LOFT9 Shibuyaスタッフのにしうらと申します。昨年末、学生時代からの友人で漫画家として活躍している島順太先生に「展示とコラボカフェをやらないか」とお誘いしました。最初はちょっとした思い付きでしたが、多くの方々にご協力いただき「正気か渋谷展」が実現しました。
たくさんのご来場に感謝しております。「村井の恋」作者島順太先生に改めてインタビューをさせていただきました。普段あまり聞けない島先生のここだけのお話をお楽しみください。(interview:にしうらつかさakaルリ)
別に腕生えても何の問題もない
──「正気か渋谷展」では、原画の展示やグッズの商品化など島先生初の試みばかりだったかと思いますが、開催に至った理由はなんですか?
島:楽しそうやったからです!(笑) まずそれが大前提で、あと単純に心優しい読者の人に恩返しができる機会かなと思いました!!
──作者がTwitter等のSNSをしていても、実際漫画と読者のコミュニケーションって漫画しかないですもんね、それ以上でも以下でもない、というか、漫画が全てですよね。
島:アイドルとかは本人にファンがきゃーってなるのが普通やけど、漫画って登場人物たちがアイドルポジションにいるわけで、別に描いてる人が頻繁にオッス! おら作者! って出てくる事はないし、Twitterは現実逃避用でコミュニケーション取るツールとしては使ってないからね。
──漫画のキャラクターって一人一人性格も違って個性もばらばらじゃないですか。それを全部“島順太ひとり”が作り出してるっていうところに、読者は島先生すげぇってなってると思うんですよ。キャラクターたちにはモデルがいたり、それぞれの個性が思い付くきっかけとかはありますか?
島:いろんな作品からインスピレーションを得て、魅力的だと思う人格と人格をつなぎ合わせて一人のキャラクターにする事がほとんどですね。マジで意味わからんなって思ってるのが、例えば桐山ってキャラクターは「蛇にピアス」の【アマ】と「風立ちぬ」の【堀越二郎】、「ぼくのメジャースプーン」の【ぼく】からヒントを得てそれを一つの人格にしちゃってる。
──それはかなり面白いですね!! 作中で、登場人物の脳内に「木こり」や「武士」のキャラクターが登場して論争する脳内会議のシーンがありますが、実際に島先生の頭の中でもそういうことが起きていますか?
島:起きてないわ(笑)、そんなんやばいやつやん。
──そういうわけじゃないんか(笑)。
島:実際四六時中脳内でそんなこと起こってる人はいいひんと思うねん。でもふと想像してみることはできて、いつも想像するのは武士関連のことなんやけど、「あぁもぅそろそろ本気で原稿取りかからなあかんわ…」って作業部屋帰ってくんねん。部屋入った瞬間に下座に武士がぶぁあって並んでて「殿ぉおおお! 悠長に現実逃避してる場合ではありませぬぞ!! 締め切りが間近に迫っておりまする!!!」って言われるみたいな光景思い浮かべて「あ、ガチこれやらな落城するやつや…」って自分のやる気を駆り立てるとかはある。けど実際四六時中頭の中がそんな感じってわけではないなぁ。
──漫画自体が妄想ををそのまま具現化したものみたいなことやったり?
島:そうやと思う。現実に起こらんことを描いてまえ! て表現してるわけやし、やっぱりそれが創作のいいところかな。
──作中の「田中先生が岩につまづくシーン」もよくあるラブハプニング的な展開かと思いきや、岩から伸びた腕にヒロインが転ばされる…という奇想天外な展開です。あれも、妄想から思いついたシーンですか?
島:いや、あれは…別に「やったるわぁ!」って感じでやったわけではなくて、ネームの時点では普通の岩で原稿を描いてるときにそのよくある恋愛漫画みたいなシチュエーションに腹立ってきて、なんかどうせありえへんシチュエーションなんやったらもっとあり得へんことになってもええやろ、て開き直ったな。岩につまづいて転ぶっていう展開に変わりはないから、別に腕生えても何の問題もないし。
──問題はないですね(爆笑)。
島:岩につまづいて転ぶってすごいベタやしな。岩っていう無機物に意思を持たせることによって「その場の空気を読んだ第三者が使命感に駆られてやってしまった!」みたいな感じになるやん。現実はこうして生まれる(笑)。
──あぁーそういうこと!(納得) 実際につまづいて転んだ時も見えへんだけで、もしかして岩くんがやったんかもよ? みたいなことですか? たしかに! 運命とか奇跡とかはそうなってるのかもしれないですね。
島:いや(笑) なってないと思うけど!!!!(笑)
──あれ?(笑) 違う??(笑)
島:(笑) まぁでもリアルやん。何を言ってんのかわからんけど、そっちのほうがリアル(笑)。岩に魂があって人間と同じくらいの精神感もあり、「おいこれめちゃいい場面やんけ!ここは俺がちょっと一肌脱いだらなあかんなぁああ!」のほうがなんかリアルじゃない? 岩という第三者の心境みたいのも見えて…。
──絶対にあり得へんことを起こしてるけど、それがリアリティを増すっていう面白い現象ですね。
島:説得力あるねん。普通に転ぶーとかより、もう手ぇ生えて、転がしとんねん!!!! みたいな。謎の説得力。描いたときはそんな深く考えてなかったけど、そんな感じかな。
がちがちの重ーい、鬱〜みたいなのが描きたい
──恋愛漫画でありながらコメディ色も強く、振り幅が広い作品だと思いますが、書き始めからテーマとかはありましたか?
島:うーん、コメディ描きたくて描いてるってわけじゃないかな。根がクソ真面目やからどっちかっていうと真面目なやつが書きたい。好んで読んでる本とか観てる映画とかと自分の描いてる作品は正反対のジャンル。これなんでかなって考えたときに思ったのは、自分たぶんめちゃめちゃ天邪鬼で…ほんまはがちがちのシリアスの“重―い、鬱〜”みたいな話が描きたい。でも実際に書き始めたらそのシリアスな世界観をぶち壊したくなってくる。絶対ふざけたらあかんやろここって所でどうしても牛すじとか飛ばしたくなってしまう。なんでかそうなってしまうみたいな感じかな(笑)。
──なんでかそうなってしまう(爆笑)。
島:よくギャグ漫画って言われることがあるけど、ギャグ漫画じゃないねんか。「真面目に描いた結果がこれであり全然ふざけてるつもりはないんやけど(ガチギレ)」みたいな(笑)。