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INTERVIEW

トップインタビュー松本花奈(「明け方の若者たち」監督)- 「こんなハズじゃなかった」人生に向き合う若者たちを鮮烈に描く青春映画

「こんなハズじゃなかった」人生に向き合う若者たちを鮮烈に描く青春映画

2022.01.15

 SNSで若者を中心に圧倒的な支持を受けるWEBライターのカツセマサヒコが初めて執筆した小説「明け方の若者たち」が、北村匠海、黒島結菜を配して映画化された。

 東京・明大前で開かれた学生最後の退屈な飲み会。そこで出会った〝彼女〟に、主人公の〝僕〟は一瞬で恋をした。下北沢のスズナリで観た舞台、高円寺で一人暮らしを始めた日、フジロックに対抗するために車に乗って向かった海辺のリゾートホテル。世界が〝彼女〟で満たされる一方で、社会人になった〝僕〟は、「こんなハズじゃなかった人生」に打ちのめされていく。

 ベストセラーとなった青春小説を、「脱脱脱脱17」「ホリミヤ」の松本花奈監督が映像化した。刊行されてすぐに小説を読み、強い衝動に駆られて映画化を進めたという松本監督にお話を伺った。(TEXT:加藤梅造)

私自身が〝彼女〟だったのかもしれない

松本:以前からカツセさんとは親交があり、「小説を出した」と聞いてすぐに読みました。作中に出てくるくじら公園、ヴィレッジヴァンガードなどの固有名詞や、明大前や高円寺、下北沢などの具体的な地名が自分の生活圏と重なっていることもあって、パッと画が頭に浮かびました。

松本監督は原作文庫本の後書きで「二人はきっとこの街のどこかに、いる。いや違うか。私自身が、〝彼女〟だったのかもしれない」と書く程、物語にリアリティを感じたという。

松本:原作だと〝彼女〟の人物像が主人公〝僕〟の視点で描かれていて、彼女の心情が掴みきれない所があるので、これを映画にするのはすごく難しいと思いました。でも、だからこそやりがいがあるとも感じました。もしかしたら彼女はある側面においては悪者に見えてしまうかもしれない。だけど、それだけじゃない彼女の思いや芯の強さを映画の中で表現できないか。〝僕〟が〝彼女〟の事情を知ったうえで〝彼女〟のことを好きでいつづけたように、映画を観るお客さんにも〝彼女〟のことを好きでいて欲しいと。

後書きには「〝僕〟と〝彼女〟の過ごした時間にはちゃんと意味があったはずなのだ」とも書いているが、そこに監督の一番伝えたいところがあったのだろうか?

松本:そうですね。それと、どんな形であれ、あそこまで人を好きになれること自体が凄いんじゃないかと。周りに流されず、物事の判断基準の軸が自分の中にちゃんとある〝彼女〟に出会ったことで〝僕〟の世界は大きく広がっていきました。

これまでの松本監督の作品同様、本作でも主題歌や挿入歌が非常に重要な要素となっている。キリンジの「エイリアンズ」、きのこ帝国「東京」などが小説の中でも重要なモチーフとして登場するのと、今回映画のために主題歌を書き下ろしたマカロニえんぴつの「ハッピーエンドへの期待は」と「ヤングアダルト」は、主人公の心情の変化を表す上でのキーになっている。

松本:特に物語の前半は、主人公が自分の考えていることをあまり口に出さないので、流れる曲のメロディーや歌詞で心情を補ってあげるように作りました。「ヤングアダルト」は小説「明け方の若者たち」をドンピシャで象徴する曲だ、とカツセさんともお話していました。

主人公たちが後に自分たちにとって「マジックアワー」だったと振り返る高円寺で朝まで飲み明かした日々。その夜明けのシーンは映画のハイライトとも言える場面になっており、監督の思いが溢れ出ている。

松本:深夜2時頃に集まって、そこから朝まで何度もリハーサルを繰り返して、30分と持たない明け方の時間に備えて撮影をしました。スタッフ・キャスト全員が一致団結した瞬間でもあり、とても思い出深いです。

主人公は大学を卒業して就職した会社で希望の部署に配属されず、「こんなハズじゃなかった」と夢を打ち砕かれる。この「何者かになりたかったけど何者にもなれなかった」若者特有の心情が映画でもていねいに描かれている。

松本:物語は〝僕〟と〝彼女〟の話が軸ではあるんですが、恋愛要素だけにはしたくなかったんです。自分自身の人生がもう少し上手くいってたら、〝僕〟はあそこまで落ち込んだりはしなかったんじゃないか、と。そのリアルな感じを伝えたかった。特に20代は変化が大きい時期ですよね。30代になったら感じ方も変わってくるのかな。

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映画ってこんなにも自由なんだ

自身が高校生の時にインディーズで製作した「真夏の夢」や「脱脱脱脱17」など、松本監督はこれまで自分と同年代の主人公を映画として撮ってきている。

松本:自分が今いる状況とか経験していることを描きたいなというのは常にあります。それは今回もですね。

インディーズ映画とは異なり、より多くの人が関わる商業映画での苦労はあったのだろうか?

松本:よく知っている人たちと作っていた時は感覚的な言葉で伝わってたのが、今回初めて一緒に仕事をする方が多かったので、なるべく具体的な言葉で同じ方向を目指したいなと思いました。基本的にはあまり変わってないと思いますが、やっぱりインディーズの方が意味のないシーンとかが多かったのかな。物語に関係ないシーンとか、そういうのが結構好きなんです(笑)。でも、商業的な映画で制約があることも自分としてはそんなに苦じゃないというか、逆に制約があったから生まれることもあるのかなと。

「脱脱脱脱17」ではストリップ劇場が後半の舞台として大胆にフューチャリングされているのも話題になった。

松本:熱海に知り合いがいて、遊びに行った時にストリップ劇場の看板を目にはしていたんです。それでどんな所なんだろうという興味がありました。

元々は役者としてデビューした松本が監督という仕事に惹かれたのは、自分の中にあるいろいろな可能性を映画の中で実現したいという欲求があったからなのだろうか?

松本:中学生の時に「ぴあフィルムフェスティバル」に行ったことがあって。そこで登壇されている監督さんたちのお話を聞いて、映画制作ってなんだか面白そうと思いました。映画ってこんなにも自由なんだ!と。自分でもカメラを回してみたら楽しくて、今も続けています。みんなで作り上げていく文化祭みたいな感じが好きなんです。それは最初の時から変わってないですね。

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LIVE INFOライブ情報

明け方の若者たち

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12月31日(金)全国ロードショー
 
出演:北村匠海、黒島結菜、井上祐貴
監督:松本花奈
配給:パルコ
©カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会
 
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