エホバの証人の2世がもつ苦しみを歌った「虐待の証人」が口コミで広がり続けている詩人iidabii。1月16日にはLOFT HEAVENにて開催されたトークイベント「宗教2世と機能不全家庭〜うえつけられた価値観から逃げたい!」に出演。イベントで語られたメッセージは現在こちらのページで公開中。
2020年12月24日には全編アカペラの1stアルバム『VS.人生』を配信リリース。「虐待の証人」が話題になればなるほど、このテーマに共感する人の多さにつらい気持ちになると話しながらも、まだやるべきことがあると言い切るiidabiiは、現在どのような思いを抱えているのか。アルバムに収録された作品を中心に、パーソナルな部分を訊いた。
そして、まさかのロフトプロジェクトのトークライブハウスにも通っていたということが発覚。表現方法に大きな影響を受けたイベントとは...?!(interview:成宮アイコ)
このまま黙ってていいわけない!
──1stアルバム『VS.人生』配信リリースおめでとうございます!
iidabii:聴いていただき、ありがとうございます。
──iidabiiさんは詩を書き、その朗読をされていますが、まずは活動のきっかけをお聞きできますか。
iidabii:表現活動自体は15歳のころから始めて、最初は朗読ではなくてギターの弾き語りをしていました。路上で歌ったりしているうちに、ライブハウスで自分で企画をするようになったんです。その出演者をYouTubeで探していたら、SSWSという詩のバトルで猫道さんという方が朗読パフォーマンスをしている動画を見つけまして、「こういう世界があって、こういう表現方法もあるんだ!」と衝撃をうけて、弾き語りと並行して詩の朗読もするようになりました。でも結局、いまは朗読がメインになっています。
──LOFT HEAVENでのトークイベントに出ていただいたときに、「15歳のころに家族と宗教から縁を切って、そこから人生が始まった」とおっしゃっていましたが、音楽活動をはじめたことは関連していますか。
iidabii:そうですね。宗教をやめて、なにか表現活動をしたいなと思っていたんです。そのころから鬱屈した気持ちを叫んでいました(笑)。
──長い間活動をつづけてこられて、改めてアルバムとしてまとめようと思ったきっかけがあったのでしょうか。
iidabii:ラッパーのマサキオンザマイクさんという方がいらっしゃるんですけど、「お前は作品を録音したほうがいいよ」って言ってくれて、レコーディング自体はおととし2019年の夏に終わっていたんです。スタジオ手配などもしてくれて、3~4時間くらいで一気録りしました。
──え?! 1日で8曲すべてを?
iidabii:そうなんです、全部1日で(笑)。
──この熱量を一気録りって体力的にすごいですね。
iidabii:最初はぜんぜんうまくいかなかったんですよ、1時間くらいずっとつっかえちゃって。でも、ある瞬間にスイッチがはいって、そこからもう8曲を一気にいけました。
──おととしから音源としてはあったのに、どうして今のタイミングだったのでしょう。
iidabii:トラックメーカーの方とコラボをするとか、いろんな構想があったんですけどなかなか話が進まなくなってしまったんです。でも録音をしてから時間もたったし、そろそろ出したいなっていう気持ちはずっとあって、いよいよかなというところで今度はコロナ禍になってしまって、またリリースが止まってしまったんです。でもその間にもアルバムジャケットの撮影をしたり、自分の宗教二世体験を綴った「虐待の証人」のMVを公開したりして、のびのびになっていたものをやっと出せたタイミングが、去年のクリスマスだったんです。
──MV「虐待の証人」を出してからの計画的なリリースというわけではなかったんですね。
iidabii:そうなんです。「虐待の証人」は、Twitterにあげても最初はそれほど反響はなかったんです。いいねが10個ついたくらいで、「まあ、こんなもんかな」って思っていました。ツイートがバズるときって、一気にバーっとRTが増えるのが普通かなと思うんですけど、「虐待の証人」はジワジワゆっくり時間をかけて広がっていく感じでした。
──瞬発力で広がる場合って、脊髄反射でいいねとRTをしてそのまま忘れてしまうイメージがあるので、「虐待の証人」はテーマ的にもいちばん良い拡散のされかただなと感じました。引用RTで自分のことを書いている方も多くて、必要な人へ口コミが伝わり続けているように見えます。
iidabii:たしかに、反射的にいいねを押したものは忘れてしまいますよね。「虐待の証人」が広まったことで、まず、聴いていただいてありがたいなって気持ちになったんですけど…。でも、これを聴いて共感してくれるっていうことは、自分と同じような経験をした人がたくさんいるっていうことでもあるので、広がっても広がっても晴れやかな気持ちにはなれない部分がありました。
──正しい、というと語弊がありますが、作品として意味のある広がり方だなと思いました。収録されている「吃音」を聞いて、はじめてiidabiiさんが吃音だと知ったのですが、"言葉は表に出さなきゃ伝わらない" のに、吃音によって"言わなきゃいけないことが言えない"、"一文字めの「お」が言えずにそのまま終わった日もある" とも書かれていて、"言葉よでろ" と願うあいだにも、頭のなかではおそらく言葉が出つづけているわけですよね。
iidabii:そうですね、それが出せないんです。吃るときって、脳の指令と体がリンクをしていない感覚があるんですけど、そういうときってすごく気持ちが悪いんですよ。スラスラっと言えてもいいような簡単な言葉なのに、なかなか声として出せなかったり。自分の体なのに自分の言うことを聞いてくれなくて、もどかしいです。ひどいときなんて、自分の体ではない感覚になるんですよ。
──だからこそ、逆に言葉に挑んだのでしょうか。
iidabii:そうかもしれないですね。言えないぶんだけ言葉、というかひとりごとや愚痴がたくさん頭のなかにたまっていく気がします。でも、愚痴だとスラスラ言えたりして(笑)。そうやって日常のなかで言えなかったことや、伝えられなかったっていう体験がつみかさなって、気持ち悪さやもどかしさだけが強烈に残ってしまうんです。その気持ちを思い出して詩を書いたりします。だって、結局、自分自身は吃音を気にしていても、まわりはそれほど気にしていなくて…。自分のことを伝える手段は自分で持つしかないんだな、と思いました。もし、実社会でそれができなかったとしたら、詩の朗読とか音楽とか、他の方法でできたらいいなと思ってるんです。
──置き換えられる手段を持つことって重要ですよね。「吃音」の詩をあらためて読んで、これだけの壮絶な苦しみがあったら、朗読で声を出すっていうのはためらったりできれば避けたいことじゃないのだろうかと思ったんです。
iidabii:やっぱり…あの…むかつくんですよね(笑)。なんで俺だけに吃音があって、考えていることを伝えられないんだろうって。話したいことや伝えたいことがあるのに、このまま黙ってていいわけない!って思ったことがたくさんあって。
──俺はここで終われねぇぞ! と。
iidabii:そうですそうです(笑)!言えないとイライラするので、悔しいからこそ、見返すっていうわけじゃないけれど、俺はここでやらないとだめだぞ!って。