その瞬間の感情が乗る。だから、ライブは面白い
──曲作りについてもう少し伺うと、森さんって詞が先にできるタイプ? 曲が先でしょうか?
森:どっちでもできるんですけど、曲が先っていうことが多いですね。詞が先に書くっていうことはなかなかないです。
──今回のアルバムを聴きながら、歌詞の書き方が散文的なものもあれば昭和の詩を読んでいるかのような印象を受ける曲もあってバリエーションに富んでいて、歌詞が先というタイプかなと勝手に思っていました。
森:言葉自体が、自分の中では道具でしかないんですよ。言葉というものから感情が自動的に引き出されている感じで考えているので、言葉に従って感情が自動的に再生されるっていうイメージで書いているから、曲が先にないとどういう感情を呼び出していいか分からないっていう感じがあって。だから曲が先ということが多いですね。
──なるほど。その喩えはとても面白いです。歌詞によっては句読点を使って書いているものもあったりして仮に歌詞が読み物だとしても秀逸だなと思ったんですけど、歌詞を読んだからではなくて森さんが歌うボーカルで、ちゃんと歌詞が入ってくる。森さんのボーカリストとしての素晴らしさも出ているアルバムだと感じました。
森:褒められすぎて恥ずかしくなっちゃう(笑)。歌詞に関しては、ライブ中、初見のお客さんに1曲まるまる歌詞を覚えてもらえることってまずないと思うんで、一節で良いから覚えておいて欲しいなって思いながら書いたり、歌ったりはしてますね。(たとえばライブ後にお客さん同士で会話などをしながら)“あの曲のあそこのあのフレーズ、何やっけ?”ってうろ覚えなときに、それがちゃんと出てくるかどうかっていうのはやっぱ大事なのかなとは思っていて。歌詞でもいいし曲調でもいいから、そういうのがないといけないなとは思ってますね。
──今作は歌詞だけ見ても全曲、“この一節”といった部分がわたしはあると思っています。そんなアルバムは10曲目の「青空」で終わりかなと思ったらもう1曲、「杪春の候」でラストを飾って。お!? っていう1枚のアルバムとしての展開も見事でした。
森:そうなんですよね、そこはメチャクチャ考えて悩んだんですよ。「青空」で終わるのが綺麗なんですけど、そこからもう1周聴きたいなって思ってもらえたらいいなっていうのもあって。それと「杪春の候」を1曲目にしたかった、っていうのもあるんですよ。でも、「で?」という曲が1曲目で、もう本当に、甲乙つけ難い曲順になっております(笑)。
──1月末に大阪で行なわれた『森良太バンド緊急編成ワンマン』を配信で見ましたが、アルバム曲がかなり入れ替わったセットリストでリリースツアーも一体どんな形を組んでくるのやら?
森:そうですね、本当だったらアルバム通り(の曲順)でいいんですけどね(笑)。
──逆にそのライブを見ながら、アルバムがライブではまた違った味わいで楽しめるぞという期待感も増しましたね。
森:音源自体が録りっぱなしに近いところがあって、たとえばリズムの修正とかは全然していないんですよね。エンジニアさんが最終的に音の細部にわたる部分の調節はしてくれるんですけど、リズムは動かさないというのは注意して仕上げてくれたので。結構アルバム自体がライブっぽいっちゃあライブっぽい仕上がりではあるんですけど、ライブでもレコーディングのテンポから外れないようにとか考えつつ、とにかく結局ライブが良くなくちゃ、という思いは皆持っているので、レコーディングのときとは違うそのときの、瞬間の感情が乗るところ。これはレコーディングのときよりもライブのほうが顕著に出ると思うので、それが面白く思ってもらえるんじゃないかな、と思ってます。
──“瞬間の感情が乗る”ライブ、とても楽しみです。
森:まずは新宿ロフトから、そして名古屋に行って大阪と3カ所です。
──そんな3カ所のツアータイトルが、アルバムタイトルも入った『イーゴお見知りおきを。』ということで。
森:ダジャレですけどね(笑)、アルバムタイトルの“EGO”は日本語(発音)だと“エゴ”ですけど、エゴっていう言葉をどう捉えているかでその人の状態が分かるかなって思ってるんですね。エゴっていう言葉を聞いたとき、どうも嫌な感じがするなぁっていう方もいると思うんですよ。でも、エゴがないと人間は生きている理由や意味すらないので。それがあること自体が人間の生きる理由なのに、それに対して“エゴ、って何か嫌だな”って思ったりしている時点でバイアスがかかって偏見があることだから、それをどれくらいフラットな気持ちで、自我とか自分のやりたいこととか、自分の中から湧き上がってくる欲求みたいなものを認められるかどうかで人生の幸福度が割と変わってくるかなと思うので。“EGO”っていう単語を耳にした人が、このアルバムを実際に聴いてどう感じるかっていうのは結構、イコールかなと俺は思っていて。このアルバムを聴いたときに持つ感想が今のあなたの状態だよ、っていうのがあって、そういう思いもあって付けたタイトルですね。欲望や欲求が人を生かしているということを認めたくない人が多い気がしてて、それを認めないとそこから先はずっと空虚な気がしてるんです。自分の自我、欲望欲求を優先して満たすことは人の本能で、それがあるからこそ生きることができてるんかなぁと。まず自分のエゴを認めるところから人のエゴも理解できて、調子が良ければ尊重することだってできる。そんなふうに思うことが最近、なんか増えて。エゴという言葉を聞いて心に浮かぶ感情を見つめることで自分の状態が分かると思うし、誰かのエゴを否定すると自分がどんどん生きにくくなっていく気がしますね。
──“エゴ=自我”というワードは分かりやすいところだとエゴサーチという言い方で使われたり、自尊心といった意味もあるし、肯定的なニュアンスで捉えない向きもありますものね。
森:“承認欲求”っていう言葉もそうですけど、それって欲求じゃなく本能のレベルで大事なことで、でもそれを茶化す風潮も世の中にあって。でもそこって大事なところじゃん、っていう話で、誰かに認めてもらうっていうのは食うとか寝るとかと同じくらいの欲求だと思うので。
──アルバムタイトルからのこのお話、特に若い世代はかなり共感すると思います。そんな方たちに新作を紐解いてもらいつつぜひライブにも来てもらいたいですし、わたしも本当に楽しみにしていますね。
森:ステージの上に立っている間にできることはもちろん全力でやるとして、そこに至るまでに、曲たちを自分自身でも何回も再解釈して、それをどういう気持ちで歌ったらいいのだろうかとか、考えながらライブをやろうと思ってます。まだライブで披露していない曲もあるので、その曲の熟成具合もどうなっているか自分でも楽しみですね。