──『NIPPOP』というタイトルですが、“NIP”は“日本人”を指すスラングですから、つまりはヘンショクリュウなりの“日本人のポップ・ミュージック”をこのアルバムで表現したいといったニュアンスですか。

ハギハラ：そうですね。僕の国籍は日本だし、僕らはJ-POPをやってますから。最初は『ニッポンの音楽』とか『ジャパニーズ・ミュージック』みたいなタイトルにしたかったんですよ。“ニホン”じゃなく“ニッポン”って小さな“ツ”が入るとグルーヴィーにも感じたし。でも『ニッポンの音楽』だとちょっと普通で弱かったんですね。それで“ニッポン”の“ポップ”ということで『NIPPOP』という造語にしたんです。

──ニッポンのポップ・ミュージックの新たなスタンダードになってやる、みたいな意志が込められているようにも感じますね。

ハギハラ：その気持ちもあります。R&Bとかブラック・ミュージックをやっている日本のミュージシャン自体はかなり多いんですよ。ここ何年かゴリゴリのR&Bをやっている安室奈美恵も僕は凄く好きですし。でも、それを聴いているファンがその音楽を肉体的なブラック・ミュージックとして受け止めているのかと言えば、果たしてどうなのか？ と。「安室ちゃんカワイイ」で終わってるんじゃないか？ と。

──もっとルーツに根差したブラック・ミュージックの日本人的解釈をこのバンドでやり遂げたいと？

ハギハラ：そういうことですね。ただバンドっていうのは結果的に僕が一番やりやすかった形というだけで、バンドそのものにこだわっているわけではないんですけど。

──誰もが踊れる音楽をやるのがヘンショクリュウの流儀ですか。

ハギハラ：結果的には踊らせる音楽になってますけど、こういう踊れる音楽があって当たり前だと僕は子どもの頃から思ってたし、そんな音楽のライブに行くならそりゃ踊るでしょ？ って感じですかね。さっき大爆発が言ったように、日本人はステレオの前に正座して歌詞カードを読みながら音楽を聴くのが大多数だと思うんですよ。だから自然と踊れるグルーヴィーな音楽を知らない人が多いのかな？ とか思ったりもして。それでこんな音楽をやっているのかもしれません。まぁそれは建前の話で、僕としては単純に「こういう音楽って普通は踊るもんだと思ってたんだけどなぁ…」って感じですけどね。何にせよ、周りと一緒のことはやりたくないですね。そうすることが結果的に新しい表現になってるじゃんっていう突っ込まれ所かもしれませんけど。ベース・ギターを弾き始めたのも自分に特技らしいものが当時はなくて、周りと差をつけたかったからなんですよ。

──今回の『NIPPOP』を足がかりとして、今後はどんな活動をしていきたいですか。

ハギハラ：気づいたら僕らの存在が当たり前になっていたらいいなという大いなる野望はありますね。小学生が「将来は宇宙飛行士になりたい」って言うのと同じレベルですけど。「この曲、泣けるよね」って女子高生が言うのと同じ感じで、「ヘンショクリュウの新しいアルバム、凄く踊れるから今度ライブに行かない？」ってJKに言われるようになるとか（笑）。

奥村：「この後どうする？」「ヘンショクリュウのライブでちょっくら踊りに行く？」みたいな（笑）。

ハギハラ：ニューヨークのクラブって純粋に踊りに行く場所なんですよ。格好いいダンサーがいたら、「あいつカッケぇから見ようぜ」ってサークルを作りながらバンバン踊る。それに比べて日本のクラブはナンパするのが目的だったりして、全然クールじゃない。だからダンス・ミュージックをもっと日常的なものとして根づかせたいですね。そんなこと余計なお世話かもしれませんけど、目標がないと続かないものですから。

──今回のレコーディング経験を糧として、さらにいい作品を生み出せる自負もあるのでは？

ハギハラ：今はまた新曲をどんどん作ってます。次のアルバムのタイトルもすでに決まってるんですよ。

隅田川：レコーディングのコツを徐々に掴んできたよね。

ハギハラ：曲はいくらでも作れますよ。音楽スタジオと時間さえくれれば、死ぬまで曲を作れる自信がありますね。

──下北沢シェルターでのレコ発はどんな感じになりそうですか。

奥村：何だろう、火の車で前途多難って感じじゃない？（笑）

隅田川：対バン含め、準備にあまり時間をかけられなかったんですよ。

ハギハラ：ライブ自体は、3人とも若いからこその恐れ知らずみたいなところがあるので期待してほしいですね。対バンにヘンな目で見られるのにも慣れましたし、恐れ知らずに拍車がかかってるんじゃないですかね。なので、恐れ知らずの火の車ってことで（笑）。

奥村：僕らのライブは、良く言えばその場のインプロ感を大事にしてるけど、悪く言えば何も決めてないからね（笑）。細かいことを決めすぎちゃうと、何かハプニングが起きた時にどうする？ どうする!? って慌てふためくと思うんです。でもヘンショクリュウのライブは30分通して全部がハプニングだから、何が起こるか分からない。

ハギハラ：自伝のことよりそこを太字にしてもらおうよ（笑）。