1990年より週刊少年ジャンプに連載され、当時の小中高生(特に男子)を夢中にさせた、漫☆画太郎による伝説のギャグ漫画「珍遊記〜太郎とゆかいな仲間たち〜」がまさかの実写映画化!監督を務めるのは、「地獄甲子園」「魁!!クロマティ高校 THE☆MOVIE」など、映像化不可能と言われた漫画原作モノを手掛けてきた山口雄大。そしてなんと脚本を手掛けるのはプロダクション人力舎所属の芸人トリオ芸人鬼ヶ島のリーダーおおかわら(共同脚本:松原秀)、だというから驚きの連続だ。果たして何故そんないきさつになったのか、また制作過程はどうだったのか、など映画公開を間近に控えた二人に今のお気持ちを伺った。【interview・構成:鈴木 恵/高橋啓】(Naked Loft)
———まず「珍遊記」を実写映画化することになったきっかけは何ですか?
山口雄大(以下、山):3年程前に、今回企画・総合プロデューサーという形で参加しているDLE(制作プロダクション)の紙谷さんから声をかけられました。最初は正直ちょっと「珍遊記」は触りにくいなと思いました、衣装とかメイクとかも大変になりそうでしたし。でも他の人に監督をやられるのだけは絶対に嫌だったんです。他の人が監督した「珍遊記」を映画館に観に行くのだけは絶対に避けたいなと思ったんですよ。とりあえず最初は開発だけ関わる感じで、1年後くらいに正式決定になったんですけど、アイデアが固まるまですごく時間がかりました。以前の作品とアプローチを変えたいなと思っていて、あれはいわゆるコア層、画太郎ファンに認めてもらいたいっていう気持ちがあって作った部分が大きかったんですけど、今回はもっと幅を広げようという意図がありました。いろんな人が観てくれるヒット作にして欲しい、というのは画太郎さんからのお願いでもあったので、映画の脚本家じゃない新しい血、新しい視点が欲しいなと思ってたんです。もう一人の脚本家の松原秀君はもともと知り合いだったんですが、その時期にちょうどタイミングよく、鬼ヶ島の単独ライブ(『鬼ヶ島 イン ワンダーランド』2014年7月25、26日に東京キネマ倶楽部にて開催)の誘いを貰って観に行ったら、いくつかあるコントの中で、一番ウケてないコントがあったんですけど、それが異様に好きだったんですよね。僕は一人で物事を考えていると、他人がわからない境地に達しちゃうんですけど、それに近いものを感じたので、このコントを書いた人と話してみたくておおかわら君を紹介してもらいました。そこから、松原君とおおかわら君とプロデューサーの紙谷さんと4人で話してみて始まった感じですね。
———おおかわらさんは話をもらった時どう思いましたか?
おおかわら(以下:お):「珍遊記」とか漫☆画太郎先生というのを聞いて、すごい話だなと思いましたが、以前から映画監督として知っていた山口雄大監督が僕に「脚本やってみない?」と軽い感じで言ってきた事にまず驚きました(笑)。急にとんでもない話が来たな、と。松原も映画脚本をやったことはないですし、未経験の二人に脚本を頼んだ監督のフットワークの軽さと柔軟な考えに、すごい勇気というか…思い切った発想だなと驚きました。
山:でもダメだったら責任は被るつもりでいましたけどね。
お:感激しました。嬉しい事ですよ。
山:芸人さんの能力には、すごくリスペクトがあります。とは言っても、おおかわら君は脚本を書いたことがないからどうやって書いたらいいかも分からないんですよ。プロット(あらすじ)という言葉も知らないくらいですし。でも、後からサポートするからと言って、自由に書いてもらいました。
お:プロットって言われても全くわからなかったんですけど、カッコつけて知ったかぶって、後で監督に「プロットって何ですか?」って聞いたりしてました(笑)。
山:手書きですしね(笑)。
お:右手を真っ黒にしながらやってましたよ。
———じゃあ本当に大変な作業でしたね。
山:でも形が決まってからは早かったですよ。映画のオリジナルキャラで龍翔っていうキャラが出てくるんですけど、そのキャラができあがってからは早かったですね。
———龍翔はどういうイメージで生まれたんですか?
お:原作はストーリーの展開がないじゃないですか?それが良さなんですけど。でも映画としては話をつけないといけないからライバルを作ろう、っていう案を監督が松原と話し合って決めた感じですね。
山:普通の映画だと主役に目的とかモチベーションがあって、そこからストーリーができたりするんですけど、主人公の山田太郎は目的がないんですよね。かといってそれを作ってしまうと山田太郎ではなくなってしまうので、立ち寄った街で何か起きないと話にならなくて。そこから、龍翔という怪しげなキャラクターができました。でもそこで恋愛要素を入れた方が良いって言ったのは、おおかわら君なんですよ。
お:せっかく玄奘も女性なんで。
山:玄奘が女性だというのは最初から彼が言ってたんですよ。
お:「珍遊記」を実写映画化して恋愛要素が入るとは誰も想像しないと思ったので、面白いかなと。
———制作をしていく中、おおかわらさんから見た監督はどう見えましたか?
