取ることのできるストリーミングライヴだった。(取材・文/大前多恵 photo:オガワホシナ)