それぞれの視点で楽しんでいただければ
――物語としても第1巻の最後に生け捕りにした巨獣は今後どうなるのかというのも気になり、SF・サスペンス作品としても素晴らしいです。
中尾:経済的に正しい物語や人間ドラマを、といってもアクションやサスペンスを軽んじることはしたくないので、高島(雄哉)さんに相談して最新の生物学的なことから膨らませて設定を盛り込んでいます。
――同人誌として制作されたコンセプトブックも細かいところまで作られていて重厚な作り方ですね。
中尾:専門的な部分は高島さん、出雲重機さんに助けて頂いてます。とはいえ、まだまだ書ききれていない部分もあるので楽しみにしてください。
――小説を読むと細かいところではコンセプトブックから変わっている部分もありますね。
中尾:最初は社長の田島(鋼二)を主人公に考えていたので、その名残もあるのだと思います。小説化にあたって編集担当と相談していく中で、小説のターゲットに合わせるのであれば新入社員の沖野の目線がいいんじゃないかということで、今の形になりました。
――年齢層で共感できる部分が変わりますからね。
中尾:新入社員として会社に入った時の感覚なんかも一緒に体験してもらえるといいなと思っています。それとこれから各キャラのドラマを描く中で田島目線の物語も書いていければいいなと。なんで離婚してしまったかとか…。
――突っ走る人なので、田島と結婚するのは大変だと思います。
中尾:(笑)。会社ではその部分を経理の片岡が冷静に舵取りしています。そのため、作中だと嫌なキャラになってしまっていますけど。
――私は読んで好きになったのは片岡です。一番いい人だなって感じました。
中尾:そういっていただけると嬉しいです。片岡の人となりも書いていくので楽しみにしてください。
――おじさんが活躍する作品ですね。
中尾:企画をご相談した時に、そこを窪之内(英策)さんも気に入っていただけて。読者のなかには田島・片岡の気持ちに共感できるという方もいると思うのでその視点からも楽しんでもらえるといいですね。
――今は大人もアニメを見る時代ですから、おじさんが活躍してくれればいいのにと考えている人は多いと思います。私もその一人です。
中尾:そういっていただけると勇気が出ます。沖野の年齢を当初の19歳設定から21歳に引き上げたのもその考えからです。
――とはいえ、沖野は天才ですね。精神面は年相応のまだまだ鼻っ柱の強い若手ですが。
中尾:若いころは、みんななんでもできると過信して突っ走ってしまいますよね。そこは若さのいい部分でもあるかなと思います。まあ、能力の高さはややフィクションもこみですが。
――リアルになりすぎると物語として楽しめないですから大丈夫です。
中尾:そうですね。適度に折り合いをつけながら進めています。ロボットに関して言うと2足歩行をどうするかという葛藤もあったんです。リアルを追求すると果たして足が必要なのか? と(笑)。
――やっぱりあったんですか。
中尾:そこはロボットものの理想ということで(笑)。
――夢は必要です(笑)。リアルを突き詰めるとドローンの遠隔操作になりドラマがないですから。
中尾:ロボットは今、発表している2体とも顔を付けずに重機を踏襲するリアリティのあるデザインになっています。出雲さんの手腕で素晴らしい形に仕上げていただきました。
――このゴツさいいですよ。男の子はいつの時代も重機好きなので大丈夫です。出雲さんや高島さんへのアプローチは正解です。この名前を連ねている皆さんも層々たるメンバーですが、どういう経緯でお声掛けしたんですか。
中尾:出雲さんは別作品でプロデューサーがご一緒した時のご縁がありまして、ほかの方は個々にオファーさせていただきました。
――あまりロボットのイメージのない窪之内さんに頼まれたのはなぜでしょうか。
中尾:『ツルモク独身寮』などの作品を拝見して感じた人間の細かな機微を描ける部分ですね。表情1つとっても、リアルで素晴らしく、なんといってもおじさんキャラがとても魅力的ですから。
――窪之内さんの描くおじさん・おばさんは魅力的ですよね。
中尾:そうなんです。窪之内さんのアイデアから広がった部分はかなりあって、蟹江(のぶ代)も最初おじさんの予定だったんですけど、いただいたおばさんver.があまりにも魅力的で変更しました。
――やり手の二代目女社長、パワフルでかっこいいおばちゃんというのが作品にも合っていていいですよ。
中尾:ありがとうございます。窪之内さんのおかげです!
――他のキャラもみんな魅力的で、沖野もこれからまだまだ掘り下げていく形に。
中尾:そうですね。次巻では新キャラの鉛(修一)も出てきていろいろとかき回してくれます。
――やっと登場ですか。第2巻を楽しみにしています。
中尾::今後の展開にはいろいろと案があります。沖野にも後輩ができてくるでしょうから、そんな物語も。
――沖野の成長を一緒に追いかけていけるのもいいですね。
中尾:そうなんです。読者の方の年齢によって、それぞれの視点で楽しんでいただければと考えています。
――これから夏コミやロフトのイベント、第2巻発売と大忙しですね。
中尾:地道に草の根活動的に動いてます(笑)。少しずつでいいのでファンの方がついてくれればいいなと思っています。
――いい作品はちゃんと見つけてもらえますから大丈夫です。ロフトのお客さんはしっかりと作りこんでいる作品が好きな方が多いので、刺さる作品だと思います。
中尾:そうなってもらえると嬉しいですね。あとはドラマ好きの方にも刺さってもらえると嬉しいですね。物語はまだ序章で、キャラクターも沢山いて、まだ描けていないことも沢山あるので、長いスパンで彼らと一緒に人生を歩むつもりで楽しんでくれたらなと。小説もそうですがゆくゆくは映像化もしたいと考えています、皆さんの応援があってこそ続けられるのでよろしくお願いします。
中尾浩之プロフィール
実写とCGを組み合わせた独自のスタイル“ライブメーション”による「スチーム係⻑」が '98年MTVStation-IDコンテストにてグランプリを受賞。'00年カンヌ広告祭におけるニューディレクターズショーケースで世界の新人監督8人に選出される。'04年オリジナルショートフィルム「ZERO」がアカデミー賞登⻯門でもあるSHORTSHORTS FILMFESTIVALにてグランプリ/審査員賞/学生審査員賞をトリプル受賞。'09年監督・脚本を手がけた「タイムスクープハンター」がNHK総合にて放送開始。以後6年に渡りSeason1~6が放送される。'13年夏には「劇場版タイムスクープハンター安土城 最後の1日」が公開。近作にシンドラ「卒業バカメンタリー」監督、TVアニメ「スペースバグ」監督・脚本など。最新監督作、シンドラ「簡単なお仕事です。に応募してみた」は毎週月曜深夜24:59より日本テレビにて放送中。
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