お:僕にお声を掛けて頂いたという驚きは最初あったんですけど、打ち合わせ終わりに結構飲みに行く機会が多くて、途中から飲み友達みたいな感覚になっちゃってました。ただし脚本はそうならないように、オンオフを切り替えて真面目に書いてましたけど。撮影現場に行って拡声器を持って仕切っているのを見て、「あ、この人すごい偉いんだった」ってハッとしたりしました。飲んでる時のだらしない感じと全然違う!って(笑)。
———撮影現場は結構行かれたんですか?
お:ほぼ行きましたね。8割くらいはいました。
———では、監督から見ておおかわらさんはどう見えましたか?
山:「こんな作品のお声がけを頂いて」とか言ってるじゃないですか?でも、そう言いながらすごい頑固なんですよ、不服そうな顔をしてる時もあるし。だからこそ信用できる部分があるんですよね。一緒にチームを組む人間として、新参者だから意見を言わないというのは信用できないですから。だからムカつくことは多々あるんですけど、それは重要だと思います。彼も僕にムカつくことがあるでしょうけど、ちゃんと意見を言い合える関係性が築けていないと一緒にはやれないので。なるほどと思う事も多いし、この人に任せて大丈夫だなっていうのは当初から思いましたね。
———いい関係性ですね。
お:一緒に飲んだりするのは大事だなと思いましたね。身の上話をしていると、お互いの考え方も見えてくるので。
山:制作当初はザ・画太郎な映画にしようと思って、芸人さんがたくさん出るものにしようとしてたんですよ。でも、おおかわら君と松原君が脚本に入った時に「ヒットさせたいんだったらそれはやめましょう」と言ってきたんです。そこから僕のガチガチになっていた考えがどんどん外されたので、すごいありがたいなって思いました。じゃあ山田太郎は誰がいいのか、という時に松山君の名前が出たんですね。ビジュアルイメージで言えば山田太郎とは全然違うじゃないですか。外側じゃなくて、中身をちゃんと演じてくれる役者だと信用はしていたんですけど、あまりにも違うから最初はどうなんだろうと思っていました。松山君とは以前、夏目漱石原作で脚本が漫☆画太郎の『ユメ十夜』っていう作品で一緒になったんです。彼は画太郎さんのファンですし、何かまたできればと言い合っていたので、実現出来て良かったです。僕も松山君も直前までかなり不安でしたけどね。
———玄奘を演じた倉科カナさんはどのような感じでしたか?
山:倉科さんはまさか引き受けてくれると思ってなかったんですよ。こういうお下劣な内容の映画なので、脚本を読んでハナからダメっていう人もいますし。玄奘に限らずジジイババアの役も即断られたりしたんですよね。でも倉科さんは、脚本を見た上でやってみたいって言ってくれて。ただ重要なのはハゲヅラが似合うかどうかだったんですよ。似合わないと玄奘役はできないので。松山君は山田太郎に決まっていたので、松山君のメイクテストをしながら合成写真を作って並べてみて。この二人ならピッタリだなと、倉科さんに決定しました。
———撮影に入ってからはいかがでしたか?
山:倉科さんは飄々とやるんですよ。役作りに関してもほぼ質問をしてこないんです。こんなこと言っていいかわからないですけど、とても楽でした。サクっと演じるのに意図から外れないし、すごく一緒に仕事をしやすい方でした。でも大変だったと思いますよ、一番出ていますし、毎日特殊メイク・ハゲヅラメイクですからね。
———他キャストについてもお伺いしますが、笹野高史さんは異性のババア役でしたね。
山:最初はババア=女性という概念から離れられなかったんですが、キャストを決めていく内に、ジジイ役でオファーをしていた笹野さんがババア役をやりたいと言ってきてくれたんですよ。「僕が目指しているのは青島幸男の『いじわるばあさん』なんだ」と。「その手があったか!」と目から鱗でした。
———原作では登場人物として出ていたピエール瀧さんも出ていますね。
山:瀧さんは一番最初に決まったキャストなんですよ。松山君が決まるより前から瀧さんは絶対出さなきゃダメだって思ってて。初版のみですが原作にも出てるし、瀧さんの原作で画太郎さんと漫画も描いてるし、とにかく絶対出てもらわないとダメだと思ってたんです。瀧さんは役者意識が高いので電気グルーヴ役だとあまりやりたくないだろうなと思った時に、変身前の山田太郎しかなかったんですよ。がっつりメイクなので本人曰く「俺じゃなくてもいいだろ」って言ってましたけど。
お:下手したらわかんないですもんね。瀧さんって。
山:でも表情とか芝居が瀧さんでしたね。多分意識されて顔を動かす芝居をされてたから、より瀧さんっぽくなってたと思います。