こんなにもニッチな音楽話が聞けるとは! リズムの視点から掘り尽くす音楽がとても新鮮に聴こえる"トリプルファイヤー・リズムアナトミー"。次回2月6日ネイキッドロフトにて第2弾が開催されるこのイベント! 聴き擦らした曲もブログ『リズムについてのメモ』を知った後では全く違った曲に聴こえて不思議......。リズム論をトークする二人、鳥居さん(トリプルファイヤー)と張江さん(ハリエンタル)のリズムを取り巻く様々な環境について知ることができました![interview:指中晶夫(Naked Loft)]
リズムのお話を伺う前に
——明けましておめでとうございます!
二人:明けましておめでとうございます。
——前回のイベントの印象はどうでしたか?
鳥居:手応えありましたね。別の会場でも熱く感想を話してくれる人もいて。
張江:そうですね。メモをとる人がいたり、後ろの方も真剣に聞いてくれていましたよね。
——リズムのお話を伺う前に、新年明けてよく聞いている音楽って何かありますか?
鳥居:最近だとBruno Marsというアーティストの”Finesse (Remix)”ですかね。New jack swingっていう80年代後半に流行ったスタイルをあえてやる様な感じで、この間まで失笑されてた音楽を今やるっていう。でもこの曲でイメージが更新された感じがあります。もともとのNew jack swingって音数も多く、一個一個の音が派手なんです。Bruno Marsの場合は、音作りは派手なんだけど仕上がりがソフトで、ずっと聴いてても耳が疲れないっていう。現代の技術の粋が集まっているように感じます。
張江:僕は、音楽ではないですけど。落語ですかね。落語には芸談というか。漫才もそうでけど、どうしたらウケるかという技術論を語る土壌があって、でも音楽にはそれがあるようでないですよね。『こういう音楽がカッコいい』っていうのは、この歌詞に共感しますとか印象論があるだけで、このライブのこのフレーズは「こんな意図を持って弾いてる」っていうのは語られないんですよ。
鳥居:このリズムのヨレにも意図があるみたいな。
張江:うん、リスナーからの印象論やプレイヤーの練習用の素材が存在するだけで、プレイヤー目線の体系がポピュラーなところには少ないと思うんです。芸談(リズムとは何かを考える材料)ってとっても面白いなと思うんですよね。最近のギターマガジンが面白いのって芸談に寄っているなと。ビックマフ特集とか。みんなで重箱の隅を突くのって面白いなと(笑)。そこが変にニッチにならずポップな感じになるっていうのが良いんです。それは話している方も聞いている方も健全だと思うので。
—“トリプルファイヤー・リズムアカデミー”に関してもそういった魅力を感じますよね。
張江:そうですね。鳥居くんのブログ(http://notoriious.wpblog.jp/)を俺が見てこのイベント始めようと思ったんですけど、鳥居くんのブログの良さは、プレイヤー目線のリズム論なんだけど、それがイコールでリスナー論にもなっていることだと思いますね。ただ楽器を演奏するのに参考になるのではなく、あのブログを読んで音楽を聴くと視点が広がる。だからこれはイベントとしてやっても喜んでくれるお客さんがいそうだなと思ってトークイベントにしました。俺は鳥居くんを次世代の菊地成孔にしようと思ってるんで(笑)。
来来来チーム企画”とんちんかんマンデー”2万電圧とU.F.O.CLUBでの共演
—張江さんと鳥居さんが知り合ったキッカケをお聞きしても良いですか?
張江:接点は対バンじゃないですか? その前から知っていたような気もするな。うちのバンドのボーカルから2011年くらいにトリプルファイヤーってバンドがいるって聞かされて。無善寺で「パチンコがやめられない」を演っている映像を見させられたのを覚えています。かっこいいけど絶対売れないでしょ、こんなにボーカルが下向いて歌っているバンド……と思ったけど。めちゃ売れているので、僕に先見の明はなかったですね(笑)。
鳥居:多分最初は、H Mountainsと来来来チームの企画に誘ってもらったような。
張江:そうだ。2012年の年始かな。あれはね、下北沢のサーキットイベントとかで「久しぶりに会う友達と路上で乾杯! やっぱり音楽って最高!」みたいな感じが嫌いな時期で(笑)、真冬の何もない東高円寺で、お客さんはただただ2会場を往復するっていうストイックなイベントにしたかったんですよ。打ち上げもしなかったから、出てもらったバンドとも別に仲良くならなかったし。「いいイベントだった」っていう以外に何も残らないイベントだった(笑)。
鳥居:確かに(笑)。
—では、”とんちんかんマンデー”がきっかけで鳥居さんと張江さんが仲良くなって今にまで繋がる訳ではないんですね。
張江:そうそう、初めて会ったのがただそれだけ(笑)。鳥居くんと話したのはいつなんだろうね。トリプルファイヤーの大垣くんは、見ると顔がほころぶくらい、親友と呼べる関係性なんだけど。
鳥居:ライブハウスにもあまり行かないので顔を合わせる機会もあまりないし。
張江:そうだね、面白いこと言ってるなという信頼感でイベントに誘ったんだよね。
リズム論の原点とトリプルファイヤー
—ブログに書かれていたリズム論は独学ですか?
