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INTERVIEW

トップインタビューふくだももこ(監督)- 「ずっと独身でいるつもり?」結婚したら1面クリアじゃない

ふくだももこ(監督)- 「ずっと独身でいるつもり?」結婚したら1面クリアじゃない

2021.11.16

男女や世代での対立構造を生みたいわけではない

――その表現・演出も含めてカッコイイ映画でもあったんです。観る前はもっとウェットな作品なんじゃないかと思っていて、正直に言うと男性である私が観てもいいのだろうかという気持ちもありました。実際はそんなことなく、一つの作品としてカッコいいなと思いました。
 
ふくだ:ありがとうございます。
 
――「一人で生きていく覚悟」「自分を守るための信念」など心に響くセリフも多く、言葉も綺麗でカッコ良かったです。
 
ふくだ:「結婚しても、一人で生きていく覚悟がいる」というのは良い言葉ですよね。脚本の坪田さんから、お母さんのセリフや雰囲気は全部自分の親がモデルだと言われました。なので、映画を観て泣かれたそうです。
 
――男性のハラスメントはご自身の経験から来ている部分もあるのですか。
 
ふくだ:私と坪田さんと女性プロデューサーとで、今まで受けてきた・言われてきた・あれは良くないなという事を吐き出し大会になったことがあって、そのときの話がもとになった部分はあります。その場に男性プロデューサーも3人いたんですけど、男性陣は「すみません…」「あれ、だめだったの…!?」と恐縮するばかりでした(笑)。
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――公式HPの市川(実和子)さんのコメントでは脚本はもっとエグイことも書いていたという事ですが。
 
ふくだ:(佐藤)由紀乃はだいぶ性格が悪かったんです。結構、陰湿なタイプでネットに書き込む言葉もきつかったりしました。あまりそこをやりすぎると私の中で消化しきれなかったですし、そこだけを描きたかったわけではないので、「まぁ勝手に言ってろ。」くらいの感じの文面や人間性にしました。ただ、ネットでの加害行為によって命を落とす人もいる。誹謗中傷をする人にいい夢を見させてはいけないと思い、まみから由紀乃に「絶対に許しません」と言ってもらうことにしました。
 
――由紀乃に対してのまみの返しは優しかったですね。
 
ふくだ:めちゃめちゃ優しいですよね。結局、攻撃を受けた方が優しくしないといけないのか?という葛藤もありますけど、まみには相手にしないで前に進んで欲しいと思ったんです。ちゃんと面と向かって話せば、由紀乃とまみも愚痴を言い合えるいい関係になるのではと思いますけどね。やっぱり必要なのは友達ですよ。
 
――そうですね。物語でもそこは描かれていて、結婚することが幸せなのか、実は孤独死は既婚者に多いという話もあるということを友達同士で話をしていて、そこをズバッと言ってくれたのも良かったです。家庭に閉じこもっているというのが幸せとは限らないですから。
 
ふくだ:死という事を考えると、結婚したらクリアじゃないんです。それは、独身でも既婚者でも変わらない。
 
――そうですよね。
 
ふくだ:ただ、未婚で孤独死となるのが不幸なのか?という思いもあります。
友達がたくさんいたとしても、一人で亡くなったら孤独死になるんです。
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――普通、友達の家は招かれないといかないのでずっと一緒にいませんからね。
 
ふくだ:そうなんです。ネガティブなイメージが湧くので嫌だなと、独身でもめちゃめちゃ幸せに人生を全うしていくかもしれないですから。
 
――その通りです。作中であれば橋爪(淳)さんが演じるまみの叔父なんかはまさにそうで、好きなことをやっているなか独身で過ごしていくというのも幸せの形の一つです。結婚して幸せになる人もいますからそこは否定しませんが、やっぱり人それぞれで結婚することが正解ではないですから。
 
ふくだ:仕事や金銭面、身体的な問題、制度など、色々な理由で結婚が出来ない人・子供を持てない人もたくさんいます。それを見ずに「結婚しない、子どもを育てないのが悪だ」と個人の責任に転嫁しているのは、政府の怠慢だと思っています。
 
――それは僕も思っています。少子化を嘆くのであればそこに予算を出せよ、したくてもできない・持ちたくても子供を持てない環境の人は居ますから。
 
ふくだ:そうなんです。同性での結婚と選択的夫婦別姓は早急に対応すべきだと思います。議論する余地なんてないはずなのに、対応が遅すぎます。
 
――作中でまみが「子供が生まれたら仕事をやめてくれ。」と言わるのは、そういう部分が見えていない人からくる現実の悪いところが出ていますよね。言っている側は無自覚で、むしろ良心だと思っているところからきている厄介なハラスメントです。ただ、そこを過剰に描いてしまうのも、作品としてブレてしまう部分はあるのかなと、そこのバランスのとり方は難しい部分ですね。
 
