本作は、永らく復刊が待ち望まれていた1992年発売の評論・エッセイ集『死に急ぐ鯨たち』(安部公房/新潮文庫)に、『安部公房全集028〔1984.4.11~1989.12〕』(新潮社)に収録されている「もぐら日記」「もぐら日記II」「もぐら日記III」を新たに追加した作品。
想像不足からくる楽観主義へ警鐘を鳴らす「死に急ぐ鯨たち」、自身の創作を振り返るインタビュー「錨なき方舟の時代」、今話題の『百年の孤独』とガルシア・マルケスを語った談話「地球儀に住むガルシア・マルケス」、貴重な日常を綴る「もぐら日記」など……。多様な表現で国家、言語、儀式、芸術、科学を縦横に論じてゆく中で、1980年代に語られた言葉が、今なお社会の本質を射抜いていることに驚かされる。文学の最先端を走り続けた作家による思索の数々を堪能できる一冊だ。
撮影:新潮社
新潮社では今年の生誕100年を機に、新潮文庫より『飛ぶ男』、『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』(どちらも発売中)、『死に急ぐ鯨たち・もぐら日記』(8月28日発売)の3点を刊行。
また、8月23日(金)より問題作にして代表作の一つである『箱男』の映画が公開される(監督:石井岳龍|出演:永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市ほか)。本作のビジュアルが巻かれたフル帯バージョンの『箱男』(安部公房/新潮文庫)も7月末より各書店店頭で展開中だ。
安部公房『箱男』(新潮文庫)
他にもシネマヴェーラ渋谷で「生誕百年記念 シネアスト安部公房」(8月17日~8月13日)が開催決定。世界的な評価を集める勅使河原宏監督作『砂の女』や『他人の顔』などはもちろん、演劇『仔象は死んだ』の映像作品、アニメーション『詩人の生涯』、安部公房が監督した『時の崖』等々。安部公房が関わった映画作品をほぼ網羅したプログラムとなっている。
更に10月より神奈川近代文学館で、特別展「安部公房展──21世紀文学の基軸」(10月12日~12月8日)が開催。生誕100年を機に、再び盛り上がりを見せている安部公房。この機会にぜひご一読いただきたい。
【著者紹介】
安部公房(あべ・こうぼう)
(1924-1993)東京生れ。東京大学医学部卒。1951(昭和26)年「壁」で芥川賞を受賞。1962年に発表した『砂の女』は読売文学賞を受賞したほか、フランスでは最優秀外国文学賞を受賞。その他、戯曲「友達」で谷崎潤一郎賞、『緑色のストッキング』で読売文学賞を受賞するなど、受賞多数。1973年より演劇集団「安部公房スタジオ」を結成、独自の演劇活動でも知られる。海外での評価も極めて高く、1992(平成4)年にはアメリカ芸術科学アカデミー名誉会員に。1993年急性心不全で急逝。2012年、読売新聞の取材により、ノーベル文学賞受賞寸前だったことが明らかにされた。
商品情報
死に急ぐ鯨たち・もぐら日記
【著者】安部公房
【発売日】2024年8月28日(水)
【造本】文庫
【定価】935円(税込)
【ISBN】978-4-10-112127-7
【発行】株式会社新潮社
【内容紹介】
生きる理由に解答がありえないように、書く行為にも理由などあるはずがない──。長年、内面を明かさなかった作家が明かしたその思想。1980年代に語られた言葉の数々は、今なお社会の本質を射抜き、我々への啓示へと変貌する。国家、言語、儀式、芸術、科学、果たして安部公房は何を考えていたのか。エッセイ、インタビュー、日記など多様な表現を通して、世界的作家の思想の根源が見えてくる。
【目次】
「死に急ぐ鯨たち」
なぜ書くか……
I
シャーマンは祖国を歌う
II
死に急ぐ鯨たち
右脳閉塞症候群
そっくり人形
サクラは異端審問官の紋章
タバコをやめる方法
テヘランのドストイエフスキー
III
錨なき方舟の時代
子午線上の綱渡り
破滅と再生 1
破滅と再生 2
IV
地球儀に住むガルシア・マルケス
「明日の新聞」を読む
核シェルターの中の展覧会
「もぐら日記」
もぐら日記
もぐら日記 II
もぐら日記 III
解説
養老孟司(1992年『死に急ぐ鯨たち』の解説を再録)
鳥羽耕史