人の作品の一部になるということ
──演技について伺いたいのですが、まず、6月に2日間、mihoさんが出演されたシューゲイズ・ミュージカル朗読劇『ノヴァーリスのこどもたち』…一体どういう作品だったんでしょうか?
miho:名前からしてヤバそうな匂いが漂ってますよね(笑)。朗読劇って言うからにはてっきり椅子に座って本を読んでっていうイメージだったんですけど、蓋を開けてみたら想像以上にがっつりミュージカルでした。ステージ転換がバンバンあって動きまくるし、めちゃくちゃ激しくダンス踊るし、歌もたくさん歌いました。事前にレコーディングした歌を流しているケースもあるんですけど、生で1人で歌うシーンもあったので、本当に初めてのことだらけでしたね。でも、もともとダンスとかバレエをやっていたので、久しぶりにそういう機会いただけて、とにかく楽しかったです。
──結構役作りもされたんですか?
miho:そうですね。脚本家の方がもともとMoon In Juneのライブをよく見に来てくださっていたMy Little miniiatue Gardenっていうユニットさんなんですけど、いい意味で脚本がめっちゃクセ強くて難解だったんですね。演劇部が舞台の作品で、その中でさらに演劇部員として作品を演じるっていう、劇中劇みたいな。しかもタイムトラベルありのSFな世界なんですよ。だから観てるお客さんもそうだし、演じてる私たちですら、これは今劇中なのか、劇中劇の方なのか混乱するぐらいの不思議な作品だったので、役作り以前に、まずそこに慣れるのにかなり時間がかかりました。しかもその時期はバンドのツアー中だったので大変でしたけど、楽しい方が勝ってたから全然平気でしたね。セーラー服も着させてもらえたし(笑)。共演者の方々が舞台をメインに活動されている方が多かったので萎縮しちゃう部分も最初はありましたけど、分野は違えど表現者同士っていうことで「負けてられないな」っていう気持ちもあって、だんだん照れくささはなくなりましたね。
──10月に上映された短編映画『キアがいた』の方はどうでした?
miho:撮影自体は4月ぐらいに始まったので、『ノヴァーリスのこどもたち』の稽古と撮影が同時期だったんですよ。
──売れっ子女優さんじゃないですか(笑)。
miho:本当ですよね(笑)。でもめっちゃ楽しかったです。20分間の映画なんですけど、桜並木の公園のシーンもあれば、木枯らしが吹いてるシーンもあったので、4月から10月までの半年間の中で結構時間をかけて撮影しました。
──メンバーさんも出演されているんですよね。
miho:一瞬ね(笑)。カフェのお客さん役のエキストラで、セリフはほぼないよね。
hiroya:「ここみんなで言ってください」っていうのはちょっとあったんですけど。でも楽しかったですね。ロボットみたいなカクカクッとした動きをして(笑)。
miho:ロボットダンスみたいな(笑)。監督さんいわく、時空の歪みをそれで表現したかったって。『ノヴァーリスのこどもたち』と同じ監督さんなんですけど、『キアがいた』もSFチックなタイムトラベル的な作品で。『ノヴァーリスのこどもたち』に比べたらまだ話が分かりやすかったよね(笑)。
──普段曲を作る時は、人の作品を自分の中で消化して曲に落とし込んでいると思うのですが、自分が人の作品の一部になるというのはどうでした?
