最後のディビジョン・ラップバトルが始まり、シリーズとしても最高潮を迎える映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』。投票によって物語が変わっていくという映画の新しい楽しみ方にも挑戦している本作はシリーズファンのみならず多くの映画・アニメファンからも注目されている。この意欲作はどのように作られたのかを監督・辻本貴則とポリゴン・ピクチュアズ プロデューサー・中岡亮に聞いた。
[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
迷うことなく進めることが出来ました
辻本貴則:映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-(以下、ヒプムビ)』いかがでしたか。
――凄く新鮮な体験でした。残念ながら私が応援していたチームは2回戦で敗退してしまったのですが、映画鑑賞ではあまり感ずることがない“悔しい”という気持ちになりました。『ヒプムビ』ではストーリー分岐があり推しが優勝する可能性があるので、そういう感情を持てるんですね。
辻本:応援していたところが勝ち進めなかった場合、少し放心状態になりますよね。
――そうなんです。「ああ、負けた」と思って、でも物語は進んでいく。映画としてだけではなく、体験としても新鮮で楽しかったです。
中岡亮:ありがとうございます。楽しんでいただけて、良かったです。
――『ヒプムビ』は最初からCtrlMovieによる分岐を前提で作られたのですか。
中岡:時系列的には映画の企画が先行です。ですが、比較的序盤からCtrlMovieの存在を東宝さんからご提案いただけて、ストーリー分岐を実現できることになったんです。CtrlMovieがあるから『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-(以下、ヒプマイ)』で何かをやってみようという時系列でないのは、僕たちの中では大きなポイントです。
――上映中に投票して分岐しようというのは、CtrlMovieを知る前から考えられていたのですか。
中岡:そうです。ディビジョン・ラップバトルを映画館に持ち込みたいというご提案をキングレコードさんからいただいて、一緒にやりましょうとなりました。ストーリー分岐を実現できるかは、劇場運営の話にもなるので配給会社さんに話を聞いてみましょうかと相談した流れになります。CtrlMovieを含め初めてのことなので、多くのみなさんにご協力をいただいた作品です。
――チャレンジという側面も大きいのですね。以前に「平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat.スーパー戦隊」など事前投票でエンディングが変わるというものはありましたが。
辻本:良くご存知ですね。でも今回はリアルタイムですからね。
――上映中に投票となると必ずスマートフォンを見てくださいという作品になります。それはスクリーンから目を離すことを前提になりますが、戸惑いはなかったですか。
中岡:ありませんでした。バトルものだったのもCtrlMovieと相性が良かったんだと思います。
――演出をされた辻本監督はいかがでしたか。
辻本:最初からLIVEで投票という話を聞いていたので戸惑いはありませんでした。現実のLIVEでも曲間にMCなどがあったりして一度落ち着くじゃないですか、あの感覚だろうと思っていました。
中岡:ストーリーも楽曲も濃密に描かなければと言われていたら、バランスが取れなかったと思います。キングレコードさんからは「ちゃんと勝ちと負けは見せたい。」とオーダーがあるぐらいで、ほかは私たちに委ねていただけました。なので、勝ち負けの感情の部分に注力して構成していきました。音楽映画ということを重視して進めていけたのが良かったと思います。
――この企画だと複雑な伏線を入れづらいですね。要素を入れていたけど、このルートだと生きないみたいなことも。
中岡:それを本気でやろうとしたら脚本会議が終わらなかったでしょうね。今回は音楽が主役だよねという共通認識を持つことが出来たのでシンプルなストーリーで楽しめる作品になりました。
辻本:本作では“Final”とうたっているのでその点をどう描こうかと考えていきました。キャラクターが勝った時・負けた時にどうリアクションするか、原作サイドのお話を聞きつつ構成していった形です。脚本家の百瀬祐一郎さんは『ヒプマイ』シリーズにずっと携わっていらっしゃるので、迷うことなく進めることが出来ました。