映画を作るうえで大事にしている
――それぞれキャラクターが違いますが、子供時代を振り返るとどの子の気持ちも分かるなと思いました。いじめられていることを言えない、それを見かけても見て見ぬふりをしてしまう。
足立:昔も今もいじめられていることを親にも言えないというのは同じだと思いますし、見て見ぬふりをしてしまうこともあると思うんです。それは勇気が出ない、怖いというだけではなく、波風を立てたくないという気持ちからそうしてしまうこともあって。それは子供たちだけでなく大人でもそういう気持ちになることもあります。
――行動に移すというのはそれだけで勇気がいることですから。特に子供時代は世界が狭いのでせざるを得ないと考えてしまうこともあるのかもしれませんね。
足立:そうですね。
――そういった、子供の時の気持ちが残っているシナリオも素晴らしいなと感じました。
足立:そこは僕のダメな部分でもあるんです(笑)。自分自身が成長していないわけですから。
――そんなことはないです。誰しもが子供時代を経験して大人になります。成長することは良いことですが、子供のころの気持ちをなくすことが良いことではないです。子供の純粋な気持ちと大人としての経験を合わせ持てるのが理想だと思っています。しかし、子供時代を振り返ると想像以上に狭い世界しか見る事が出来なかったんだなと思いますね。
足立:学校と家、その周辺くらいですよね。
――瞬のように友達と仲違いし、お母さんがガンになって、どんどん世界が無くなっていく恐怖。小学生だと絶望しかない。
足立:大人でもショックなことですが、子供時代だともう世界が終わるのと同じなんです。
――不良のマサは小学生をカツアゲしている時点で対した事ないんでしょうけど、小学生からすると中学生は大人というのも忘れていた感覚でした。
足立:それくらいの年齢差は大人になると同世代ですから。
――確かに、2・3歳くらいだと大学では同級生になっている可能性もありますね。
足立:高校生くらいまでだと1年差というのは大きいですが、大学以降はそんなことないんです。
――大人になって忘れていた感覚を思い出させていただけたので、子供たちが主役の本作の魅力がさらに際立っているように感じました。
足立:そう感じていただけたのであれば良かったです。
――瞬や隆造は特に自分でないものへの憧れを持っていますが、そこは足立監督が子供時代に感じていたことだったのでしょうか。
足立:そこはいまだに抱えている部分です。特に小学生の時は本当に瞬のように自分だけ普通で周りはいろいろなものを抱えても生き生きと強く生きていて凄いなと思っていました。いつか「お前は違うから。」と言われるんじゃないかという想いがあったんです。その感覚は今でもあって、映画を作るうえで大事にしている部分でもあります。
――いまはSNSでキラキラしたものが発信されているので、自分は特別じゃないと感じてしまう人も多いですね。
足立:今は誰でも発信できるので、このころより強くそういったことを感じてしまうのかもしれないですね。
――足立監督作品は本作に限らずですが、人間のダメな所も愛おしいというのがいいなと感じています。
足立:僕はどの年代のどの性別の人を描いても何故かそうなってしまうんです(笑)。
――人間関係で上手くいかないというのは大人に置き換えても成り立ちますが、子供たちを通してそれを描いたのは何故ですか。
足立:昔から子供たちが活躍する作品が好きなんです。今回のように子供たちが主人公という作品でなくても、子供が画面の中にいると面白いと思ってしまうんです。
――分かります。
足立:子供が生き生きとしていると画面も生き生きとすると昔から思っていて、それでいつか小学生くらいまでの子たちを主人公にした映画を作ってみたいと思っていました。
――実際に撮られていかがでしたか。池川さんは演技経験もないとのことでしたが、大人の俳優と相対するときとは違う部分もあったのでしょうか。
足立:池川くんや西野聡役の岩田奏くんは演技経験がありませんでしたが、大人の俳優たちと対峙するときと違う部分はなかったです。大人と違う部分があるとすれば、慣れてくると緩くなってなれ合いになってしまう部分が出てきてしまうところはありました。
――仕事半分・遊び半分みたいになってしまうということですね。
足立:その遊び半分の部分がいい感じに浮き上がって上手く収めることができれば、そうとう楽しい作品になるんじゃないかなと思っていました。
――物語としてはいじめられたり、お母さんがガンになったり、父親がヤクザだったりと重たい話なんですけど、この子たちがその重い世界に負けず明るいので楽しい映画でした。そこは足立監督が狙ったことが上手く作品に反映されていたからだと思います。最後には爽やかな終わり方で、幸せな気持ちで観終えることが出来ました。
足立:ありがとうございます。いろいろな子たちがでているので、みなさんそれぞれの視点で楽しんでもらえると嬉しいです。
©2022「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会