SHELTERでの初ワンマン開催から早4年。今年で5周年を迎えるアカシックが当時のアルバム『コンサバティブ』『プリチー』をテーマに2daysワンマンを開催する。作品とリアルの狭間で日々繰り返す葛藤、5年間の成長の中で変化した音楽やバンドに対する向き合い方。バンドとしても過渡期だという今、アカシックがどこに向かっていくのか、見逃せない2日間になりそうだ。[interview:義村智秋・安佳夏(下北沢SHELTER)]
SHELTERは登竜門
──アカシック史上初のワンマンライブ『DEATH or プリチー』がSHELTERで行われてから約4年経ちますが、当時なぜSHELTERでワンマンを行おうと思ったのでしょうか?
バンビ(Ba.):登竜門みたいな感じかな。
山田(Dr.):初めてのワンマンがSHELTERってグッと来るものがあるよね。
理姫(Vo.):昨日、行きつけのスナックのママに「次いつライブなの?」って聞かれて「3月にワンマン2days。SHELTERで、昔の曲全部やる」って言ったら「SHELTERでそれやるの最高だね」って言われました。SHELTERってそういうイメージがあるんだと思う。
山田:全バンドマンそうよ。僕が昔やってたバンドでも、SHELTERワンマンってやっぱりできなかったですもん。当時サポートから本加入してすぐのライブでSHELTERワンマンで、めちゃめちゃ緊張した記憶がある。
理姫:まとめると登竜門ってことです(笑)。
奥脇(Gt.):ワンマンだけじゃなくて結構SHELTERに出させていただいていて、やっぱり毎回すごくテンションが上がる。専門学校の時、なんの授業か忘れちゃったんですけど、座学で、都内のライブハウスがリストになっていて、学校側の勝手な評価がBとかCとかでつけてあって。SHELTERはSでしたね(笑)。LOFTもSだった。
──そんなものがあるんですね…見たい…(笑)。
バンビ:メンバーも入って5人で初めてのワンマンだったから、僕は印象深いです。SHELTERワンマンって「バンド活動してるな」って感じが強いよね。
──今回の2daysは、そういうこともあってSHELTERを選んでいただいたのでしょうか。
理姫:そうですね。初期の頃の作品をやるライブは、その後の活動のキャパとかとは関係なくSHELTERでやりたかった。
──アカシックがSHELTERに最後に出演されたのは約3年前ですが、3年の間にキーボードのHachiさんの脱退や1stフルアルバム発売などさまざまなことがあったと思います。バンド内での活動のスタンスや心境など変わった点はありますか?
一同:え! そんなに行ってないんでしたっけ…。
奥脇:mezcolanzaとやったやつは?
理姫:それがその3年前のやつなんだ。
バンビ:1年くらい前にやった気がしてた…。
山田:見に行ったりもしてるとあんまり懐かしい感じがしないよね(笑)。
理姫:変わったことといえば、まず私個人でいうと昔は「飲み屋さんから5分で来て歌って帰りました」みたいな感じだったんですけど(笑)、ここ数年でちゃんと「バンドやってるミュージシャン」みたいな感じに変わってきたなと自分で思います。最近やっとちゃんとバンドを始めたような気分ですね(笑)。それが私個人の変化かな。良くも悪くも。久しぶりにライブ見たお客さんとかからは、理姫さんの印象が違いすぎて戸惑ったって言われたりもするんですけど。
奥脇:ちゃんとバンド始めるのに随分かかりましたね(笑)。
理姫:うん、当時は歌いやすいとか歌いにくいとか関係なく、とにかくピンヒールを履きたいっていうだけでステージ立ってたりして、今思ったらすごいぐらつくし、よくやってたなと思いました(笑)。
バンビ:バンドの活動スタンスが、もう一度インディーズシーンに挑戦する形にもなっているので結構いろいろ変わりはしましたけど…特にメンバーの距離感みたいなものが変わった気がして。メンバー脱退とかインディーズに戻ったりとかで距離感が前よりもぎゅっとしたかな。前回のツアー中、これからどうやっていくのかとか、バンド内の環境を再確認する話し合いとかもけっこうしたし。中身も曲もバンドっぽくなってきたのかなと。
──逆に前はもっと分散していたということですか?(笑)
山田:今と比べると、ですね。
理姫:それが良かった時もあったと思うんですけど、年齢とともに活動も変わっていくなと。
変化していくことへの葛藤
──「変わった」という点で、最近のアルバムの『エロティシズム』『凛々フルーツ』の歌詞では、恋愛の歌詞でも『コンサバティブ』や『プリチー』の頃と比べると落ち着きを感じます。理姫さんの中で、バンド活動をしていく中で恋愛感も変化してきたりしているのでしょうか。
理姫:それは本当に自分でも悩むんですよ。初期の自分もわかってるし、でも今はそういうことを書きたくないなとか。恋愛も変わりましたし、当時は恋愛ばっかりしてたのでそういう曲が多かったんですけど。寝る前に、今日あったことで強烈だったこととか、忘れたくないこととか、会いたい人とかを紙に書いてから寝るのが癖で、前からそうしてたんですけど、当時は「幸せじゃないから死ねねぇ」とか感情そのままに書いて、それが本当にそのまま歌詞に反映されてたんです。でも、最近はどんなことを書いてるのかと振り返ってみると、コンビニ行って雑誌欄を横目に見てたらあいみょんのインタビューが載ってるのを見つけてそれを読んで、頑張ってほしいなって思って閉じて、そしたらティッシュ買わないといけないことを思い出して、あ、このために私はあいみょんのインタビュー読んだんだって思った。とか、そういうことしか日記に書くことがなくて。あとはバスが目の前を通った時に誰も乗ってなかったんですよ、空っぽで。「乗りたい!」って思って。もう家そこなのに(笑)。「停まった〜! どうしよう、乗るか乗らないか…」みたいなことしか書いてないんですよ(笑)。で、会いたい人「特になし」とかになっちゃってて(笑)。今まで恋愛にしか向いてなかったものがその分ちょっと違う方向に向いていて、歌詞もそれに伴って変わってしまって、落ち着いちゃってるなと自分でも思いますね。
──理姫さん的にそれは良い変化と捉えているんですか?
