ラーナーズのギタリストとしても注目を集める堀口知江(ボーカル、ギター、バンジョー)が、シマシマエレクトリックの平野なつき(アップライトベース)と金成葉子(ドラムス、パーカッション)という鉄壁のリズム・セクションと組んだガールズ・ロックンロール・トリオ、チエ&ザ・ウルフベイツが満を持してファースト・アルバムを発表した。ロカビリーやカントリー・ミュージックをゆりかごとしながら、型にはまらぬオルタナティブな志向と独自の解釈を加味したそのサウンドは、懐古趣味とは無縁の鮮烈なモダン・ミュージック。間口が広くポップな楽曲が多いので、音楽的素養がなくても充分に楽しめる。これぞ2017年最新型のロックンロールにして生まれながらのクラシックスだ。名うてのメンバー3人に結成の経緯から本作の制作秘話、今後の野望について聞く。(interview:椎名宗之)
様式美の制約から離れて自由に楽しみたい
──そもそもはシマシマエレクトリックのお2人(金成と平野)が歌モノのバンドをやりたいと堀口さんに声をかけたところからバンドが始まったとか。
金成:歌モノと言うか、知江ちゃんのギターと歌、オリジナル曲が昔から好きで、一緒にバンドをやりたいと思っていたんです。ちょうど知江ちゃんが1年くらいバンド活動を休業していた頃に「バンドやらない?」って誘ってみたんですよ。
堀口:私はそれまでラミーってバンドやチリチリシスターズっていうデュオをやっていたんですけど、いろんな事情で活動が止まってしまって。これからは一人で弾き語りを中心にやっていこうと思っていた時にお話をいただいたんです。それでスタジオに入ってみることにして、それからこのバンドが自然と始まるようになりました。
──当初からロカビリーやカントリーを軸にした音楽性でいこうと?
堀口:私はロカビリーがずっと好きでやってきたんですけど、またバンドをやる時はあえてロカビリーじゃないバンドにしたかったんです。ロカビリーは様式美の世界で、ファッションや髪型、ウッドベースで跳ねるビートといった具合にいろいろと制約があるんですよ。日本のロカビリー・シーンは、オーセンティック、ネオロカ、ジャパロカくらいしか選択肢がなくて、それらを全部ひっくるめてよしとするものがないんです。私としてはもっと自由に、ジャンルに関係なく音楽を楽しみたくてオリジナル曲を書き溜めていたし、ウルフベイツはロカビリーをやりたくて始めたわけじゃないんです。
平野:知江ちゃんのオリジナル曲をやるのを最初から決めていたので、初めてスタジオに入った時もジャンル的なことはそこまで気にしてなかったですね。
──最初にスタジオに入った時から「これはいける!」と手応えを感じたんですか。
金成:知江ちゃんとは10年くらい前から知り合いだったし、このバンドではないけど一緒に演奏する機会もあったので、特に違和感もなくやれました。ごく自然に始まった感じですね。
──ラミーやチリチリシスターズと比べて、ウルフベイツは堀口さんのルーツに根ざした音楽性が強いのが特徴と言えますか。
堀口:J-POPとかも含めて、自分が聴いて育ってきた音楽という意味でのルーツが自然と出てるとは思います。あと、バンドを休んでいる時にオルタナ・カントリーとかアウトロー・カントリーと呼ばれる音楽を好きになって、そういうのを核にした曲を作りたくなったんです。だからルーツに根ざしたものというよりも、自分としては新しい挑戦といった感じですね。
平野:葉ちゃんも私もジャンルに関係なく幅広く音楽を聴くタイプなので、ムリに知江ちゃんの方向性に寄せているわけじゃないんです。
──結成から2年、そろそろバンドの核みたいなものが出来上がってきたのを踏まえて今回のリリースを決めたんですか。
平野:徐々に曲を増やしていって、そろそろアルバムが一枚出来るかな? くらいのタイミングが来たという感じですかね。
──今回のファースト・アルバムの収録曲は、ライブの代表曲から選りすぐった10曲ということなんでしょうか。
