ニューウェイブバンド「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当や、ひとり打ち込みデスメタル「ド・ロドロシテル」の掟ポルシェさんが局部を出し活動するにいたるまでのアルバイト遍歴を綴った著書『男の!ヤバすぎバイト列伝』が今年1月に刊行された。
ヤバすぎるバイトにヤバすぎる従業員たち!その気になる内容について語ってもらいました。[INTERVIEW/三国(LOFT9Shibuya)]
全部時代のせいだ
──読ませていただきましたが、これバイトがブラックなのか、掟さん含め当時の従業員がブラックなのか分からないですね。
掟:いやいや、あの頃は時代がおかしかったの(平然と時代のせいにして)。バブルだったから割のいい仕事なんていくらでもあって、ナメた心持ちで仕事しててもなんとかなっちゃうし。自分の話じゃないけど、あの当時、レジの売上ちょろまかす奴とかも結構いましたよ。いや、金額的にはちょろまかすなんてもんじゃなかったな……なので、そういう犯罪系の話は全カットしてます。ネット連載だったんで炎上するとマズイからちょっとは気を遣いました。犯罪告白は控えめに! 初めてのバイト、新聞配達では高校の合格発表の号外を雪に穴を掘って埋めてクビになった話を書いてあるんですけど、あれ本当は三回やってまして……。最初の年はバレず、次の年はちょっと怪しまれたけどセーフ、最後の年に急に10件くらいクレームがきて、アウト&クビ。言える範囲での悪事はこれくらいです!
──まだ書いてない話はありますか?
掟:ほぼないですね。あとは法に触れることしか残ってない(笑)。東東京ネイティブの人たちの蛮行は現代のコンプライアンス的には絶対アウトなんで、伏せ字にしても問題ある話が山程あります。書いてないのではなく、書けない(笑)
──本を出して、周りからの反応は?
掟:これがですね、めちゃくちゃ良かったんですよ。自分の文章スタイルは、これまで掟ポルシェという異常者キャラクターに則った完全なフィクションで。なんでかというと、本名の方の素の自分はごく平凡な人間だと思っていて、実際の体験談を書いたって面白いものにならないだろうと思っていたから。それが、バイト体験談を書いてくれという担当編集からの要請があったんで、ウソの付けないジャンルだからはじめて素直な気持ちで過去にあったことをそのまま書いてみたら、「これまでで一番よかった」って周囲の人が揃って言ってくれるんですよ。予想外でした。
──初めて正直にというか、ノンフィクションで書いてみたんですね。
掟:ちょっとショックでしたけどね。今までのいい加減なウソ書き飛ばしコラムには少なからず自信を持ってましたんで、「そんなのより全然いい!」とか言われると複雑で(笑)。大槻ケンヂさん、ライムスター宇多丸さん、吉田豪さんも絶賛してくれました。大槻さんは『青春の名著!』、宇多丸さんは『映画化すべきだ!』とまで言ってくれて。自分としてはそんなつもりなかったんですけど、担当編集者からの要請で、バイトしてた10~20代ぐらいの頃のエピソードを時系列に沿ってまとめたら、結果的に青春物語になっちゃったんですよ。最終回直前の闇金の整理屋に借金まとめに行った話がちょうどよくクライマックスになって、物語として締まった。最後ひと盛り上がりあるんでね。
──この本をきっかけに色々な方からバイトの話を聞く機会も増えたんじゃないですか?
掟:「私も臨床実験やってました」と言われることは増えました。臨床実験は常連になると、『楽な治験』をまわしてもらえるようになるんですよ。安全が保証された上にお金ももらえるってやつ。当時あったのがヤ●ルトを飲む治験ね。普通のヤ●ルト、乳酸菌が入ってないヤ●ルト、乳酸菌100倍のヤクルトを一ヶ月飲む。それだけでいい金がもらえる。あとは入浴剤のお風呂に入って体の温度変化をサーモセンサーで測るってやつ。ただ風呂に浸かっただけで5万円。拘束は1日で。まぁどちらも他の常連に取られてできなかったけど。そんなにハードなのはやらず、ジェネリック薬品とかある程度安全性保証済みのしかやらなかったので、身の危険とかは特に感じなかったです。
──普通に稼ぐのがバカらしくなりません?
