仙台在中、4人組バンド「アンテナ」。新宿ロフトにて開催された「平成デモグラシー」といった音楽イベントに出演したことをきっかけに出会いを果たしてから約4年。この4年もの間にじっくりと時間をかけて経験してきたものはアンテナの血となり肉となり、着実にバンドや人間を成長させるものとなった。そうして少し大人になったボーカル渡辺諒氏がとても頼もしく感じ、今後が益々楽しみに感じるのであった。バンドが成長する過程に少しでもブッキングとして関われたことを幸せに思います。【Interview:新宿ロフト 樋口寛子】
新宿ロフトの名前は仙台にも届いていたので出演が出来るとなった時は凄く嬉しかった
—アンテナの結成の経緯を聞かせてください。
渡辺:今のメンバーではないメンバーで結成したコピーバンドがあったのですが、ボーカルが不在ということで、弾き語りをたまにやっていた自分が「ボーカルとして参加しないか」と声を掛けられたのことが始まりです。そのバンドが解散した時に自分のことを誘ってくれた人が「オリジナルバンドをやろう!」と、3ピースバンドとして活動をはじめて「さよならのかわりに」のリリースが決まっていたのですが、自分以外のメンバーが脱退してしまい…(笑)。
—それはいつくらいの話になるのでしょうか?
渡辺:5年くらい前ですかね。その時はレコーディングすることも決まっていたし、リリースも決まっていたので、どうしようか…となった時に今のドラムや、昨年脱退したベースが加入してほぼ今のアンテナになりました。
—ギター池田さんはいつ頃に加入されたのでしょうか?
渡辺:当初アンテナでギターを弾いていたメンバーがアンテナとは別のバンドを組んでいたのですが、そのバンドがプロダクションに所属することになったんです。そこは掛け持ちがダメだということで、その時に良いギタリストがいると池田さんを紹介してもらいました。アンテナの土台が固まったのはこの頃ですね。
—初めて新宿ロフトに出演した時のことは覚えていますか?
渡辺:「平成デモグラシー」というイベントだったと思います。そこで初めてロフトの樋口さんとお会いして、打ち上げでお話したことを今でも覚えています。
—初めて新宿ロフトに出演した時の心境はどんな感じでしたか?
渡辺:仙台に住みながらも、新宿ロフトは伝統があって大きいライブハウスの印象でした。また数々の先輩バンドを輩出していたので、出演が出来るとなった時は凄く嬉しかったです。ライブハウスが東京にどれくらいあるかも知らなかったのですが、新宿ロフトという名前だけは仙台にも届いていたから純粋に嬉しかったですね。
—そんな新宿ロフトのステージに上がった時の心境はいかがでしたか?
渡辺:ただ単純に大きいなと思いました(笑)。お客さんも沢山いましたし出演バンドも多かったしで、改めて東京は人が多いなと思いました。圧倒された印象ですね。
—初めて出演してもらってから約4年の間にワンマンライブや自主企画、様々な公演に出演して頂きましたが、中でも特に印象に残っている公演を聞かせてください。
渡辺:ホットスタッフ主催の「Ruby Tuesday」というイベントに出演した時で「カラスは真っ白」「SHE‘S」「ヒグチアイ」さんと共演した時はとても刺激的でしたね。
—どんな所が刺激的でしたか?
渡辺:先ほど話した「平成デモグラシー」同様にお客さんが沢山いて、普段あまり交えない客層の前で演奏出来たことが自分の中では新鮮でした。当時の自分達は、普段とは違う客層の前でどんな風に向き合って演奏するべきかをまだよく分かっていなかったので、とまどいながらも楽しめた印象ですね。あと、音速ライン企画の「ビールナイト」に出演したことは大きかったです。
—仙台に住みながら東京に通っている中で大変だったことはありましたか?
