インターネットを中心にその活動の幅を広げてきたダ・ヴィンチ・恐山こと品田遊が、自身2冊目となる短編集『名称未設定ファイル』(キノブックス刊)をリリース。SNS、人工知能、フェイク・ニュース、管理・監視社会など、現実のリアルな事象をモチーフにした話から近未来、超未来を舞台にした物語まで(巻末には袋とじ付!)を1冊にまとめた品田遊とは一体"何者"なのか? 直接本人に訊いてみると意外な素顔が浮かび上がってきた。【interview:石崎典夫(LOFT9 Shibuya)】
飽きちゃうんで、早く書かないと
――品田遊さんの新刊『名称未設定ファイル』、読ませて頂きました。なんかすごく不思議な本ですよね。乙一さんの短編集を読んだ時のような「この先、どうなっちゃうんだろう?」的なドキドキ感もありつつ、読み進める内に「あれ、どうなってんの?」と思って、何度か読み返さないと理解できない所もあって。
品田遊(以下:品):あぁ、そうかもしれないですね……。
――そもそも品田さんが小説を書くキッカケって何だったんですか?
品:この本は出版社さんから直接でしたね、「小説書きませんか?」というお手紙を頂いて、お手紙を頂いたという話をコルク(品田さんを始め漫画家、小説家、エンジニアなどが所属するマネージメント会社)さんから教えられた時点で書くことになってたんですよ。2年前に1回書けたから(『止まりだしたら走らない 』リトル・モア刊)行けると思ったみたいですけど、僕はたぶん行けないと思ってました(笑)。
――本の構想はあったんですか?
品:出版社の方と打ち合わせした時に、1つテーマがあった方がいいよねという話になって、「自分、引き出しないんで、インターネットぐらいしかやってないんで……」という話をした流れだと思うんですけど、「じゃあネットとかテクノロジーとか、それ関係の話だったら何かしら書けるかもしれません」と言えなくもないというか、モニョモニョ言ってたら担当さんに「じゃあそれで行きましょう!」と言われまして、それで考えていった感じですね。結果、書き上げるまで丸一年掛かっちゃったんですけど……。
――あ、そうなんですね。
品:もうちょっと早くできる予定だったんですけど、途中書けなくなる時期もあったり……。書き方も色々試さないと飽きちゃうんですよ、わりと飽き性なので、性格だけでいうと小説書くのに向いてないかもしれないですね。
――そんなあっさりと(笑)。
品:人の小説を読んでても情景が一回も浮かんだことがないんですよ、字を追ってるだけ、書いてても字を書いてるだけ、何の情景も浮かべてないので、だから人と見てるものが合ってないというか、違う気がします。
――ストーリーはどうやって作ってるんですか?
品:まず設定を考えてあとは理屈を上手いこと繋げて7割ぐらい頭の中で出来たら書き始めますね、飽きちゃうんで。
――飽きる前に書き上げないと(笑)。
品:で、行き詰まったら、もうダメだと思ってゲームをします。
――一旦、現実逃避して。
品:そう、現実逃避して戻ってこれなかった例もたくさんあります(笑)。この本に入ってるのは戻ってこれたやつだけですね、必ずしも逃避して帰って来れるとは限らないんで。
品田遊が影響を受けたものとは?
――子供の頃はどんなものに影響を受けたんですか?
品:性格がひねくれてるってよく言われるんですよ。でも自分ではひねくれてると思ってなくて、むしろ世界が曲がってるんだと思ってるんですけど。その原因は小さい頃に読んだ漫画とかテレビのお笑い番組とか、あとパソコンを買ってからは個人サイトとかにちょっとずつ影響を受けて、立派に曲がってしまって。
――漫画だと、どんな作品ですか?
品:不条理系のギャグマンガですね。吉田戦車さんの漫画を小2ぐらいの時に親に与えられて、『酢屋の銀次』っていう短編があって、酢を売っている家の息子の銀次が、めちゃくちゃ細い筒を通り抜けようとして体がボキボキに折れたりする漫画なんですけど、酢を飲んでて体が柔らかいから、夜になるとドアの下のわずかな隙間から銀次がズルズルズルと入ってきたりホント不条理な話なんですけど、なんだこれ、めちゃくちゃ面白いと思って。そういう不条理なものを読んでおもしろがってると、条理がわかってくるんですよ、世の中的なおもしろってこういうルールで出来ているのかな、というのが分かってくると“ひねくれの発芽”なんです。それに丹念に水をかけて、“ひねくれの大きな木”が育つみたいな感じ、だからかわかんないですけど、この本も暗くてねじ曲がった話が多い気がします。そういうのが特別好きなわけではないんですけど、書くとそうなっちゃうんですよね。
――今の話も相当ひねくれてる感じがします(笑)。
品:今までストーリー性のある小説とか、人の心の動きを重視したマンガとかにあんまり触れてこなかったので、今でも苦手意識があるかもしれないです。
――小説はどんなものが好きですか?
品:小説もストーリーから外れた部分に興味があって、翻訳が酷すぎて日本語になってないぐらいの日本語になっているSF小説を図書館で借りてきて読めないなーって予測しながら読んだり(笑)。あと「と学会」ってありますよね、「トンデモ本」、ああいう変な人が書いた本が好きで、著者の内的世界に興味が出てきたりして、それも今の作風に影響を与えてると思います。
――内容よりも構造の方に興味があるんですね。
品:でも最近は直球にベタに面白いと思えるものも楽しめるようになりました、“ちゃんとしてるっていいなー”と(笑)。でも、それも「ちゃんとしてる」ぶりを面白がっている節もあって、まだひねくれてるかもしれないですね。
――ネットではどんなもの見てましたか?
品:ネットの中の有象無象の存在が好きなんですよ、小説の中でもモチーフにしてますけど、匿名で好き勝手なこという人の“むき出しぶり”がすごいですよね。匿名になると群れて同じようなこと言って流行を消費して……。そういうのを面白いなと思って読み漁ったりしてますね。だから僕の頭の中は、不条理漫画と、トンデモ本と、巨大掲示板で出来ているのかもしれないです。