仮面ライダー50周年、戦隊ヒーロー45作品という大きな節目を迎えた今年。多くの子供たち、元子供たちに夢を与え続けてきた両シリーズがタッグを組んだ映画『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』が公開中。多くのファンが待ち望んだクロスオーバー作品に込めた思いをプロデューサーである白倉伸一郎氏に語っていただきました[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
夏休み映画として子供たちに楽しんで観てもらおうと考え
──『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記(以下、スーパーヒーロー戦記)』とても面白かったです。もっとお祭り的な作品になると思っていたので、実際はドラマが濃い作品でビックリしました。
白倉(伸一郎):ありがとうございます。
──石ノ森(章太郎)先生の漫画版『仮面ライダー』でも描かれている、正義と悪は表裏一体であるという部分が今作でも受け継がれているように感じました。
白倉:日本のヒーロー黎明期を支えてきた石ノ森先生世代の方々には幼少時の戦争体験というものが色濃くあるので、ただの勧善懲悪というものに抵抗があるのだと思います。価値観が情勢に応じて容易にひっくり返ってしまうという経験をされているので、“正義”という言葉を使うことに凄く慎重なんです。
──戦中・戦後で価値観が180度変わることを経験されているのでそうかもしれないですね。
白倉:初代仮面ライダーのプロデューサーの平山(亨)さんも「正義という言葉は使わないようにしている。」と著書で書かれているんです。でも、仮面ライダーの歌では「正義のマスクー♪」と言っているんですよね(笑)。
──そこは子供たちメッセージを分かり易く伝えるためには致し方ないところです(笑)。
白倉:そうですね。
──『スーパーヒーロー戦記』では登場人物たちが「自分たちは物語の登場人物」という事を認識しています。半世紀以上にわたって愛されている両シリーズは王道作品と言っても差しさわりがないと思いますが、その王道作品・メインストリームである本作でそこに切り込んでいく勇気が凄いなと感じました。
白倉:2つの作品を合わせた世界を描くにはどうすればいいかと考えていった結果そうなった形です。これはお約束でもありますが、日曜日の朝にTVを付け『仮面ライダーセイバー(以下、セイバー)』を観終わると、全く違う世界観で『機界戦隊ゼンカイジャー(以下、ゼンカイジャー)』がスタートする。それは番組が違うので世界が違うんですというお約束ですが、そのお約束を観ているお子さんたちも理解していて受け入れてくれているんです。
──確かにそうですね。私自身が子供の時もそのお約束は自然と受け入れていました。
白倉:作品ごとに世界が異なるお約束というものとクロスオーバーをどう両立させるかとなると大きく分けて2つしかないんです。1つは『アベンジャーズ』シリーズのようにこれまであった設定を再構築して新しく作ってしまう方法。それまでの作品では個々に独立していた設定を地続きのものとして描き直すやり方です。
──アメコミでは同じヒーローを複数の作家がそれぞれの物語を描いているので、パラレルワールド的な世界が受け入れられている土壌があるのでそういった描き方もありですね。
白倉:もう1つはそれぞれ小宇宙として独立している各作品世界の境界線が、壊されて繋がってしまったということを可視化してドラマに落とし込む方法。この2通りしかないんです。
──今回は小宇宙が繋がってしまったことを可視化する形を取られたということですね。その落とし込み方も凄く自然に描かれていたので、両ヒーローがともに戦う姿をすんなりと受け入れられました。
白倉:両シリーズとも基本的に1年ごとにシリーズを区切っているので、そっちの方が合っていたという事ですね。
──そうですね。ただ、TVシリーズと違いこの映画のような集合ものではキャラ被りも出てしまうのでバランスを取るのは難しいのかなと思いますが、その点はどこに軸をおいて組み立てられたのでしょうか。
白倉:今作に関しては『セイバー』のクライマックスのタイミングで公開されるので、『セイバー』を主軸に据えて描いていくべきだと考えました。これはたまたまですが、『セイバー』の主人公(神山)飛羽真は小説家で物語を自分で作り出す職業なので、その文豪の部分とアニバーサリー・大集合という部分をどう掛け合わせていくか考えていく中、各シリーズが物語であるという形で表現していくという方向に自然となっていきました。
──本作では『セイバー』『ゼンカイジャー』がクロスオーバーする姿を『里見八犬伝』と『西遊記』を通して描かれていますが、この2つの作品を選ばれたのはなぜなんですか。
白倉:今作特有のテーマ性とか理屈とは別個の次元で、まず『セイバー』の夏休み映画として子供たちに楽しんで観てもらいたいので、本の世界を大冒険できるという『セイバー』が本来持っている要素を前面に出そうと思ったんです。今作の設定から石ノ森先生の子供時代に馴染みがある作品にしないといけない訳ですが、仲間を集めて旅をしていく物語がそんなに多くはなかったんです。
──そうか、石ノ森先生にとっても子供時代から馴染みがある作品という要素も必要になる訳なんですね。
白倉:そのころに流行っていたものということで、この2つのタイトルを選びました。
──両作品にインスパイアされている作品は多く、その流れは脈々と受け継がれていますから子供たちにも受け入れられていると思います。また、コメディ要素もうまく取り入れられていたので、エンタメ映画としても観ていて楽しかったです。
白倉:それは良かったです。