理姫:いや。私はちょっと寂しいなって最近思ってて。昔の方がいちいち大げさだったんです。私は当時の作品で「自分の作風」っていうものを確立してしまったと思っていて、そこからあんまり外れてしまうのはこのバンドの活動には合わないんじゃないかっていうのは、ちょっと最近思っているので、個人的な気持ちは一度しまって作風に寄り添った方が良いのかっていうのはマジで日々考えてます。どっちが良いんですかね(笑)。
「ロックスターにはなれない」
──メンバーの皆さんはそういう理姫さんの変化はどう受け止めているんでしょうか。
バンビ:歌詞もそうなんですけど、普段の行いとか立ち振る舞いも当時に比べたら今の方が落ち着いてるなと思いますね。歌詞も、新しい曲を仕上げた時「あ、今こういう気分なのか…」ってなるくらいで。
理姫:何も言われないんですよ。
奥脇:昔の方がいっぱい事件とかあったよね。
理姫:当時は歌詞のイメージのまんまの生活を本当にしてたので…。最近は「明日ライブだから飲みに行かない」とか、あるじゃないですか。それは一方では良いことなのかもしれないけど、一方では失っていく部分も何かあるなって。なのでロックスターにはなれないです、私は。って思いました。規則正しくなっていくのかなと。一種の諦めなのかもしれないですね。
山田:諦めってことなの?(笑) 逆に進化かもしれないじゃん。捉え方は難しいけど。
奥脇:人によってはヤバくなくなってよかったねって言う人もいるし。それはさっき言った、よりバンドらしく、バンドマンらしくなっているっていうこととも通ずる気がするけどね。
理姫:うーん。でもやっぱり期待というか、昔から知ってくれてる人は、例えばきのこ帝国の佐藤さんに言われたのが、「私は理姫ちゃんはリハに行ってて欲しくない」って(笑)。そういうイメージも、私はちょっと自分の作風の一部だと思っているので、あんまり規則正くなるのはどうかなってずっと考えてます。変わるとしたらこれから変わるのかなとも思うんですけど、でもアカシックで活動していく限りはあんまり外れないで行こうかなとか。40歳くらいになって、突然一人で宇宙の神秘について歌ってるとかはあるかもしれないですけど、アカシックのうちは恋愛からは目を離さないでおこうかなと思いますね。
恥ずかしくて聴いていられない
──今回のワンマンのコンセプトになっている『コンサバティブ』や『プリチー』ですが、当時のことを思い出して印象に残っていることや思い出すことはありますか?
理姫:自分で、昔の曲を復習するのに聴くじゃないですか。聴いてられないなっていう気持ちになりましたね(笑)。恥ずかしいなって。例えば「有楽」の中で、「こんなに贅沢いいかしら 焼豚 レバ刺し もつ煮込み」って歌詞があって、当時の私は焼豚・レバ刺し・もつ煮込みが贅沢だったんだなとか(笑)。
山田:当時の曲を練習中に、理姫ちゃんが急に歌わなくなって、歌詞忘れてるのかな? と思ったら恥ずかしくて歌えなかったって(笑)。
理姫:当時の歌詞は本当にノンフィクションだったな〜って思い出したり。みんな自分の昔の歌聞いて恥ずかしくなったりすることあるでしょうけど、演奏ではそういうのないの?
