社会人として働く男性二人による初々しく甘酸っぱい恋模様を描いたBL作品『その恋、自販機で買えますか?』。現実でありながら、少女漫画・おとぎ話のような空気を持つ本作はどのように作られていったのか。主演の一人である山下諒真を演じた田鶴翔吾に話を聞いた
[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
学生時代を思い出す甘酸っぱい気持ちになりました
――映画『その恋、自販機で買えますか?(以下、こいじは)』は原作コミックのある作品ですがご存じでしたか。
田鶴翔吾:お話をいただいてから知りました。
――BLとなると男性はあまりなじみがないジャンルですからね。
田鶴:自分で言うのも何ですが、原作を読んだ時にいけるなと思いました。原作から面白かったです、いい意味で壁を取り払ってくれる作品で、読んでみたら学生時代を思い出す甘酸っぱい気持ちになりました。
――私も原作を読んだ時は少女漫画を読んでいるような気持ちになりました。柳ゆり菜さんが演じる小岩井歩同期の大石さんもゲイであること知っていますし、社内では隠していないのかもしれないですね。
田鶴:かもしれないですね。小岩井役の松田凌さんとも人と人との恋模様に着目してやっていこうと話していました。
――そこよりはちゃんと付き合ったことがないという初々しさに焦点が当てられていますよね。
田鶴:大石も小岩井という人間を知っていて、同僚として恋愛を応援している。大石の台詞で「簡単じゃないね恋とか愛とか、真剣になるほど」といのがありますが、それは男女問わず持つ悩みなんでしょうね。
――だからこそ、大石も二人の恋を純粋に応援していて、相談にものっているわけですから。
田鶴:そうですね。
――恋愛感情で言うと山下諒真の方ももとから小岩井に恋心があったのかなと思ったのですが。
田鶴:恋愛の気持ちの部分ではもしかしたら同じくらいかもしれないけど、山下の方が分かりづらいようになっていますよね。演じる際もそこは意識していて、あえて僕はスローテンポのお芝居をしました。
――そういう心情の描き方、素晴らしかったです。分からない部分があって不安で踏み出せないということもありますから。
田鶴:男女のストーリーでは男性らしく女性らしくとあえて描くこともありますが、『こいじは』同性の恋愛なのでどっち部分も持っていることが描かれています。人間は本来そうじゃないですか。
好きの高低差を使って物語が描かれている
――おっしゃる通りです。状況によって表に出てくる部分が違うだけですから。
田鶴:二人が見た目じゃなく心の方で引かれたのも大きいですよね。小岩井が山下のふとした優しさに触れたことで恋心が芽生えたわけですから。
――私の好きなシーンです。そこが自然だからこそ、素直に二人の関係を受け入れることが出来ました。
田鶴:山下もそのことを覚えていないということは本当に人として心配しているんですよね。それは小岩井じゃなくても助けていたんだろうということが分かるいいシーンですよね。
――山下も知らない人を助ける勇気を持っていますが、小岩井から見ても山下は外部の人です。助けてもらったお礼を言うくらいは分かりますが、仲良くなろうと声をかけるというのは大人になるとなかなかない事ですね。
田鶴:しかも取引先という訳でもない。
――そういう好きになったら止まらないというのは久しく忘れていた感情でした。
田鶴:そういうところからも、大人同士の恋愛ではありますが初々しさを感じましたね。
――こういっては何ですが中学生の恋愛ですよね。
田鶴:確かに(笑)。
――その感情はすんなりと表現できましたか。過去に経験はあったことも年を重ねていくと昔のこととなってしまいますし、大人の二人なので10代の初々しさとはまた少し違っている部分なのかなと思いますがいかがでしょうか。
田鶴:特段初々しくやろうとは意識してなかったです。テクニックあるなしを考える前の恋愛模様なので、原作を読んで受け取ったものをもって現場に臨めたと思います。松田さんともその部分について話し合うとかはなかったですが、いい空気で出し合えたのかなと思います。
――そうやって素直に出していただけたのが良かったんだと思います。本当に漫画がそのまま映画になっていると思いました。
田鶴:ありがたいです。僕自身は映像作品の経験はほとんどなくて、最初に「ご迷惑をおかけするかもしれないですが、よろしくお願いします。」と松田さんに言ったときに「気にせずに来てくれたらいいよ。」と受け止めてくださったので素直に身を預けることができました。僕もいい意味で手札がない状態で撮影に臨めたので、そこが実直さを作りすぎない形に繋がったのかもしれません。
――演じられている役者のかたからにじみ出る人間味がキャラクターの空気感を作り出しますから。本当に田鶴さんと山下のキャラクターが嵌っていたんだと思います。
田鶴:ありがとうございます。
――本人たちは隠しているつもりなんでしょうけど、外から観ていたらバレバレな何も隠せていない二人ですよね。単純に恋愛作品として観てももどかしくて見てられない部分もありました。
田鶴:分かります。見る人が見れば羨ましい関係性ですよね。僕はこの作品は相手を否定しないというところが好きです。嫌になったなどマイナスな表現を入れると物語の流れとしても作りやすいと思いますが、好きの高低差を使って物語が描かれているのが『こいじは』の凄い部分だと感じています。
――好きの高低差でいうと山下は複数回告白をするじゃないですか。その感情表現のグラデーションではどのようなことを意識されましたか。
田鶴:実は最初に撮影に入ったときは僕の演技のテンポ感が少し早かったんです。谷健二監督から「お互いの空気感の差をつけるという意味で少しゆっくりしたものを意識してほしい」といただいたので修正をしました。そうやって演じているなかで自然と演じたものなので、シーンごとの好きのグラデーションを意識してということはなかったですね。もちろんシーンごとに違いがあって、はじめの方は焦りもあった告白だったのが最後は包み込むハグに近い告白なので、そこの違いはありますね。
――お互いを知ったからこそ安心して伝えることが出来るという気持ちの違いはありました。
田鶴:画的なもので言うと肌が触れているというのが差として大きなと思います。嫌がっている気持ちに気づける人という山下の本質が出ていると感じました。劇中でも小岩井を困惑させてしまったときはスグに「ごめんなさい。変なことを言って」と謝っていますが、手の震えや温度とかで気づけるひとなんでしょうね。だからこそ、「OKだったら、目をつぶって」ということを言えた。
――そのつたない駆け引きも観ていてエモかったです。
田鶴:良かったです。