2023年1月24日、2ndアルバム『PALE』をリリースした内藤重人による「Pale Additional FINAL」が7月25日、三軒茶屋Grape Fruit Moonにて内藤重人、GOMESS、成宮アイコ×クロダセイイチの3マンライブとして開催決定。『PALE』に収録された「夕方、屋根裏にて」で作詞を共作した内藤重人と成宮アイコの対談。
「夕方、屋根裏にて」での共作について
内藤:アルバム『PALE』の3曲目、「夕方、屋根裏にて」に詩を提供してくれてありがとう。この曲はコーラスではなくて朗読を入れたいと思ったときに、この数年いろいろと共に過ごさせてもらった成宮さんに頼みたいなって。他人の曲の中で詩を書くことは大変だったと思うけど、どうだったかな。
成宮:自分の名義では書かないタイプの詩を書けて楽しかったです。あえて現実的過ぎない言葉を選びました。自分の名義で作りたいものとは方向が違ってしまうのでなかなかタイミングがなかったのですが、こういう詩も本当は書きたいんです。歌詞提供をするときの書き方と似ていました。
内藤:なるほど。たとえばアイドルさんに歌詞提供するときの書き方ってこと?
成宮:そうです、人への当て書きだと想像の余白が作れるんです。反対に、自分の作品は誰もがほぼ同じ想像ができる言葉しか使いたくないんです。たとえば、“雨に濡れた金属の灰皿に残る白い灰”って書けば、だいたいみんなが同じ風景を思い浮かべますよね。その灰を悲しいと思う人もいるだろうし、汚いと思う人もいるだろうし。同じものを見てそれぞれがなにを考えたかが知りたいんです。でも“雨が降っていた”くらいで書くのをやめてみたい気持ちもある。だから今回の詩を書くのは楽しかったです。
内藤重人
内藤:僕はトラックに対してメロディよりも朗読風なものが主体になってしまいがちなんだけど、それだけだとあんまり芳しくないなって思う気持ちがこの曲にはあったから、サビを作って女性の朗読を入れたいって思ったのかもしれないね。映画を観たり本を読んだりするインプットは創造するためには大切だと思うんだけど、共作のように自分の音楽のなかで与えてもらうインプットっていうのはまた違う大切さがあると思うんだ。
成宮:この詩も、個々に完結したものを持ち寄ったのではなくて、部分部分で送りあいながら書きましたよね。
内藤:ここ最近少しだけ頑張ったと思っていたところもあって、言葉や描写が枯渇気味になっているような気がしたんだ。一行二行なら詩を書けるんだけど、その先がなかなかしんどくてね。特に、「夕方、屋根裏にて」は最後に作った曲だし。でも、トラックが好きだったから殺したくなかったんだ。だから成宮さんの詩が存在してくれたことによってその先の構成も浮かんで、完成まで辿り着けたんだと思う。
成宮:言葉を書きながら相互に影響を受けるのは面白いなと思いました。内藤さんが2番Aメロで『ライ麦畑でつかまえて』の主人公・コールフィールドの固有名詞を出したから、わたしもメルヴィルのバートルビーって書いたんです。この詩で唯一自分っぽいと思うのは、イントロです。“夜だけ買えるサンドイッチ”って本当に夜だけ開くサンドイッチ屋さんが歌舞伎町にあるし、“夜だけ使える名前”は夜にしか遊んだことのない友だちはみんな本名を知らないから。全て現実のこと。
実は詩よりも発音と音質
内藤:曲のラストで少しエフェクティブになった成宮さんの声と俺の声が同時に鳴ってるけど、声の相性が良いなと思ったんだよね。俺の声ってちょっと丸い質感があると思うんだけど、二人の声が混ざるとピリっとなる。もしかしたらそれを察して成宮さんが読み方を変えてくれたのかもしれないけど。
成宮:声質がペタっとしないようにとは意識しました。わたし、内藤さんに勧められてマイクをゼンハイザーに変えてから現場やレコーディングで全然困らなくなったんです。湿度が出ないし、さ行がちゃんと出る声質になる。内藤さんはさ行が出ますよね。
内藤:子どものころは出なかったんだよね、特に「す」とかは言えなかったかもしれない。少しそれが物悲しかったような記憶があるよ。どこかで意識してるんだと思う。成宮さんが表現したいものを受け止めてくれるマイクとの相性が良かったのかもしれないね。
成宮:さ行が丸くなると嫌なんです。滑舌じゃなくて、音の刺さり方と残り方。そこに変なこだわりがあるんです。だから、息を吸う音も消さないでもらっています。
内藤:制作が終わった後も自分の音楽を聴ける?
成宮:わたしは聴きます。収録したものがいちばんその曲に合ったニュアンスだと思うので。逆に聴いていないと、普段のしゃべるニュアンスのまま朗読をしてしまって失敗します。音程を下げる下げるってイメージをしてから声を出さないと、しゃべり声の高さになってしまうから。
内藤:成宮さんは声量自体は別に小さくないもんね。ニュアンスは喉で対応ができる?
成宮:喉を閉じるのもありますけど、意識も大きいです。たぶんわたしが出したい理想形の声って内藤さんの声なんですよ。直線でレイヤーがいっぱい掛かっているみたいな。同時にいろんな高さの音が聞こえる気がします。
内藤:いろんな音、するよね。昔は耐え難かったけど。でも、これは技かもしれない。そういうボーカルが好きだったから、その人のように歌っていたら近づけたのかも。曲が求めているものとその人がそこにいる意味みたいなのがあるんだと思うんだけど、それはピッチが素晴らしく完璧というところよりも、語尾のニュアンスだったり言葉の入り口だったりが大事な気がする。成宮さんはそういうのがめちゃくちゃうまいから。
成宮アイコ
成宮:そうだったらいいな……。Aメロの最後「破滅的な波の先で消えてなくならないで」とか「今、声を鳴らしてる!」の部分は、最初はコーラス的立ち位置の朗読にしていたんですけど、内藤さんが成宮さんらしく読んでみてと言ってくれて、言葉を投げかける読み方にしました。わたしは詩を書いてはいるけれど、言葉自体よりも発声のニュアンスとか発音のほうに気持ちをグっと持っていかれるんだと思います。
内藤:だからこそ、休符って大事なんだと思う。会話も同じようなものだよね、こういうふうに話しをしていて、ふっと黙ったと思ったら大切なことを言うみたいな。休符があってこそ、そのときのトーンに意味があるんじゃないかな。
成宮:そうですよね。発音ひとつで言葉が呼び起こす風景が全然変わる。普段、音楽を聴いていても詩の内容そのものってあんまり入ってきてなくて、メロディーにはまる単語や発音があると一気に入り込めます。
内藤:詩はちゃんと聴こうって意思がないと全編ついてはいけないよね。ふくろうずの「ごめんね」が好きだったよね。あれとかはもう……。
成宮:完璧ですよね。なにもかもがパーフェクトに好きな曲です。だって、あんなに少ない言葉数のなかで同じ言葉を繰り返す勇気……ありますか?
内藤:俺はないな。
成宮:私もないです。だから最高です。