堀口:私が弾き語りで作っていた曲もけっこう入ってますね。「ママと少年」や「一匹狼」、「闇とナイフ」とかがそうなんですけど。「ママと少年」とかはアルバム向きでいいかなと思って入れました。
特定のジャンルに詳しくなくても楽しめるものを
──たとえばグレッチ・G6120ナッシュビルをテーマにした「6120」はとても親しみやすいロックンロールだし、「Dress Up Doll」はロカビリーを下敷きにしながらも弾むようなポップ・チューンだし、オルタナ・カントリーのことをよく知らなくても楽しんで聴けますよね。そこは意識して作ったんですか。
堀口:特定のジャンルに詳しくない人でも楽しめるものにしようというのは、昔から曲を作る時に気に留めているんです。今回もそれが自然と出てるのかなと思います。
──「ママと少年」はドラマチックなスロー・ナンバーで、息子を抱きしめた母親が最後に銃に撃たれて死んでしまうという物悲しい歌詞ですが、どんな経緯でこうした内容になったんですか。
堀口:イスラム国の日本人人質事件のニュースを見て、すごく悲しい気持ちになったんです。自分なりにテロや戦争が起きている国のことを想像してほしくて書きました。
──「一匹狼」はメランコリックな曲調でメロディの美しさが際立つ一曲ですが、無頼な曲名とのギャップが面白いですね。
堀口:ああ…考えたこともなかったです(笑)。
平野:自分たちではギャップがあるとは思ってなかったですね。
堀口:私としてはスコティッシュと言うか、アイリッシュ系のバラードになればいいなと思って作りました。
──ワンダ・ジャクソンのカバー「Funnel of Love」を入れたのは、自身のルーツ音楽を最初のアルバムに刻み込んでおきたいという思いからですか。
堀口:それはありますね。自分にとってロカビリーは大事なものだし、大好きなロカビリーのカバーが一曲あるだけで全体が締まる気がしたんです。
──3人のアンサンブルの妙も楽しめますしね。レコーディングまでにリハーサルは入念にされたんですか。
堀口:ライブでよくやっている曲が多かったので、それほどでもなかったですね。それに、この2人は何でもすぐできるので。
──すぐできる?
金成:知江ちゃんが弾き語りで持ってきてくれた曲にベースとドラムを付けるという意味ですね。
堀口:一番できないのが私なんです。歌もギターもちゃんと練習しないとダメなんですよ。私が頑張るところを頑張れば、2人はちゃんとそれに応えてくれるんです。
金成:ワンダ・ジャクソンの曲も原曲のままじゃなくて、ちょっとポップスの要素を入れたりして一捻りするんですよ。オルタナ・カントリー調の曲でもポップスの要素を入れようとするんですけど、私が聴き慣れてないリズム・パターンが多いのでなかなか難しいんです。たとえば8ビートならハイハットを使うのが一般的ですけど、今回のアルバムでハイハットを使ってる曲はほとんどなくて、だいたいがスネアかライドシンバルなんですよね。シャッフルでもチッチチ、チッチチ…と刻むパターンがよくありますけど、それすらもなくて。
──ありがちなリズム・パターンだと堀口さんの志向する曲調にはならないと?
金成:そうですね。私はもっとミーハーって言うか、知江ちゃんのルーツ・ミュージック的要素をちょっと崩してベースと合わせていく感じですね。
──金成さんはポップス的要素を高める役割なんですかね?
金成:そうかもしれません(笑)。
平野:フィルターを通してポップにする係(笑)。
金成:自分が曲の構成を作る時はオーソドックスなんですけど、知江ちゃんの曲は構成が独特なんですよ。Aメロ→Bメロ→サビと行くのが一般的ですけど、たいていそのパターンからズレてることが多くて。それが逆に新鮮で面白いんですけどね。
堀口:え? どの曲のことを言われてるんだろう?
金成:けっこう全体的にそんな感じなんだけど(笑)。特に「闇とナイフ」や「ママと少年」はバンドとしてどうやってベースとドラムを付けようか悩みましたね。