ふくだ:そうですね。私も男女や世代での対立構造を生みたいわけではないです。全ての良心からくるハラスメントは、そうせざる状況に生まれ育った・そうせざるをえない状況に組み込まれてしまっていることが原因なので、そこから生まれるハラスメントによって新たな被害者が生まれるという悪循環があると思っています。さっきおっしゃって下さったように「気付かされました。」とか、「言ったことがあるかもしれない。」というのは、男女関係なくあると思うのでハッキリと「それはハラスメントだよ。」と言っていかないといけないと私自身も思っています。
 
――振り返ってみて、私自身も全然ダメですね。
 
ふくだ:柏木さんは私に対して、このインタビューに限定すると、言葉に責任と配慮のある方だと思います。ハラスメント加害者の意見で「何も話すことがなくなる。」とよく言われますけど、天気の話でもいいんですよ。「鰯雲が出てるから、雨になるかもしれないですね。」って、その方が情緒もあって言葉も素敵だと思います。
 
――ハラスメントの面から見ると悪い風に映りますが、基本的に登場人物はみんな良い人ですよね。
 
ふくだ:人間は複雑なので、完全に悪い人というのはなかなか存在しないと思います。そこが一番難しい。
 
――普通に生きている生身の人間で過剰なドラマがあるわけではないので、キャストは演技力が試されて難しい作品なのかなと思いました。脚本を読まれたキャストのみなさんはどういった反応だったんでしょうか。
 
ふくだ:松村さんは悩んでいましたね。それこそ最初に作ってきたのは凄いぶりっ子のキャラでした。それだとあまりにも作品の空気感とかけ離れてしまうので、「普通のトーンで、声を低く」とお願いしました。美穂はパパ活という強いワードもあって悩んでいましたね。
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――公式HPにあるコメントでも「身近とは言い難い世界の子で、どう演じていいのか悩みました。」という事をおっしゃられていましたね。
ふくだ:最初はアニメのようなキャラクターに振ろうとしていたんですけど、そこは抑えて演じてもらいました。彼女も凄い頑張ってくれて、美穂に出会ってくれてよかったなと思っています。
 
――みなさん素なんじゃないのかなと思うくらいの熱演でした。
 
ふくだ:田中さんは、言葉遣いなど、自分でも境目がわからなくなっていた時があると言っていましたね。
――それだけみなさんが役にハマっていたという事ですね。
 
ふくだ:キャスティングも希望の方が全員受けてくださったので、良かったです。
 
――それだけ熱演された皆さんが観れる映画がいよいよ公開されるわけですね。最後に公開を楽しみされている方に向けてのメッセージをお願いします。
 
ふくだ:本作は4人の女性が主人公で、誰かの気持ちが身に覚えがあると感じるんじゃないかと思います。女性が何人か出てくる作品は分断が描かれることが多いですが、本作ではそれがしたかったわけではなくて、街ですれ違ったふとした瞬間に助け合うような“ゆるい連帯”を描きたかったんだなと、試写で観て思いました。仲のいい友達と、楽しんで観てもらえると嬉しいです。
 
© 2021 日活

「ずっと独身でいるつもり?」

おかざき真里(著)
雨宮まみ(原案)
発行: 祥伝社
価格:900円+税

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LIVE INFOライブ情報

映画「ずっと独身でいるつもり?」

「ずっと独身でいるつもり?」ティザーポスターre.jpeg
11月19日(Fri)よりRoadshow
 
-Cast-
田中みな実
市川実和子
松村沙友理
徳永えり
稲葉友
松澤匠
山口紗弥加
藤井隆
橋爪淳
筒井真理子
 
-Staff-
原作:おかざき真里(原案:雨宮まみ)「ずっと独身でいるつもり?」(祥伝社フィールコミックス)
監督:ふくだももこ
脚本:坪田文
音楽:池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)
主題歌:にしな「debbie」(WARNER MUSIC JAPAN)
エグゼクティブプロデューサー:福家康孝
企画・プロデュース:谷戸豊
撮影:中村夏葉
照明:渡辺大介
録音:原川慎平
美術:佐久嶋依里
装飾:折戸美由紀
編集:宮島竜治
音響効果:井上奈津子
助監督:齊藤勇起
制作プロダクション:ダブ
企画・配給:日活
 
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