渡辺:特にないです。自分以外のメンバーが大阪から仙台へ帰る時、お盆時期だと思うのですが3時間経っても10m程度しか進まないことがありました。そんな渋滞に僕以外のメンバーが巻き込まれて(笑)。帰るのに20時間くらいかかりとても大変だったという話を後日聞きました(笑)。
自分が苦しくても集客が減っても支えてくれる人がいることを知り、ここでくじけちゃいけないと改めて思いました
—去年の春に初めて新宿ロフトにてワンマンライブをすることになるのですが、その当時の心境を聞かせてください。
渡辺:当時は「底なしの愛」というミニアルバムを出してからのライブだったんです。その作品の1つ前に「バースデー」という作品をリリースして、「底なしの愛」をリリースするまでの間や、リリースしてからのツアーは自分の中では正直苦しい時期でした。それはバンドの集客にも響いていて思ったより集客に繋がらなかったし、CD売り上げも「バースデー」をリリースした時よりも伸びていなかった。その理由も活動しながら分かることもあり、今思うとしんどいながらのツアーでした。それでもワンマンライブをする! と言えば来てくださるお客さんがいるわけで。自分が苦しくても集客が減っても支えてくれる人がいることを知り、ここでくじけちゃいけないと改めて思いました。
—その時は逆にお客さんから元気をもらった感じだったんですね。
渡辺:ロフトでワンマンをするにあたりソールドアウトをすることが目的ではなかったのですが、僕たちの思う目標には届かなくて。正直とても悔しかったのですが、ここで心が折れちゃうのは一番かっこ悪いなと思って(笑)。「底なしの愛」のリリースツアーが終わるにあたって、今後バンドがどうしたら良いのかを考えていた期間でもあったので、そこで一つ答えが見つかったのが新宿ロフトでのワンマンライブでした。次作「天国なんて全部嘘さ」というミニアルバムに繋がったし、今後のライブのやり方にも繋がったし。
—初めての新宿ロフトのワンマンライブは大きかったようですね。
渡辺:とても大きかったです。表現方法が悪いかもしれないのですが、アンテナは「替えがきく音楽になっちゃうな」と自分たちでは思ってしまって。歌詞の内容にしても楽曲の作り方にしても別に「アンテナじゃなくても良いじゃん」「アンテナじゃないバンドでも同じように救われる」という感覚にバンドがお客さんに思わせていたと思うんですよ。でもそうじゃなくて「アンテナにしか言えない言葉」や「アンテナがアンテナらしく説得力あるライブ」というのを自分達の足元を改めて見ながら活動していくきっかけになりました。
—アンテナ企画も新宿ロフトで開催しましたね。
渡辺:この企画をした頃からバンドの雲行きが怪しかったな…と自分の中では感じていて。東京でライブをし始めた頃はお客さんも徐々に増えてきたのですが、東京が怖いと思うのはシーンの流れ方がとても早く感じることですね。
—そんなに違うものですか?
渡辺:仙台に住んでいると東京と比べると時間の流れ方がとてもゆっくりだから、東京は現状維持さえも難しいなと感じてしまう。1人でも2人でもお客さんが増えていくのを理想として活動していたのですが、ロフトで企画をやらせてもらった辺りから集客が減ってしまって。その時に自分たちが今のスタンスのままバンド活動していたら、このまま尻すぼみになってしまうなと薄々感じてしまい…。今思うと全部に意味があるものだなと改めて思います。
—いろんな経験を踏まえた今の心境はどんな感じでしょうか?
渡辺:バンドとして「こういうライブをしていきたい」とか「お客さんに言葉を残していきたい」とか明確なコンセプトがようやく見つかった気がします。「天国なんて全部嘘さ」という曲が出来て、ライブのやり方やお客さんの反応が一昨年とはまるで違う。2016年の動きの中で集客が戻ってきて、「天国なんて全部嘘さ」を発売した時のCDの動き方が「底なしの愛」の売り上げを1週間で超えたりと、自分たちの中で気づけたものがありました。思い返すと上手くいかなかったり、メンバー脱退があったりで感じたことが今の自分や「天国なんて全部嘘さ」という曲に繋がった一つの要因だったりしますね。辿れば何一つ無駄なものはなかったです。
—最近はどんな活動をしていますか?
渡辺:ツアーが終わって、今年度はどうしようか…とみんなで話していて。メジャーデビューするにあたって絶賛準備中ですね。
—もともとメジャーデビューは目標としていましたか?
渡辺:漠然と意識はしていましたけど、メジャーデビューしたからといって自分の中で何かを残したいとかどうしてもこうなりたいとか、貪欲さはバンド自体にもともとなかったんですよね。良い曲を作っていれば売れるかと思い、商業的な目線で音楽を作っていた自分がいたんですよね。「100人が聴いて100人が良いと言ってくれるような曲を作らないと!」と思っていました。お客さんがアンテナに払ってくれたチケット代やアンテナの曲に救われたという気持ちの重さに当時はあまり気付けていなかったんですよね。今ほど強く感じていなかったです。
—経験値を踏んだからこそ、今の方が意識的に商業的に意識しているものだと思いました。
渡辺:やり方としては全然違いますね。寧ろバンドがやりたいことにお客さんがついて来てくださいというスタンスですね。言葉が悪いかもしれないのですが、お客さんに媚を売る楽曲やライブのやり方になると小手先のことで誤魔化そうとしてしまう。バンドがどうしても言いたいことや自分はこれを思っているんだ、伝えたいんだ! ということにお客さんが惹かれることがもともとのあり方だと思います。30分という与えられたライブ時間の中で嘘偽りなく、自分の言葉でMCをしたり、ライブの立ち振る舞い方、どこをどう切り取っても素直に「この人達はこういうバンドなんだ」と、音楽を通してどれだけアプローチが出来るかだと思うんですよね。その結果、お客さんが嫌いだなと思ったらそれはそれで仕方ないと思います(笑)。自分たちが言いたいことを言えないまま、嫌いだって言われるのも悔しいですし。ライブを通して自分達の人間力を見せることが出来れば良いなと思います。