マジンガーZの格納庫を積算する。今までになかった視点で本気でプロが取り組んだ実話を映画化。このエッジの効いた物語を、舞台に続いて映画の形でも発信。この熱い物語を書き上げた上田誠さんに今作の魅力について語っていただきました。[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
信頼してもいいという柱が1本ある
――マジンガーZの格納庫建設の積算ということで、サブカル要素の強い作品ですね。
上田:僕も最初はそう思っていたんです。なので上地(雄介)さんは意外なキャスティングだと思って。
――町田(啓太)さんも劇団EXILEですし。
上田:…と思っていたら、リアルに建設会社の現場で働いている方は体育会系の方も多く、その点から見ると上地先輩がばっちりハマるんです。
――確かに。
上田:そうした体育会系文化とサブカルチャー文化が、小木(博明)さんによって無理なく接合されている奇跡的な作品なんです(笑)。
――この作品はそこがミックスされた最たるものですね。しかも作るのが格納庫という渋さ。
上田:建設を取り上げること自体、渋いですよね。掘削とかえぐいですから。
――現場を支えているのはこういう裏方の人達なんですね。作中でも実際の造船所のシーンなどもあって、アガりました。リアリティーという面でも、本当の現場が出てくると説得力があります。
上田:そうなんです。そこは画の力による部分で。
――映画だからこそ表現できる部分ですね。もともと、舞台公演があって今回の映画に繋がったそうですが。
上田:はい。映画の原型になる舞台版がまずあって、映画の脚本はそれをベースに、英(勉)監督とプロデューサーと相談しながら、丁寧に作っていきました。
――作品で語られている積算や建築技術はリアルなデータなので、そこは崩さずに。
上田:そこが命綱です。たとえわからなくても、凄いということは伝えなくてはいけないので。
――本当の数字・本物の技術なので見ていて説得力がありました。脚本づくりの際に前田建設工業の方とはお話をされたのですか。
上田:舞台版を作る際にアサガワのモデルになったイワサカさんという方に相談のっていただきました。
――イワサカさんはどんな方なんですか。
上田:策士です。憎めない方で、ほんとに周到にまわりを巻き込んでいって。
――作中のアサガワもやり手でしたね。
上田:ええ。浮わついた業界ではないので、もちろん真面目な方なんですが。
――公共事業などの会社ですからね。
上田:そうですね。図面や数字はその人たちから出てきた成果物。愚直なまでの、圧倒的なデータの説得力。信頼してもいい柱が1本あるので、こちらがなにをしても大丈夫という感じで、助けてもらいました。
――がんばれば本当に作れるというのも夢があります。アニメ・漫画好きはこういう話、大好物ですから。
上田:そうだといいですね。掘削とかは響きとしては地味ですから。
――掘削しないと建設できないですから大事な工程です。
上田:そうなんです。そういう縁の下の力持ち的なところが伝わると嬉しいです。
熱を持っている人にベットする
――前田建設工業のみなさんはマジンガーZを隅々まで見られていますね。イレギュラーなシーンも、どうやって実現するかまでを盛り込んでいて素晴らしいです。
上田:そこはイワサカさんがしっかりと向き合われたからこそですね。
――映画化にあたり脚本を書き直されたとのことですが、その点を詳しく伺えますか。
上田:先ほどの、実際の場所を撮ることで生まれる説得力、あれは映画ならではなんです。舞台はセリフで聞かせる耳の文化なんですが、映画は逆にセリフが少ないに越したことがなく、画で語り切れない部分にセリフを補うような、眼の文化だと思うんです。その点を意識して脚本を作っていきました。
――そうだったんですね。
上田:とはいえ結果的にセリフはすごく多くなりましたが(笑)。あと、映画と舞台の違う点として、舞台はそこに演者がいてお客さんが集まるので、臨場感があるという以前に、そもそも「集会」なんです。映画は人がいないところにお客さんを集めて映像を見せるものだから、「映像」に熱を持たせないといけない。その熱をどのように生むのかをすごく考えますね。
――舞台は役者が観客に直接アプローチできますけど、映画は出来たものを流してゆだねるしかないですからね。
上田:さらに映画はTVと違って劇場に見に行かなければいけないので、スクリーンの熱がさらに大事になります。
――そうですね。今回はダイナミックプロダクションや東映アニメーションの協力も得られて、周りからのバックアップもすごいですね。
上田:最初、前田建設工業さんにオファーされた際にも快諾だったそうです。どの企画でもそうですけど、熱を持っている人にみんなベットするものなので、その最初の「熱」がイワサカさんのすごかったところなんだと思います。
――熱がしっかり伝わって、そして期待に応えるものを作れたからこそ信頼関係が生まれて。
上田:そう思います。かけた熱以上のものが伝わることはなかなかないので、大事ですね。
――わかります。そこはお客さんも敏感に感じるところですから。最初に舞台化する際、その熱を感じてプレッシャーはなかったですか。
上田:プレッシャーはあまりなかったです。原作を読んだときに、僕以外にこの作品を舞台化できる人、したがる人は多くないなと思ったので使命感の方が大きかったです(笑)。
――素晴らしいです。
上田:前田建設工業の方もそうだと思うんです。会社の技術を世に広める方法を考えていく中でこのファンタジー営業部を思いつき、使命感に駆られていったんだと思います。舞台化に際してイワサカさんとお話させていただいた際に、どうやって企画を立ち上げたかや、他社にメールをして上司に怒られたなどの経緯も伺えました。
――そこは実際にあった話なんですね(笑)。
上田:そうなんです。それを聞いてすごく面白くて、こういう話はまだ上手く伝わっていないと思い、これは伝えなければという使命感を感じました。
監督の熱に煽られて高まっていった
――そこにも使命感を。
上田:実際に起こった社会人たちによる青春を過ぎた文化祭感。映画の作り方によっては、もっと冷めた仕上がりになる可能性もありましたけど。
――そうですね。
上田:実際は監督をはじめみなさん熱量の高い現場で。
――フィルムから文化祭前日のようなワクワク感が伝わってきました。
上田:監督の熱に煽られて高まっていったんだと思います。旗振り役がいないと逸脱した演技ってなかなかできないので。出来た作品には英知と熱がいっしょに詰まっていて素晴らしかったです。
――撮影現場を見に行かれたのですか。
上田:行きました。びっくりしました。脚本を書く際には、「熱演できるものを」とオーダーをいただいていて、セリフ回しも意識して作っています。なので、ある程度は予測もしていたんですけど、現場で上地さんの演説シーンの演技を見たときにはやりすぎじゃないかと思ったくらいで。
――あそこから物語が加速していきましたね。確かにすごい熱量でした。
上田:びっくりしましたが、監督のまとめ方を信じようと。完成したフィルムはめっちゃ良かったです。
――各キャラクターがやる気になっていくプロセスも丁寧に描かれていたので、現場の熱が上がっていくことに違和感がなくて一緒に盛り上がっていけました。
上田:ありがとうございます。そこは舞台版ではなかった部分ですね。舞台版はもうちょっとダラダラしてました(笑)。