miho:本当ににそれは違いましたね。まずは作り手へのリスペクトがあり、自分が作った音楽を歌ったり表現する時よりも丁寧な気持ちでやりましたね。作品についての解釈を委ねる方でしたけど、なるべく汲み取ろうと頑張りました。バンドでも、他のメンバーが歌詞を書いた曲を歌う時の方が歌い方が丁寧になってるって指摘されたことがあって。自分で音楽を作っている時以上に感情と向き合えるというか。普段求められる社会的な役割としての自分という殻を破ることができる気持ちよさがありました。それは音楽の表現活動にもつながっていくと思います。本当にいい機会で楽しかったですし、もしまたやれるならぜひやりたいです。
gouko(Gt)卒業
──そして、10月にはgouko(Gt)さん卒業の発表がありました。
miho:実は、1年以上前から「活動ペースについていくのがちょっとしんどい」っていう申し出が本人からあったんです。我々と一緒にスタジオ入って制作をするのはすごく好きみたいなんですけど、ライブが多くなってくるとしんどいというか。自分でコントロールできる形でマイペースに音楽をやりたいみたいな思考だったんですよね。かなり繊細な人なので、「自分がMoon In Juneのギタリストとしてプレッシャーに耐えていける気がしない」って。全然そんなことないんですけど。なので、ちょいちょいお休みしてもらって、サポートギターさんにお願いしつつ1年やってきたんです。goukoさんは聴いてきた音楽とか好きな音楽が近かったので、「誰々のこの曲っぽくしたい」って言うとすぐ分かってもらえて、本当に助かっていたんですよね。制作面では本当に頼りにしていたので、結構引き止めちゃいました。
hiroya:ギターのリフとかアイディアを豊富に出してくれたり、かなり制作の面では役割が大きかったんですよね。アルバムに入ってる「Asleep」はgoukoさんが作ったんですけど、mihoさんやSU(Gt)さんが作る曲とは一味違っていて。他の曲にも随所にgoukoさんならではのギターのフレーズやリフがあって、それがMoon In Juneのサウンドの1つの重要な要素でもあったんですよね。でも、完全に関係がさよならっていうわけではないから。
miho:ライブもよく観に来てくれてるしね。「俺こんなすごいバンドでギター弾いてたんだなって思った」みたいな感動を伝えてくれたことが何度かあって、彼の音楽人生の中でのいい歴史になっているのかなと思えたので、それはありがたいことですね。
見つける色、染まらない部分
──そもそも「色彩を持たない」というのは、村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』からきているんですか?
miho:そうです。村上春樹大好きなんですけど、まず「色彩を持たない」っていうワードがめっちゃかっけえ! と思って(笑)、お借りしました。
──主人公が自分自身の「色」を見つける旅に出るというストーリーが今回のアルバムやツアーとリンクしていますよね。LOFTワンマンのタイトルも『モノクロ/カラー』ですが、ツアーを回って見つけた色はありますか?
hiroya:『モノクロ/カラー』っていうアイディアの元は、よく映画のVHSとかDVDのパッケージの裏に書いてあるやつです。今はカラーが主流ですけど、たまに白黒の映画が途中でカラーになったりモノクロになったりする作品があるなと思って。表記としては、カラーがまず先行でモノクロなんですけど、これって最初は色がないんだから白黒(モノクロ)で、その後に色(カラー)がついていくんじゃないの? って。だからワンマンで色が付いてくるのかな? それが何色なのかはメンバーそれぞれだと思うんですけど。っていう意味がそのタイトルにはあります。
miho:モノクロからカラーへの変わる過程を一緒に見守ってちょうだい! みたいな(笑)。
──まだ色を見つけている最中なんですね。
hiroya:そうですね。ワンマンで何か色が発見できるかもしれない。それが最終目的というか。ちなみに、このツアーで出したグッズのTシャツがあるんですけど、もともとカラーだったものを白黒にして売り出しているんです。そういう細かいところにも「色彩を持たないで」っていう意味を凝らしています。
miho:モノクロの世界の中にも色を見せられるような音楽を届けようっていうね。
──その一方で、「The Sky Crawlers」の最後のセリフの部分では、「たぶんきっと、こんな表現ではわからないだろう」「わかってもらう必要などないのだ」という小説『スカイ・クロラ』の文章を引用されていますが、つまり、そこが何色にも染まらない絶対領域の部分というか。
miho:まさにおっしゃる通りですね。敬愛する森博嗣先生の小説にそういう一節があったので、ちょうど言いたいこと言ってくれてるなと思って。『スカイ・クロラ』を初めて読んだり、映画を観た時に受けた印象が曲の雰囲気に近いものを感じたからタイトルを拝借したり、歌詞も若干近づけました。でも、特にその最後の一節は、小説のストーリーを抜きにしてもダイレクトに自分の伝えたいことを代弁してくれていたので。
──『色彩を持たないで』というアルバムを出してツアーを回ったこの1年は、バンドにとって大きな1年となりましたか?
miho:そうですね。全国を回ったのももちろんそうなんですけど、やっぱりLOFTワンマンがめちゃめちゃデカいですね。今でもまだ「本当に大丈夫かな?」っていう気持ちがなくもないですね。自分たちにとって最大キャパだし。でも、お客さんがどの地方でもいっぱい来てくれたので、それは成長を感じた点です。LOFTでワンマンやるならどの地方へ行っても動員できる力は必要だと思っていたので、そこは結構クリアできたかなと思います。
hiroya:本当にLOFTワンマンはすごくチャレンジですね。まず、このワンマンがあってっていうことだったし、全国ツアー自体が初めてだったので。目まぐるしくも濃厚な一年でしたね。
















