Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー桃井はるこ(Rooftop2015年9月号)

ロフトプラスワン&桃井はるこW20周年記念インタビュー

2015.09.01

 ロフトプラスワン20年の歴史の中で歌舞伎町に移転する前の富久町時代から続いているイベントは実は数える程しかない。その1つが元祖アキバ系の女王「モモーイ」こと桃井はるこ主催の「はるこの秘密」だ。そして今年は桃井はるこが桃井はるこという芸名になって20周年というダブル20TH ANNIVERSARYということで、桃井はることロフトプラスワンの20年を、はるこちゃん自身と、「はるこの秘密」イベントクルーである冒険王植村、今江望、キタさんに振り返っていただきました。(TEXT:加藤梅造)

ロフトプラスワンと秋葉原が桃井はるこの父と母(笑)

 
そもそも桃井はるこは、パソコン通信の草の根BBSから生まれたんですよね?
 
「高校生の頃、ラジオ番組の公開イベントによく行っていて、そこで知り合った人に勧められてパソコン通信を始めたんです」
 
パソコン通信といっても、いわゆる草の根BBSと言われたもので、そこには当時「アイドル冬の時代」と言われた時期に少数のコアなアイドルファンが夜な夜な集っていたそうだ。このBBSのオフ会的なイベントとして1996年9月15日に第1回目の「はる子の秘密」が開催された。
 
「やる前はそんなに長い時間しゃべれるのかって思いましたね。その頃の私は密かにアイドルの曲を作る人になりたいと思っていて、自分が表に出てなにかをやるなんて全く考えてなかった」
 
オフ会的な要素があったとはいえ、世間的には全く無名のいち女子高生による無謀な試みだったが、蓋を開けてみると会場は満員で、結局イベントは朝まで延々と続いた。
 
「自分でもびっくりでした。むしろ時間が足りないぐらいで。来てくれた人もお客さんというよりは、普段アイドルのイベントでしゃべったりする人とか、ネットでは既に知り合いだった人とかで、身内の雰囲気だからよかったのかもしれませんね」
 
記念すべき桃井はるこのデビューイベントは大盛況で、この後も「はるこの秘密」はプラスワンの看板イベントとして定期的に開催されていくことになった。
 
「それまで人前で話したことはなかったので、最初はかなり不安でしたね。でもこれがなかったら今の自分はないですから。このイベントを観に来てた人が、後に私が所属する事務所の人で、ラジオの仕事とかをやらせてもらえることになったんです。だからロフトプラスワンと秋葉原が桃井はるこの父と母だと思っています(笑)。中学生の頃はゲームやアイドルの話をする友達が周りに全くいなくて、秋葉原に現実逃避して、メッセサンオーでオタクのお兄さんとゲームの話をしていた私が、大勢の人の前で話をしていいんだって思えるようになった。当時流行っていたエヴァンゲリオンでいうと碇シンジの『僕はここにいていいんだ』状態?(笑)」
 
1996年はまだインターネットも普及してなく、ロフトプラスワン自体も知る人ぞ知る隠れ家的な店だった。イベントの告知はもっぱらチラシが中心で、(ぴあが扱ってくれなかったため)雑誌『噂の真相』と漫画雑誌『ガロ』に広告を載せている程度だった。
 
「“桃井はるこ”という活字が噂の真相とガロに載っているのが凄く不思議でした(笑)。まだそういう時代でしたね」
 
その後、ロフトプラスワンは店舗を拡大するために歌舞伎町に移転し、「はるこの秘密」もより大きな規模で開催されていった。
 
「20年後にロフトプラスワンがちゃんとあることと、桃井はるこがいることは想像してなかったから、本当にありがたいことです。はるこの秘密を始めた頃、席亭の平野さんが『音楽のライブハウスはたくさんあるけど、話が面白い奴が世に出るライブハウスはないから俺が作ったんだ』と言ってたのをよく憶えてます。それ以前は『トークライブ』という言葉もなかったですよね。トークショーだと堅い感じがするけど、トークライブっていう言葉が私に合ってたと思う。すごく自分が解放されたし、トークって楽しいなって。今でも海外のイベントとかでは質問大会があって、アニメファンの人達がたくさん質問してくれるんです。それってプラスワンでやってることとあんまり変わってない(笑)。言葉が英語になってるくらいで」
 
「はるこの秘密」はネットのコミュニティによるイベントというのも新しかったが、とりわけ斬新だったのは、はるこちゃんが「ときメモ」の藤崎詩織のコスプレで歌って登場した時だった。
 
「コミケとか同人誌の即売会ではコスプレの撮影会があったけど、コスプレで歌うっていうのは、今思うと分かりやすい登場の仕方だったなって。単に着る機会がなかったからハレの場で着たいってだけだったんですが(笑)。その後、秋葉原の路上でもコスプレして歌ったりしてましたけど、当時はかなり珍しがられてました」
 
これまでで特に印象に残っているイベントは?
 
