Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー博史池畠(アニメーション監督)×石ダテコー太郎(アニメーション監督)(Rooftop2016年3月号)

クリエイティブとビジネスのバランス感覚

2016.03.01

 昨年3月に開催し大好評だった、博史池畠監督と石ダテコー太郎監督のトークイベント。1年ぶりの第2回開催を前に、お酒を交えて振り返りつつお話を伺ったところ意外と深い話が!!両監督の作品制作のこだわりをご覧ください。
(interview:柏木 聡 / Asagaya/Loft A)

作品の面白さを損なわずに調整して着地させる

 
―― 1年ぶりになりますがどんな年でしたか。
博史池畠(以下、池):昨年は “ロボットガールズZ” “それが声優” の監督、“ニンジャスレイヤー”の演出と自由にやらせてもらって、アニメってラクで楽しいなあと思ったんです。それが終わって、今は他の監督の作品の演出をやっているんですが、あんまり自由じゃないところもあって。好きなことをやっても何も言ってこないくらい自由な作品がやりたいなあと思っています(笑)。
石ダテコー太郎(以下、石):何かの牽引力がないと実作業に負担を感じてしまいますよね(笑)。
――やりたい作品とはどんなものですか。
池:すごいギャグかすごく嫌な話です。最高に欝になる嫌な話をしたいんですけど、華やかさがないので難しいと思います。
石:僕はお客さんが喜んでくれるなら、なんでもやりたいです。お金儲けだけのものはやりたくないです。
池:好きなことで儲かれば最高です。自分が好きなものは、お客さんも好きだと信じたいです。
――それがないと監督はできませんよね。
石:実を言うと、その感覚は僕にはあまりないんです。元々、お笑い芸人をやっていたこともあって、舞台だと目の前のお客さんを笑わせないと、自己満足が一切通用しない世界を経験したので、好きなことをやりたいという欲求は二の次になっています。
池:僕は学生時代の好き勝手に作った作品が受けて気持ちよかった、という原体験があるんです。“ニンジャスレイヤー”は、大学時代に作った似た感じの自主制作を、監督の雨宮哲さんが好きで、それがキッカケで誘ってもらえました。商業作品だと普段はどうしてもまずお客さんのことを意識するんですけど、そこをあまり意識しなくていい自由な作品で、忘れていた感覚を思い出させてくれました。
――石ダテさんは “キュートランスフォーマー”を監督されていましたがいかがでしたか。
石:歴史のある作品なので先方のこだわりも強いんですが、DLEのクリエイティブプロデューサーの方がすごく理解のある方で、何かの修正指示があっても、「ここにはこういう意図があるから」と伝えるとそこを汲んでくれるのでとてもやりやすかったです。
池:そういう人がもうちょっと増えて欲しいですよね。以前、制作にホストを入れるのがいいんじゃないかと言ったことがあるんです。喜ばせるのが仕事なのでバッチリだって。
石:そういう体育会系の人は、必ずしもアニメが好きじゃないので難しそうですけどね。
池:体育会系の人は、現場に入ると作品に愛を持ってくれるので大丈夫だと思います。それでいうと最近、業界に入ってくる人はいい大学出身の人が増えています。確かに頭がいいことが多く、事務能力が必要でもある制作には向いているのかなとも思います。
石:でも、勉強ができる頭の良さと、答えがないものの解を出す頭の良さは違うじゃないですか。アニメ制作には特に後者も必要なので、そこに気づけないと困りますよね。
池:クリエイティブな部分は、分かる人に任せてくれる人だと助かります。
――実際の現場にいらっしゃる方はどうですか。
池:サンライズで一緒に仕事をしたプロデューサーの平山(理志)さんは東大出身で、頭は当然いいんですけど、その辺のバランス感覚も優れた方でした。そういう方が増えるといいですね。
石:このバランス感覚って難しいんだなと思います。一見、きっちりしていれば誰でもできるように感じるんですけど、作品の面白さを損なわずに調整して着地させることが出来る人は、少ないんじゃないかと思います。
池:クリエイターに寄りすぎると現場を抑えられないというのもあります。
石:かといってビジネス側によってしまうと、作品自体に吸引力のある名作が生まれなくなってします。そうなると大きい会社だけしか作品を作れなくなってしまうと思うんです。
池:意識格差も大きいと思います。低いのはもちろんダメですが、クリエイター側によりすぎて意見を取り込み過ぎると、制作期間や予算を圧迫してしまい現場がダメになってしまいます。そういった作品もありますから。バランスが大事ですよ。
石:クリエイター側の理解をしつつ、手綱を握れるのが理想ですね。それはクリエイティブ側にも理解がないとできないので難しいです。
 

若い人たちが当たり前に触れているものは見ておきたい

 
――答えがない世界だからこそ難しいですよね。
石:今ほどWEBが発達していると、発信する側の嘘がまかり通らなくなっていると思います。なので、もう少し「ちゃんと面白いもの」が評価されるようになるんじゃないかという期待もあります。
池:配信の再生数や視聴率などで評価が出るようになれば、また変わってくるのかなとも思います。DVD・Blu-rayの売上で資金を回収する形だと、高評価を得られるジャンルが固定されるので、いろんな作品ができるようになるといいですけどね。
――似た作品が多いとお客さんも飽きてしまうと思うんですけど。
石:もし失敗したときのためにビジネス的な保険をかけたがるんです。その保険が重なって、こんなに積んだら飛べません、本末転倒です!という状況になります。意外と若い人に多いので、もっと自由でいいのにと思うことがあります。
池:でも、現場には若い人が欲しいんです。今の人が好きなものって僕らじゃついていけてないところもあるので、それは欲しい。同世代と話していても知識確認にしかならないので、若い子の中でこんなものが流行っているんだったら、僕の持っているこの部分を出せるということをしていきたいです。
石:確かに作品を発表していく以上、今の若い人たちが当たり前に触れているものは見ておきたいです。
――最近のもので良かったものはありますか
石:ゲームですが“スーパーマリオメーカー”はとても勉強させられました。あれは、作った人がクリアーしないとステージを登録できないんです。つまり無理なステージは登録できない仕様になっていて、ちゃんと考えられてると思いました。
池:誰でも楽しめるものを作るのは凄いですよね。この前イヤホンズのライブに招かれて行ったんですけど、お客さんを喜ばせることにだけに前進していて、これは僕にはできない凄い世界だなと思いました。
石:僕も先日、上坂すみれさんのライブに行ったんですけど、すごかったです。基本的には世界観を作りこんだ豪華なステージパフォーマンスなんですけど、合間のトークが上坂さんの親しみあるキャラクターのままだし、客席を歩き回ってお客さんと会話しながらプレゼントを渡していくコーナーが1時間近くあったり、こんなに緩急の差を演出できるライブがあるのか、と驚かされました。やっぱり変化球のキレを一番見せる方法は、ストレートを磨くことだと改めて気づかされました。
 
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LIVE INFOライブ情報

3/19(土)
『池畠×石ダテ アニメ監督トークバトル 泥酔マッチ! 第2ラウンド』
OPEN 18:00 / START 19:00
前売¥1,500/当日¥1,800(共に飲食代別)
※前売券はイープラスにて発売中
 
【出演】
博史池畠(アニメーション監督)、石ダテコー太郎(アニメーション監督)
兵頭一歩(脚本家)、井上純一(作詞・作曲家)
前田久(ライター)
 
 
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