掟:そうなんですけど、休薬期間というのがあって、一度やったら3ヶ月とか間置かないといけないので、それで食っていくまでにはならなかったです。まぁそれメインで生活費稼ぐようになったらかなり終わってますが……。
Amazon一位!
──表紙も含め収録されている写真も凄いんですが、挿絵の似顔絵も印象的でした。絵がお上手なんですね。
掟:「挿絵を入れると別にお金が発生する」って聞いたんで、じゃあ描きます、と。他のジャンルに比べて、音楽系出版社とエロ本は昔から規定の原稿料が安いから、最大にしてもらっても皆さんが思ってるよりもらってない。あと、高校大学と美術部所属だったりで、絵を描くことは好きだったというのもあります。
──いい感じに人の特徴をとらえてますよね
掟:いやー、あれね、ビルの窓拭き時代の人とか本当に似てますよ。それにペンキ屋の職人のオヤジとか、友だちじゃないから当然写真なんか撮ってないんだけど、見た目のダメっぷりがわかると底辺エピソードがより伝わりやすいじゃないですか。人物が特定されるとマズい人以外はガッツリ似せて描きました。
──よく覚えてますよね
掟:間違った方向に全力で突っ走る人には記憶力が働くんですよ。自分の悪い癖で、普通の人の顔はまったく覚えられない。普通の人って普通のことしか言わないから引っかかりがなくて記憶できない。結果的に気がついたら周りには間違ったことしか言わない人ばかりになってて(笑)。そういう人たちの方が好きなんでしょうね、きっと。自分の好きなプロレスラーの話を一方的にしてくる人とか、迷惑だと思わず「うわ面白いな!」と思っちゃうんですよね。
──今回、重版がかかったみたいですが、しばらく働かなくて大丈夫そうですか?
掟:皆さんが思ってるより部数出てないですし、印税も安いからそんなことないです。でも本の内容からすると、長いこと売れても大丈夫な気がします。この間もラジオに出たらすぐAmazonで品切れになって。何回も品切れになるとすぐ補充してくれるんですよね。『Amazon:バイトボーリング部門』で一位!
──すごいジャンルで(笑)。
掟:「バイト」ってタイトルに付いてたからか、タングステンバイトって建築工具部門で一位になって(笑)。なんだそれっていう。
今後について
──最初はこの本が売れるか不安だったとおっしゃってましたが、売れた理由ってなんだったと思いますか?
掟:この本には自分含め、間違ったことを堂々と言う人しか出てこないからじゃないですかね。ネット社会が成熟してきた昨今、道徳とかコンプライアンスみたいなものが言説の前提になってて、当たり障りない正論ばかりが蔓延してみんな息苦しいと感じているんじゃないかと。だから間違った欲望丸出しの人しか出てこないこの本がウケたというのがまずあると思っています。
あとは、この本を出したことによって「この人文章上手いよね」って言われることがあって。「実は俺文章が上手かった」というのも売れた理由にしといてください(笑)。自分があらゆる表現行為を行う際に気をつけているのは、「笑えないとダメ」ということで。なんかオチをつけないと不安になる病気なんですよ。自分のクソすぎる勤務態度を伝えるときに、そのまま事実を羅列しただけだと単に胸糞の悪いものになってしまう。で、それを回避するためなんとか笑えるように書いたら、文章のフリ落ちの連続が結果的にリズム感を産んで読後感がよかったのかもと。
──第二弾は?
もうバイトしてないですから、書けと言われても難しいですね。これからまたバイトはじめたら書くことあるかもしれないけど、若い奴のと違って50代のは読んでる方もキツイと思います(笑)。今後死ぬまでバイトしないで生きるのが目標です!