「初期の頃は『これからのアイドルはどうなるか?』みたいな議論することが多かったんです。『SPEEDはアイドルか?』とか(笑)。それがある時、突然スイカ割りをやったんです。1998年の8月1日。それはすごく思い出に残ってますね。それもプラスワンが歌舞伎町に移転してすぐの頃で、お店がまだすごくきれいだったんです。あれは楽しかった」
 
1999年8月31日に開催した「はるこの秘密」では「萌え」というテーマで激論したことも。当時「萌え」という言葉は一般的には使われておらず、TV番組ではるこちゃんが「モエモエ〜」と言って共演者にひかれたことがイベントのきっかけでもあった。
 
「私たちの中では普通によく使う表現だったのが、世の中にはあまり浸透してないことが分かって、じゃあ改めて定義づけようじゃないかと。当時は秋葉系という言葉もなくて、『Mail Me』の帯にこの言葉を使った時は、渋谷系という人がいるなら私は秋葉系だなと思って書いたんですね」
 
桃井はるこのデビュー曲『Mail Me』(2000年5月発売)のCDの帯には「モモイズム炸裂! モエモエ〜ヽ( ´-`)ノ 21世紀へのBGMはこれで決まり! “アキバ系”桃井はるこの自作詞作曲1stシングル」と書かれていて、その後に流行語となる「萌え」「アキバ系」という言葉を見事に先取りしていたのだ。
 
桃井はるこ(記事中写真).jpg
初期の「はるこの秘密」(富久町時代のロフトプラスワンで)

今こそオタクに語って欲しい

桃井はるこは自分主催のイベント以外にも多くのイベントにゲスト出演している。樋口真嗣や見沢知廉らとプラモデルを作るイベントやマッドビデオ上映会など、オタクイベントがプラスワンの主流になるに伴い、はるこちゃんの出演回数も増えていった。
 
「映画監督の園子温さんと初めて会ったのもプラスワンですね。ある日、何かの打合せで開店前のプラスワンに行ったら、そこに一人で勝手にビールをついで延々と飲んでる人がいたんです。それが園監督だったんですが、この人お店の人じゃないのに勝手に飲んでていいのかな?って(笑)。それで話しかけてみたら、私がオタクだってことに興味を持ってくれて、それが縁で仲良くなったんです。その後、園さんには『Mail Me』のミュージックビデオを監督してもらったんですが、ほんとプラスワンはルイーダの酒場だなって思います。いろんな人に出会える場所ですね」
 
はるこちゃんがミュージシャン、声優、ラジオパーソナリティなどの活動で多忙となり、「はるこの秘密」は一時期中断していたが、プラスワンの10周年を機に再開。その後は年1〜2回のペースで継続している。長く続いているからか、お客さんは年季の入った古参ファンから最近ファンになった若者まで、実に幅広い世代の人達が一堂に会するものになっている。
 
「一度、世代論的なテーマでイベントをやってみたいと思いますね。昔、プラスワンで『どーした?どーなる オタクジェネレーションギャップ』というイベントに出させてもらったことがありましたが、そういうテーマで今やったらどうかなって。その時とはまたオタクも代替わりしているから、今の若いオタク論客を呼んで話をしてみたい。ラブライバーとかボカロPとか。でも、今の若いオタクを代表する人って誰なんだろう? いないのかなあ。もしかして今はオタク論自体が必要とされてないのか?(笑)」
 
確かにかつてのオタクには理屈っぽいイメージがあったが、今はもっとライトで一般的なものになっているのかもしれない。
 
「はるこの秘密にずっと共通するテーマとして、オタクとは何か?っていうのがあると思うんです。私達世代のオタクは、これが好きだって言うのに何か理由が必要だった。萌えアニメが好きって公言することがまだ恥ずかしいというか、例えば『涼宮ハルヒの憂鬱』はSF作品として素晴らしいんだっていう理論武装が必要だったと思うんです。でも『けいおん!』とかになると『女の子かわいい!終了』みたいな、わざわざ萌えを好きな言い訳をしなくてよくなった。部屋にフィギュアを飾る時に自分に対する言い訳が不要になったというか。ヨーロッパなど海外のオタクはまだ言い訳する必要があって、アニメを大人の男性が観ることは今でも恥ずかしいことみたいなんです。日本だと当たり前になってるけど。でも、語らなくなったオタクに今こそ語って欲しいな。オタクジェネレーションギャップ、またやりたいですね!」
 
 
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今はなき富久町プラスワンの正面看板の前にて
 
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はるこの秘密クルー(新宿某所で作戦会議中)
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桃井はるこ New Album
『STAY GOLD』

2015 年10 月21 日(水)発売
POCS-1364 / 3,000yen(tax out)
販売:ユニバーサルミュージック
tokyo toricoレーベルより発売

amazonで購入

LIVE INFOライブ情報

祝・ロフトプラスワン&桃井はるこ20周年!
「はるこの秘密Vol.22 “20周年”すぺしゃる」
2015年9月18日(金)
Open 18:00 / Start 19:00
出演:桃井はるこ
ゲスト:NOZOΛΛI (ex.Little Non)
前売¥3000 / 当日¥3500(飲食代別)
ローソンチケットにて発売中(Lコード:37763)
≫ロフトプラスワンスケジュールはこちらをクリック
 
LPO20thバナー1.jpg
 
桃井はるこ『STAY GOLD』発売記念ライブ !!
2015 年9月21 日(月・祝)
Open 16:00 / Start 17:00
出演:桃井はるこ
スペシャルゲスト:PIP:Platonics Idol Platform
会場:世⽥⾕区⺠会館ホール (東京都世田谷区世田谷4-21-27)

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