2023年10月7日、ハマスによる越境攻撃をきっかけに始まったイスラエルによる未曽有のガザ攻撃からまもなく1年。イスラエル、パレスチナの両国を⻑年取材し続けてきた土井敏邦監督が、30年にわたる激動のガザの記録をま とめたドキュメンタリー映画『ガザからの報告』(監督:土井敏邦 / 配給:リガード)が、10月26日(土)より東京・Kʼs cinemaほか全国の劇場で順次公開となる。
公開決定のニュースとともにキービジュアルと、土井敏邦監督及び、アナウンサーで文筆家の師岡カリーマからのコメントが発表された。
激動のガザ・30年の記録。現地ジャーナリストが伝える“生の声”を世界に向けて放つ
エルアクラ家の家族写真(1993年)
監督は『沈黙を破る』(2009年)、『愛国の告白』(2022年)で自国の加害と向き合う元イスラエル兵士たちの証言を記録してきた土井敏邦。イスラエル・パレスチナ取材歴30年の土井のもとには、昨年の10月7日以降、ガザの現地ジャーナリストから定期的に報告が届いていた。命がけで伝えられるその“生の声”を受け取った者の責務として土井がまとめた本作は、「ガザのパレスチナ人」と一括りにされる彼らの素顔を描き、今のガザの惨状の根源を浮かび上がらせる。
エクアクラ家の父と母(1993年)
オスロ合意直後、イスラエル兵士と対峙するパレスチナ人
ハマスの軍事部門アルカッサームの戦闘員(2007年)
ハマス支持者のデモ(2003年)
イスラエルによる攻撃を受け、瓦礫と化したガザの街並み
イスラエルによる攻撃を受け、多くの住民が家を失った
ハマスの越境攻撃(2023年10月)直後から続くジャーナリストMの現地報告(2023年)
ジャバリア難民キャンプの通り(1993年)
『ガザからの報告』作品概要
●第一部『ある家族の25年』(120分)
故郷を追われ、ガザ最大の難⺠キャンプ「ジャバリア」で暮らすエルアクラ家。土井敏邦は1993年9月の「オスロ合意」直後から住み込みで取材を開始した。職につけず、結婚もままならない息子たち。家族と共に故郷 へ戻れる日を待ち続けている父。イスラエル軍の撤退、解放、パレスチナ自治政府の誕生。「和平」ムードに人々が歓喜する一方で、父は「これは本当の和平ではない」と怒り、故郷への帰還を諦めて家の増築を始める。パレスチナ初の選挙が行なわれ、インフラが整備されたガザで、エルアクラ家の息子たちは仕事と家庭を持ち、新たな生活を送っていた。しかし自治政府の独裁・強権政治と腐敗が深刻化し…。25年の歳月をかけエ クアクラ家の人々の人生をみつめた本作はガザ住⺠にとって「オスロ合意」とは何だったのかを問い、「ガザのパレスチナ人」と一括りにされる彼らが私たちと“同じ人間”であることを伝える。なお、エクアクラ家の人々は今回のイスラエルの軍事作戦により、消息が途絶え安否不明となっている。
4部屋しかない家に14人が暮らすエルアクラ家(1993年)
ジャバリア難民キャンプの通り(1993年)
封鎖されたエレズ検問所で許可証の再発行を待つ人々(1994年)
ジャバリア難民キャンプの解放に歓喜する人々(1994年)
パレスチナ警察は元PLO兵士たちの就職先(1999年)
アラファト議長(1999年)
バッサムの妻の懐妊を祝うエルアクラ家(1999年)
●第二部『⺠衆とハマス』(85分)
