40年を凝縮させて放つことができた最新作『Fragment of Time』
──普段はこんなに喋る人がなぜライブでは喋らなかったのか、そして今はなぜ喋るようになったのか、よくわかりました(笑)。
YANAGIHARA:ナチュラルに挑んでも、曲を始めればちゃんとやれる、ちゃんとハイになれるっていうふうに変わってきた。MCでいくら喋っても、曲を始めたら空気を変えられるって自信がついたんじゃない? おっさんになって(笑)。で、その経験を、どう音で出すかっていう。
──もちろんそういうことは音にも反映されて。
MIZUSAWA:昔は自分の内側に向かっていくような意識で音を出してたけど、インに籠る必然性がこの歳になってくるとなくなってくるので。今はこう、アウトプットを重要視してるかな。音源で言うと『Ⅲ』まではインな方向で…。昔は自分の内側を突き詰めようとしてたし、内側に向かってた。今は凄く外側に向けた音楽をやってる。
YANAGIHARA:メンタル的なことだけじゃなく、実際今回はレコーディングも楽しくて。レコーディングしてくれた人、エンジニアの三木君は前作もやってくれたってこともあって、凄くコミュニケーションとりやすくて。こっちのアイディアをちゃんと嚙み砕いて具現化してくれて、凄く楽しく上手くいった。そういうのは音に出てると思うし。
MIZUSAWA:レーベル(HELLO FROM THE GUTTER)の松田さんも前作から引き続きリリースしてくれて、感謝しかないよね。
──曲の内容の視線も変わってきたよね。以前の歌詞は外から自分に向かっていた。俺はどうするんだ? って自分自身に問いかけるようにね。今回は自分自身が社会や世界に問いかけてるような。どうするんだ? この社会! って感じがする。
MIZUSAWA:あぁ、なるほど。そうだね。やっぱり怒りはあるよね。昔は自分に返ってくるような歌詞だったけど、今は外に対して疑問とか怒りとか、そういう気持ちのほうが確かに強い。生きてて楽しいことなんか日常では少ないじゃん。頭にくることが多い。原発は何も解決してないのに続けようとしてる。ウクライナ、ガザ、本当に酷い状況。岸田政権で俺たちの暮らしはどんどん苦しくなってる。疑問がないほうがおかしいよね。
──疑問こそパンクロックの大きなテーマかもしれないしね。
YANAGIHARA:おぉ、そうだね。
──だからこそアグレッシブなアルバムになったんだ。
MIZUSAWA:疑問とか怒りであってもネガティブの方向には行ってないと思う。アッパーなものを作りたかったし、アッパーなアルバムになったと思う。
──1曲目「Think」からガツンと。3曲目「Luck」のギターなんか凄い。どの曲もダイナミックでアッパー。ヒリヒリしつつ堂々としてる。
MIZUSAWA:今回はニューウェイヴだったりオルタナティブだったり、外に向かうジャンクだったり。ちょっとそっちを意識して。
──5曲目「Sway」はポストパンク的な。
MIZUSAWA:そうだね。ちょっとポップで。
──曲によってキーボードが入ってる?
SHINOHARA:それ、俺です。CDはライブとは違うからね。やれることやってみようと。
──でもやっぱり3人で。
MIZUSAWA:3人でやりたいってのは常に思ってる。例えばギターもう一人入れたりさ、他の楽器、サックスとか入れたりさ。そしたらバリエーションは広がるだろうし、楽だろうけど。でもそれを3人でやりたい。ゲストでギターを入れて2本のギターでやるより、ギターとベースの絡みで作ってみようって思うし、サックスを入れるより、サックスの音を俺らの演奏で出そうって思う。ゲスト入れて4人でやることを3人でやるほうが凄いと思わない? 俺たちの発想は広がっていくはずだし、だから音も広がっていくよね。うちらにとって新しいことは、3人だからこその音なんだよ。
SHINOHARA:それで聴いた人が今までにない感覚を持ってくれればいいなって思う。今までこんな音楽聴いたことない、こんな気持ちになったことないっていう。
──それをずっと探していくのがスピアメンなんでしょうね。
MIZUSAWA:個人としてもそうだけど、バンドとしてもさ、40年もやってればそりゃいろいろあって。曲作りだったり自分のプレイに対してだったり、RYUTAとSHINOちゃんは脱退した時期もあってさ。3人ともそれなりに苦しんだりしてきたのよ。でもその先に今があって、今回の『Fragment Of Time』がある。今でも曲作りとか自分のプレイとか、やっぱり苦しんでる。いまだに苦しんでるよ。でも苦しんでいいのよ。新しいとこに行きたくて苦しんでるんだから。その時間の積み重ねの40年で、その先に行けるって知った40年っていうね。だって今までが凝縮されて放つことができたのが、今回の『Fragment Of Time』だからね。まだ苦しむんだろうけど、その先がまだまだあるからね。