鳥居:そうですね。本で読んだものを自分なりに解釈しています。コード理論とかに比べると、リズム論っていうのはいろんな人が好き勝手言っているっていう状況なので、それを誰かが一つにまとめたりってことはまだないんですよね。
張江:確かに、コードとかに比べるとリズムは体系化されていないですよね。
—鳥居さんはトリプルファイヤーでギターを担当していますが、何故リズムにここまでこだわれるようになったのですか?
鳥居:学生の時にコピーバンドやっていて、みんなで合わせた時に全くしっくりこなかったんですよね。
張江:全員、楽譜通り弾いているのに?
鳥居:そうなんです。ちゃんとコピーはしているのに、しっくりこなくて。コピバンなので、弾く人によってノリが変わるのが気になって、そこからリズムに秘密があると思って考え出しましたね。
張江:でも、「メトロノーム通りにやってられっかよ。そんなんロックじゃねえ」みたいなのもあるじゃないですか。そういうのは通らなかった?
鳥居:でも、むしろそういうことを言う人に反感を持っていたと言うか。「魂込める」とか言っても、技術がないと無理でしょって思ってました。魂を込めるための技術というか。気合いさえ入っていれば出てくる音はどうでも良いのかと疑問に感じます。
—今のバンドメンバーもみんなそう思っていた?
鳥居:もともと、「ロックじゃないじゃん」みたいなことを言うタイプではありましたが、それよりも面倒臭がりっていう面が勝っていたかも。ありのままの俺みたいな……(笑)。
張江:素の自分を愛して欲しい(笑)。まあ、リズムを強化したいってなって、メンバーに伝えるために鳥居くんの中のリズム理論を言語化したのがあのブログだよね。
鳥居:そうです。もともとは。それと、お客さんもそういうことを知ることで音楽を聴く楽しみが増えるかもと思って公開しました。
—ブログの結果、トリプルファイヤーでドラムを叩く大垣さんに変化はありましたか?
鳥居:ずっと一緒に演っているので変化にはなかなか気付きにくいです(笑)。
張江:ハットの均質化と、スネアの置いてくる感じはかなり顕著に変わったなと思いましたね。あと、最近は何やっても、「まだまだだよ。」と暗い顔で言うようになった(笑)。
鳥居:最終的には Bernard Purdie とかと戦って欲しいので。
張江:まだまだ追い詰めるぞと(笑)。
リズム論を支えたのは日本の音楽シーンを変えた二人
—鳥居さんがリズムを研究していく上で印象に残っているアーティストは?
鳥居:細野晴臣、大滝詠一ラインですかね。学生の頃にリズムについて興味を持ったタイミングでよく聴いてました。
—80年代以降ですか?
鳥居:いや、まだ二人が売れっ子になる前の70年代中頃ですね。はっぴいえんどははっぴいえんどでリズムがソウルっぽかったりもするのですが、それぞれソロになるともっと渋いリズムの組み方になるんです。それに刺激を受けました。
—そういった音楽はリズムを中心に楽しんでいた?
鳥居:二人ともメロディーメーカーじゃないですか。こちらも「風をあつめて」とかから入っているからそういうものを期待しがちなんです。でも、そういう面を敢えて封印して、渋い3コードの曲をやりながら、リズムに工夫を持たせているので、そっちに耳がいくようになったし、メロディーだけが音楽ではないんだという事を意識させられましたね。
—ちなみに、リズムによって生活に支障が出ることはありますか?
鳥居:対応が食い気味の店員がすごく気になる。やっぱり、合いの手の打ち合いというか。ポッポッ、トントンと良いリズムで進めたいじゃないですか。
全員:(笑)。