全員にスポットライトを当ててあげたかった
吉浦:群像劇なので全員にスポットライトを当ててあげたかったんです。誰かがメインのパートでも他のキャラクターはちゃんとその人なりのポジションにいて、そのキャラクターらしく立たせるという事は意識しました。やはり誰一人捨てキャラにはしたくないんですよ。
――群像劇では自分に近いキャラクターに感情移入するので、思い入れあるキャラクターが最後まで活躍するというのは嬉しいことです。
吉浦:今回は自分を過度に投影したキャラはいないので、全員に等しくスポットライトを当てられたと思います。これは本作を観た方に言われてなるほどと思ったことなんですが、「5人のメインキャラは属性だけで捉えると一見ベタな配置ですけど、各キャラクターにベタから少しズレた要素を必ず入れているんですね。」と言われたんです。例えばサンダーはコメディリリーフのポジションなんですけど、本人はいたって真面目なキャラクターなんです。真面目過ぎて腹芸が通じない、そこが笑える。
――確かに。真面目なサトミ・オタクなトウマ・熱血漢のサンダー・クールなゴッちゃん・活発なアヤと王道な5人ですけど、少しずつ違う要素が入っていますね。そこが人間らしさを表現している部分で、実際に居るんじゃないかと感じたのかもしれませんね。
吉浦:ありがとうございます。シオンに対比するキャラであるサトミは、本来主人公になりづらいキャラだと思うんです。優等生で生真面目で愛嬌もそんなに無い。
――そうですね。普通はサブにまわるキャラクターですね。
吉浦:主人公であるサトミに感情移入してもらわないといけないので、その点はキャラクター原案の紀伊(カンナ)さんも少し心配されていました。
――実際、映画を観ていて自然と感情移入できました。
吉浦:とにかく良い子で可愛くて健気なんですと伝えられるように、気を配りました。福原(遥)さんの演技にも助けていただいたのも大きいですね。
――ほかの3人はどういったことを意識されて、キャラクターづくりをされたのでしょうか。
吉浦:トウマは最初メガネをかけていたんです。
――分かり易くアイコンとして。
吉浦:そうです。でも、紀伊さんに「今時は違います。」と言われて(笑)。紀伊さんからは「メガネをかけると必要以上にカッコよくなっちゃうんです。」とも言われ、なるほどそういう見方もあるのかと思いました。結果としてメガネを外しましたが、女の子から見ても可愛いキャラクターになっているみたいです。
――そこは分かる気がします。トウマは猫みたいで、庇護欲が湧きますよね。
吉浦:女性スタッフからも「可愛い、守りたくなる。」言われ、改めてなるほどと思いました。ゴッちゃんも最初は短髪のスポーツキャラだったんですけど、実はどこにも居場所が無い独特の雰囲気を出すために長髪キャラになりました。メインの6人ではないですけど、大人キャラたちも味のあるデザインにしていただけました。
――そうですね。大人たちがいるから、高校生の主人公たちがより引き立ちます。
吉浦:大人のドラマは大河内さんの色が特に出ている箇所で、より一層魅力的になったと思っています。そこは大河内さん自身が持っている味なのかもしれないと個人的には思っています。
――紀伊さんとはどのようにキャラクターや作品のイメージを共有して、デザインをしていただいたのですか。
吉浦:脚本をお渡しして最初の打ち合わせをしたときには、すでに描いてきてくださっていたんです。
――具体的にお伝えする前に。
吉浦:はい。最初にいただいたデザインが、ほぼ今のものになっています。微調整したのはサンダーくらいです。本当に良いキャラクターになったと思っていて、みんなの力の集約だと思います。キャスト・スタッフみんなで更なる高みに押し上げてくれました。
――キャラクターからは外れるんですけどデザインで言うと、プロダクトデザインも素晴らしいなと思いました。メインビジュアルにある一輪バイクもそうですし、ほかのガジェットも近未来なんだけどいま使っているものが進化するとこうなるだろといったデザインで生活の中に合っても自然でした。
吉浦:そこのデザインもかなりこだわったところです。コンセプトとして、メカにもとにかく可愛いげを持たせることを強く意識しました。また、サトミのスマホカバーがプリンセスのデザインになっていたり、小道具はキャラごとの個性も出るようにしています。
――その可愛いデザインというはシオンのメンテナンスのシーンにも生かされているように感じました。ロボットとはいえ、体中に配線が繋がれているというのはどうしてもショッキングな画になります。そこが抑えられていて気を付けていらっしゃるんだなと感じました。
吉浦:その辺りのバランスは本当に気を使いました。SFやガジェット好きだとああいったシーンはエグくしたくなるんですけど(笑)。でも、そこはグッと我慢しています。
――そういった心づかいが画面にも表れていて、最後まで明るく楽しい気持ちで観終えることが出来ました。
吉浦:多くの人に観ていただきたい映画なので、制作中で何か迷った際はとにかく「ベクトルが外に向かう選択」をするように意識しました。また一方で、本作は自分の作品制作における意識が変わる切っ掛けにもなったと思っています。この明るく弾けたメインビジュアルが示すように、多くの方に愛される作品になって欲しいです。
© 吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会