バンビ:ボーカルが一番あると思うけど、演奏も恥ずかしいですよ。ヘッタクソだな〜って。
奥脇:例えば、当時の曲を今レコーディングとかしちゃうとあんまり良くないんだろうなと。あの時の、若かったというわけではないけど、当時の荒削りな感じと曲がマッチしてたと思う。その頃から今みたいな団結力とか考えに到達してなくて逆によかったなと思いますね。
理姫:曲作る上でも違うもんね。
奥脇:うん。僕も作曲とかアレンジで、理姫と同じで落ち着いたなと自分で思います。
理姫:最近今回の2daysに向けて過去の曲を練習したりしてるんですけど、昔の曲の方が今より難しいっていう(笑)。
バンビ:でもそれは今の脳でやるからだよね。みんなちゃんと成長したから、理想が高くなったんだと思う。当時は当時の出来る限りのことをやってたんですけど、その理想の幅みたいなのが広がったから今やると「この曲はもうちょっとこうした方がよかったな」って思ったり。
奥脇:頭おかしいな当時の自分、みたいなことは多々ありますね…(笑)。まあそこがよかったりもしたんだけど。
理姫:思い出とかはあんまりないなぁ、当時いつどこでレコーディングしたとか全然覚えてない(笑)。本当に私がレコーディングしたのかなってくらい、特に『プリチー』とか全く覚えてない…。あ、でも『コンサバ』のジャケットで、縄で縛ってもらったんですけど、ジャケットが完成した時に当時付き合っていた男に「この撮影で喜んでたら浮気だぞ」って言われてこいつ頭おかしいなと思って横浜の路上でめちゃくちゃ喧嘩になったのは覚えてますね(笑)。
──そういうことがそのまま当時歌詞になってたわけですね(笑)。
理姫:そうですね、そういうことが多かったので歌詞には影響しやすかったですね(笑)。
──でもその恥ずかしくて難しいことを、今回の2daysで敢えてやろうとしているわけですが、それは意図や思惑などはあったのでしょうか。
理姫:普通は最新の作品からライブって作られていくじゃないですか。それを、5周年というキリのいいところで、当時の曲をやりますよっていうイベント的なものにした方がファンの方は喜んでくれるかなって思って。ワンマンツアーもやったばかりだし、ただワンマンやりますよっていうのじゃなくてせっかくなら初期のものから順番に、今回は『コンサバ』と『プリチー』ですけど、全部のアルバムを振り返るライブをするのもいいかなと。
奥脇:でもすっごく大変です。全然やってない曲とか、SHELTERの初ワンマンぶりに演奏する曲とかあるので。
理姫:5年ぶりみたいな曲もいっぱいある。
バンビ:でもそういう曲を練習するの楽しいですけどね。
理姫:チケットの売れ行きも、Twitterとかでのファンの人たちの反応もすごく良くて、逆に「今までなんで来ないの!?」っていう感じで、よかったなって(笑)。
誰かリコーダーください(笑)
──先ほどから理姫さんも言っているように、バンドの過渡期である今、今回のような2daysをやることはバンドにとっても大きな意味があるんじゃないかなと。
理姫:そもそもなんか知らないけどすっごい楽しみ。
山田:うん、すっごい楽しみ。2ヶ月くらい前からその日に向けて練習し始めるってことは、今まであるようでなくて、今回かなり気合を入れて計画的に練習をしているなと思います。
理姫:当時自分たちが作ったものを見返すと、歌詞もそうだけど「忘れてた、この感じ!」みたいなことを思い出して、こういう機会でもないと振り返らなかったと思うので、当日実際に演奏してみて当時の心境に戻ったり、ファンの人たちの反応をみたりしてこれからバンドとしてどんなことをやっていこうかなっていうのは変わるかもしれないですね。
──最後に、2daysに向けての意気込みをお願いします。
山田:ドラム個人でいうと、あの時に叩ききれなかったフレーズとかを今めちゃくちゃいい状態で叩けているので、来てくれる人は楽しみにしてくれてればいいなと思います。
バンビ:活動をしていく中で、節目節目でお客さんの層も入れ変わったりしたんですけど、来てくれるかわからないけど当時来てくれてた人も、全く新しくここから入る人もみんなで、パンパンのSHELTERの中ですごい楽しかったねっていうライブにしたいなと思ってます。
奥脇:『コンサバティブ』と『プリチー』で一回自分的に才能が終わったんですよ。その時自分が旬だと思っていたコード進行だとかアレンジだとか、その2作品で一回終わった。そこからメジャーに行って頑張って書き続けてたけど、自分にとってはその2作品が原点だったりするので、当日演奏し終わった時の気持ちと、今そこに向かっている気持ちは違う気がするし、それはバンドにとってプラスになると思うので、とりあえずどうなるか楽しみですね。自分の心境とお客さんの反応と。
理姫:来てくれる人向けになってしまうんですけど…当時ライブで私リコーダーを楽器兼衣装みたいな感じで持ってたんですけど、それもどこに行ったかわかんなくなっちゃったので、来てくれる人の中でこのインタビューを読んでくれた人は、誰かリコーダーを当日ください(笑)。あと、この日に来れない人もいっぱいいると思うんですけど、この2日間は多分めちゃめちゃ楽しくなるけど、これからもいろいろと楽しいことを、特にこの1年は5周年なんでいっぱいやっていこうと思うので、これからもチェックして是非ライブに来てください!