代表曲「吉原ラメント」が人気を博し、 和楽器バンドのベーシストとしてもワールドワイドな活躍を続けている、 シンガーソングライター「亜沙」が2021年12月19日harevutaiにて「亜沙 バースデーライブ 2021~令和イデオロギー~」を開催した。
歌は世につれ、 世は歌につれ。 昭和の懐メロがいまだに聴き継がれている一方、 平成の時代にCDでのミリオンヒットを連発したJ-POPはひとつの文化として定着し、 今やサブスクがあたりまえとなった令和では演歌歌手やアイドルに混じってボカロ界隈出身のアーティストまでもが紅白歌合戦に揃って出演するという、 まさに音楽の世界でも多様性がより尊重される時代になってきたと言えようか。
和楽器バンドのベーシストであるのはもちろんのこと、 ネットミュージックシーンにおける名曲「吉原ラメント」でも知られているように、 敏腕ボカロPとしての活動も積極的に行っている亜沙が、 このたびはソロアーティスト・亜沙として「亜沙バースデーライブ 2021 ~令和イデオロギー~」を池袋のharevutaiにて開催したのだが、 これは2021年3月に発表した4年ぶりにして5枚目のオリジナルアルバム『令和イデオロギー』の世界を、 いよいよ観客たちの目の前で実演していく場となったのだった。
ちなみに、 前述のアルバム『令和イデオロギー』についてのインタビューを行った際に亜沙は「ここから令和の新しい価値観を大事にしながら活動していきたいなと思うし、 いろんな面で時代が変わってきている今だからこそ、 アルバムのタイトルは『令和イデオロギー』にしたんです」という旨の発言しており、 彼の音楽が時代の変化と呼応しながら生まれてきているものであることはまず間違いないと見て良さそう。
かくして、 今宵のライブにおいて1曲目を飾ったのは過去に想いを馳せながらも現代の日常を生きる主人公の視点で描かれ、 途中にはさみこまれる〈時代に流され続けるように 息を殺して祈ってた〉という歌詞がやけに印象的に響く「遊廓跡地」。
アルバム『令和イデオロギー』のジャケット写真さながらに、 艶やかな緋色をした着物に、 黒の薄い紗布で織られた打ち掛けを羽織り、 花魁の定番であったという横兵庫の型で髪を結い上げた亜沙が、 愛用する楽器を自ら奏でながら歌っていくベースヴォーカル・スタイルもあいまって、 そこには不思議な説得力が生まれていたと言っていい。
そこはかとない和を感じさせる旋律と現代的ポップセンスの融合した「紡縁-bouen-」、 アップテンポなビート感を背景にわびさびの利いた歌が響く「桜の歌が流れる頃に」、 モダンなサウンドが鳴る中で亜沙の声質を活かしたヴォーカリゼイションが映えていた「Automata Love」。 あらためてライブの場で聴いてみると、 アルバム『令和イデオロギー』の収録曲たちがより味わい深いものとして感じられるのは、 やはり生ライブならではの臨場感が寄与しているところも大きいのだろう。
イマドキは配信ライブも手軽でありがたいと感じる場面が多くなってきたとはいえ、 それでも生感のリアリティに勝るものはそうそうないのも事実。
「今日は「亜沙バースデーライブ 2021 ~令和イデオロギー~」ということで、 3月に発売したアルバムのタイトルを冠したライブとなっております。
今年は亜沙ソロのライブがなかなか出来ないような状況があったので、 今日がライブおさめということにはなるんですが、 ほんとにコロナの影響で『令和イデオロギー』のライブが出来ないんじゃないかっていう感じが続いてきましたからね(苦笑)。 今回はこうして無事開催することが出来て嬉しいです、 みなさんありがとうございます!!」
本編中盤では、 敢えて亜沙がベースを置きハンドマイクを手にしてのアクティヴなパフォーマンスで観衆たちを惹きつけた「Moonwalker -月の踊り手-」や、 亜沙がデスボを駆使しながらアグレッシヴに歌ってみせた「幻想リアクション」で場を一旦は派手に盛り上げつつ、 このあとには一転して亜沙がかつてバイトをしていた頃の実体験を基に作ったという「労働者のバラッド」と、 フォーキーで朴訥とした普遍性の強い調べが聴く者たちの心に沁みいっていくことになった「just close to you」では、 いわゆるアコースティックなかたちで楽曲たちがプレイされることによって、 今回のライブはより感慨深さの色合いを深めていくことになったのだった。
その後、 本編後半のクライマックスに向けては2021年で誕生から10年を迎えた国民的ボカロ曲「千本桜」や、 かつて亜沙が好きだったという90年代ヴィジュアル系の匂いがほのかに漂う「茜色フッテージ」にくわえ、 昭和歌謡の名曲である沢田研二のカバーとなる「TOKIO」も披露し、 そこからアルバム『令和イデオロギー』の中でも良い意味で特殊な存在感を持った「平成が終わる日」(※この曲は平成が終わる平成30年4月30日にYouTubeで初公開されたものとなる)へと繋がっていく流れは、 これまた時代感をそれぞれにうかがわせるようなかたちになっていたのではなかろうか。
なお、 季節外れな曲ではありながらも逆に夏への憧憬が掻きたてられた「あの八月に帰れたら」で本編後半を締めくくったあとのアンコールでは、 再びアッパーチューン「哀愁レインカフェテリア」でオーディエンスたちと盛り上がっていく一幕もあり、 その後には亜沙から以下のような言葉を聞くことも出来た。
「僕のプロとしてのキャリアは「吉原ラメント」を切っ掛けに始まったんですけど、 当時は実家の机でいそいそと作ってたわけですよ(笑)。 そんな「吉原ラメント」も今ではたくさんの方々に愛される曲になりまして、 なんと来年は10周年なんですよね。 これからも20年、 30年とみなさんに歌い継がれていって欲しいなと思っておりますが、 (中略)最後はその「吉原ラメント」を聴いてください」花魁のごとき魅惑的な格好で、 亜沙が舞台上で歌ってみせたこの曲は今もなお新鮮な輝きに溢れていた。
歌は世につれ、 世は歌につれ。 時代の空気を絶妙に作品へと反映させながら亜沙が生み出していく独自の音楽世界が、 これから先にどのような変化をみせていくのか…。 2022年に向けてもソロアーティスト・亜沙の動向は期待大である。
亜沙バースデーライブ 2021~令和イデオロギー~ 昼公演 SETLIST
M01 遊郭跡地
M02 紡縁-bouen-
M03 桜の歌が流れる頃に
M04 Automata Love
M05 Moon Walker-月の踊り手-
M06 幻想リアクション
M07 労働者のバラッド
M08 Just close to you
M09 千本桜
M10 茜色フッテージ
M11 TOKIO
M12 平成が終わる日
M13 あの八月に帰れたら
ENCORE
Ec1 哀愁レインカフェテリア
Ec2 吉原ラメント
文:杉江由紀
撮影:加藤千絵