読者のみなさんは、「及川眠子(ねこ)」という作詞家をご存知だろうか? アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の主題歌『残酷な天使のテーゼ』、Winkの『淋しい熱帯魚』、やしきたかじんの『東京』など数々のヒット曲の作詞を手掛け、「最後の職業作詞家」とも呼ばれるプロ中のプロだ。
そんな彼女が先日、『ネコの手も貸したい 及川眠子流作詞術』を上梓した。本書は、自身の作詞術を惜しげも無く披露するだけでなく、眠子氏のこれまでの来歴や、「プロの作詞家とは何か?」というプロ論まで記されたボリューム満点の1冊となっている。
そして来たる8月24日(金)、彼女の出版記念イベントが大阪・ロフトプラスワンウエストで行われる。本誌は、イベントで共演する角岡伸彦氏にインタビューを敢行。稀代の作詞家と気鋭のノンフィクションライター。このインタビューはそんな二人を結びつけた、"ある人物"の話題に終始した......。[interview:松井 良太/平松 克規(Loft PlusOne West)]
眠子との出会いと『殉愛』騒動
----本日はよろしくお願い致します。角岡さんは、イベントで眠子さんと共演されますが、お二人はどのような出会いなんですか?
角岡:眠子さんと初めて会ったのは、『ゆめいらんかね やしきたかじん伝』の取材なんですよ。それが今から、4,5年前の話です。僕が『ゆめいらんかね』を出版してから、百田尚樹氏の『殉愛』騒動があって、より付き合いが深くなった感じですね。彼女の歌詞が『殉愛』で誤読されて引用されていたんです。その話は、本の中にも出てきます。
----眠子さんとたかじんさんは、どのような関係性なんでしょうか?
角岡:眠子さんは『東京』をはじめ、たかじんの曲を30曲くらい作ってはって、たかじんにとってかなり重要なキーパーソンなんですよ。眠子さんって、「私の詞が気に入らんかったら降りるから」って言っちゃう、竹を割ったような性格なんです。たかじんは周りを振り回す人間だったんですけど、眠子さんは彼にバシっと言える唯一の存在でした。たかじんも彼女の言うことは聞いてたみたいです。
----大事な存在だったんですね。『ゆめいらんかね』の取材を通して、たかじんさんと直接お会いすることはあったんですか?
角岡:いえ、亡くなる前に取材依頼はしてたんですけど、それから割合早く亡くなってしまったので、その願いは叶わなかったですね......。
----『ゆめいらんかね』の反響はどうでしたか?
角岡:反響はありましたね。でもやっぱり、『ゆめいらんかね』の2,3ヶ月後に百田尚樹さんが『殉愛』を出して、それから僕と西岡(研介)君、それにたかじんの弟さんらと、『百田尚樹「殉愛」の真実』を出版したっていう動きで、より反響が増していくみたいな感じでした。
----あの流れは、なかなか面白いですよね。『殉愛』って、僕たちからしたらゲリラ的に出たイメージがあるんですけど、角岡さんにとっても突然の出来事やったんですか?
角岡:「どうも百田さんがたかじん関係の取材をしてるらしい」っていうのは聞いてたんですよ。
----へぇー。それで『殉愛』を読んだ時、どう思われましたか?
角岡:大笑いですよ。
----ハハハッ! 腹が立つとかじゃないんですね(笑)。
角岡:疑問点に付箋いれたら、本がたちまち付箋だらけになりましたもん。たとえば僕はたかじんの元マネージャー・Kさんに取材してるけど、あっちは取材してないからね。悪く書くのはまだしも、取材はちゃんとせんと。そうせな、ただの悪口になっちゃいますから。
----取材ってライターの基本中の基本なんですけどねぇ。百田さんは『ゆめいらんかね』を読んでるんですかね?
角岡:絶対に読んでますね。『殉愛』には、『ゆめいらんかね』に書かれてないエピソードが書いてあるんです。彼は同じことを書きたくないから、僕が捨てたネタを書いてるんです。でも怪しい話やから、書かなかったんですよ。「嫁はんがこんなんやってな」ってネタで言ってることをノンフィクションでそのまま書いちゃってる。あれは、あかんよね。
----分かるんですね、そういうことまで。
角岡:同じジャンルであれば、「俺の本は読んでるな」ってことはわかりますよね。
----角岡さんは、百田さんと面識はあるんですか?
角岡:今年の1月に、たかじんの元マネージャーのKさんが、百田さんと版元の幻冬舎を訴えた裁判があったんですけど、そこで見ましたね。百田、たかじん最後の妻で『殉愛』のヒロイン・さくら、Kの三役揃い踏み。気になりすぎて、私費で行きましたもん(笑)。
----裁判って、今どんな状況なんですか?
角岡:マネージャーのKさんの裁判と、あといくつか裁判が残ってるくらいで、もうほとんど終わってますね。
----だいぶ落ち着いてる感じなんですね。百田さんは、裁判でどんな証言をしてるんですか? 「さくらさんに騙された」とか言ってるんですか?
角岡:言ってないですね。「なぜあなたはこんなこと書いたの?」って訊かれても、一言で言えば「さくらさんを信じたから」と答えてますね。だから反省はあまりしてなさそうです。裁判の詳しいことは、僕のブログ「角岡伸彦 五十の手習い」に書いてあるので、ぜひ読んでください。
作詞家・及川眠子にも迫るトークイベント
----8月24日(金)のイベントには、たかじんさんの一番弟子である打越元久さんにも特別乱入ゲストとして出演していただきますが、角岡さんは打越さんと面識はあるんですか?
角岡:打越さんとも、『ゆめいらんかね』の取材でお会いしました。打越さんは80年代、たかじんが売れかけの時に弟子入りして、そこから5年間くらい付いてたんですよ。"歌手・やしきたかじん"の唯一の弟子なんです。他は、"タレント・やしきたかじん"としての弟子ですから。
----この前、電話で喋ったんですけど、ほんまに陽気なおっちゃんですよね(笑)。
角岡:ええ(笑)。僕は打越さんのライブには何度も行ってますけど、歌はもちろんのことトークもめちゃくちゃ達者なんですよ。その喋りだけでも十分楽しめるし、彼はたかじんの曲を歌い継いでるので、イベントでも歌ってもらいたいですね。
----この3人が揃うと、どうしてもたかじんさんの話にはなってしまうと思うんですけど、眠子さん自身も相当面白そうな方ですよね。
角岡:そうですよ。眠子さんは、たかじんの曲だけじゃなくて、『新世紀エヴァンゲリオン』の「残酷な天使のテーゼ」や、アイドルの曲まで作ってる方ですから。
----たかじんからエヴァンゲリオンって、すごい振れ幅ですね(笑)。
角岡:8月24日は、あくまで眠子さんの『ネコの手も貸したい 及川眠子流作詞術』の出版記念イベントやから、本に書かれていることをより深く聞けたらなと思います。僕自身も、作詞家がどうやって歌詞を作るのかなんて、訊く機会がないし、そのへんのことを聞けるのは楽しみなんです。
----盛り沢山のイベントになりそうですね。当日はよろしくお願いします!