イスラエル国家を認めず、全パレスチナの解放、難⺠の帰還を掲げるハマス。彼らは貧困に苦しむ家庭への食料配布や孤児の救済、女性の職業訓練、医療支援といった慈善事業と、パレスチナ解放をめざす武装闘争の両 面で⺠衆の支持を拡げてきた。2006年の選挙と、翌年の内戦の勝利によってハマスがガザ地区を実効支配するようになると、イスラエルは封鎖政策を強化。さらにはハマスの悪政も重なり、人びとはかつてない貧困に喘ぐことになる。絶望した住⺠たちの中にはイスラム教で禁止されている自殺に走る者、ガザ脱出を図る者まで続出していた。本作は後にイスラエルに暗殺されたハマスの指導者やスタッフ、戦闘員、そしてガザ住⺠へのインタビューを重ね、ハマスが⺠衆から乖離していったプロセスを追い、今のガザの惨状の根源を浮かび上がらせる。そして今回のガザ攻撃を受けた現地からの報告を元に、インフラも人間も、すべてが破壊されてしまった現在のガザの厳しい現状を伝える。
モスクでの礼拝に集うパレスチナの人々(1995年)
ハマスによる幼稚園運営。貧困家庭の子らが優先される(1995年)
ハマスの創始者アハマド・ヤシーン(2002年)
2014年7月に起きたガザ攻撃(2014年)
ガザ攻撃により瓦礫と化したガザ市の街並み(2014年)
ハマスが呼びかけた国境での「帰還のための大行進」デモ(2018年)
貧困に耐えかねた若者たちの「生きさせろ!」デモ(2019年)
公開に先がけて発表された、土井敏邦監督とアナウンサーで文筆家の師岡カリーマによるコメントは以下の通り。
土井敏邦(本作監督)コメント
私は1985年以来、34年間、パレスチナに通い続けてきた。遠い国の人たちに起こっていることを伝えるときにまずやるべきことは、現地の人びとが私たちと“同じ人間である”と伝えることだと私は考えている。私たちはニュースが伝える数字で現場の実態を「分かった」つもりになる。しかし、あの空爆や砲撃の下には犠牲になった一人ひとりの死の痛み、悲しみがあるのだ。遠いガザで起こっている事態を、日本で暮らす私たちに引き寄せるために、⻑年ガザと関わってきたジャーナリストの私がやるべきことは、そのための“素材”を提供することではないか。ハマスによる越境攻撃から2週間ほど経た10月下旬から、現地ジャーナリストMは1〜2週間ごとにインターネットの画面を通して、現地の状況を伝えてくれた。自身も自宅が砲撃を受け、弟と義弟が殺されたMは、世界のメディアが伝えない市井の人びとの空気を私に伝えてきた。Mが命懸けで伝えてきたその“生の声”を受け取った私には、それをきちんと世界に向けて伝える責務がある。この映画はそういう役割を担っている。
師岡カリーマ(アナウンサー、文筆家)コメント
攻撃が続くガザで、砲弾が落ちる先にいるのがどんな人々で、どんな苦難を強いられてきたか、その生の声を丹念に記録した大作。夢も希望も持てず、人ではないかのように扱われても抗えず、首根っこを掴まれた屈辱的な抑圧と 貧困の中で生きるとはどういうことか。なぜハマスは支持され、いかにして支持は怒りに変わったか。人々の生活や政治意識を淡々と追うカメラの向こうから伝わってくるのは「テロ集団ハマスをのさばらせているんだから同罪だ」とイスラエルに蔑まれるパレスチナ人の、悲しいほど「普通」な素顔。何を持ち帰るか、受け手の完成も試される作品だ。【東京新聞 6/22付朝刊「本音のコラム」より】
商品情報
映画『ガザからの報告』
監督・撮影・編集・製作:土井敏邦
整音:川久保直貴
デザイン:野田雅也、尾尻弘一
ウェブ広報:ハディ・ハーニ
配給協力・宣伝:リガード
ドキュメンタリー/2024/日本/205分/Blu-ray/©DOI Toshikuni 2024
10月26日(土)よりK's cinema ほか全国順次公開
関連リンク