俳優・斎藤工を始め、数多くの熱狂的ファンを抱える超個性派ピン芸人・永野。近年では独特の風貌とネタを武器に、もはや「地下芸人」とは呼べないほどの活躍を見せる永野が、このたびロフトプラスワンにて2Days単独ライブを開催! 早くも前売SOLD OUTとなった「業界関係者向けライブ」を目前に控えた永野が語る「単独ライブをプラスワンでやる理由」とは? コンプレックスとアルコールまみれの永野ワールドに括目せよ!![interview:石崎典夫/構成:マツマル(LOFT/PLUS ONE)]
「差別」と「偏見」からネタ出し
《下北沢駅前にて》
永野:今日はすいません、新宿から下北沢までわざわざ来てもらっちゃって。
──いえいえ、大丈夫ですよ。確かに直前で場所が変更になったので驚きはしましたけど。
永野:ホントにすいません。ニッチェ(お笑いコンビ)の江上ちゃんと昼から呑んでたもんで。あいつ後輩なのに普通におごってくれるんです。呑みすぎて移動がダルくなっちゃったんですよね(笑)。
──呑んでたんですか!? って言うか永野さん、この後お仕事なはずじゃ……。
永野:いや、もう今日は事務所に内緒で呑みましょう! ちょうどこの近くにクソみたいな居酒屋があるんで。
《というわけで(クソみたいな)居酒屋に移動》
──このたびはプラスワンで久々の単独公演ということで、ちょっとその辺の話を伺ってもよろしいでしょうか? 永野さんが最後にウチで開催したのは2009年ということで……。
永野:いや、2011年の4月10日に『ジュリアナ・カムバックスペシャル』っていうのをやってますね。本編でネタを一通りやった後、ギラギラした照明の下でジュリアナをひたすら踊りまくる……っていう景気のいいヤツでしたね! プラスワンではいつも好き勝手にやらせてもらえるんで、とても楽しいです。
──ああ、そうでした(笑)。まぁご本人が楽しければいいんじゃないでしょうか。
永野:おかげさまで最近は大きい会場に呼んでもらうこともあるんですけど、自分の意志でいろいろやれるのは嬉しいですね。「カルト芸人」と称されるのは別に構わないですけど、なんか金持ちの道楽に付き合ってるような気分になっちゃうもんで。
──最近はテレビでもよくお見かけしますね。
永野:いや、もう正直「ノッてるな〜」って思いますね(笑)。そう言えば、今度のイベント、俳優の斎藤工くんを招待してるんですよ。
──えっ!? ホントですか? 凄いじゃないですか!!
永野:あとはこじはる(小嶋陽菜)さんとか、ももクロとか……もう手当たり次第、声を掛けてますよね。まぁ誰一人として来ないんでしょうけど(笑)。
──ただ声を掛けただけなんですね(笑)。永野さん独特のネタについていろいろと訊きたいんですけど、「天狗100人と喧嘩する」とか「オカマバーの台を揺らす」とか……どういう精神状態でこういうネタを考えるんでしょうか。
永野:全然覚えてないけど、どうせ酒呑んだ時に考えたんでしょうね(笑)。ただ、基本的に「偏見」からネタが生まれてる気がします。生まれたところや皮膚や目の色で人を差別してるんで、ザ・ブルーハーツとは真逆な思想でやってますね。ドブネズミとか超汚いし、「こいつら何言ってんだろう?」って常に思います。
──ハンパじゃない差別意識ですね(笑)。ヒロトさんがこの記事を読まないことを祈ります。
永野:基本は差別ですけど、照れ隠しの部分もあるんです。この前、プラスワンでハリウッドザコシショウさんとユンボ安藤さんと僕がそれぞれ軍団を率いて「地下芸人最強の軍団を決める」っていうイベントをやったんですけど、審査の結果、僕の軍団が惨敗したんですよね。頭にきて、お客さんに向かって「お前らサブカルバカが!」とか「『クイック・ジャパン』でも読んでろコノヤロー!」とか言っちゃったんですけど、『クイック・ジャパン』は普通に立ち読みしてますからね。サブカル大好きですから!
永野のルーツは香港映画?
──「ネタのアイデアは基本、差別から」ということですが、今回のイベントはどんなネタを考えてるんでしょうか?
永野:これはまだ言っちゃいけないかもしれないんだけど、休憩時間にかけてもらう曲は決めてますね。パブリック・エナミー(人種差別問題を扱う黒人ラップ・グループ)のアルバムを、初日にファースト、セカンド、2日目にはサード、フォースと流してもらおうと思ってますね。
──まさかのBGMから(笑)。
永野:外堀から埋めちゃうよね。なぜなら偏見の塊だから(笑)。
──今回の『業界関係者向けライブ』、初日が『バーストナイト』、2日目が『メンヘルナイト』と、コンセプトで分けてるんですよね?
永野:『バーストナイト』はヤバいですね。ずっと僕のことを見てくれてるお客さんのために、ちょっとレアで意味分かんないネタもやろうかと思ってます。逆に『メンヘルナイト』は「人ってこんなに変われるの?」って思われるくらい一般層に媚びまくる(笑)。
──今回は両日ともにチケット完売で、一般層の認知度も高くなったなと感じます。
永野:『アメトーーク!』辺りのおかげで最近は「親子で見に行きます!」みたいなお客さんもいたりするんで、自分の中では「ポップ」なネタを試してみたりもするんですが、ことごとく滑ってますね(笑)。売れてきても相変わらずその辺で周囲とのズレはあるみたいです。
──僕自身、永野さんを長年見てきてるんで、芸風がポップになってきたなとは思うんですけど、やっぱり随所に永野さんらしいトガった部分は感じます。
永野:おかげさまでいろんな舞台に出演させてもらってるんですけど、その割にはあらゆる場所でクソ滑ってるんで、自分のことは「スーパー奇をてらってる凡人」だと思ってます(笑)。実は今日も昼にやった舞台がクソ滑っちゃって、それでヤケ酒してたんですけど。
──繊細ですよね(笑)。いつも思うんですが、永野さんの芸風は誰に影響を受けたんでしょうか?
永野:それ、自分でもよく考えるんですけど、昔テレビの『ゴールデン洋画劇場』で見た『Mr.Boo!』(1976年の香港映画)だなってことに最近気づいたんです。
──そうなんですか! でも動きとか小道具で笑わせるところとか……言われてみれば確かに分かります。
永野:もちろん(ビート)たけしさんとかダウンタウンさんには影響を受けてるんですけど、腹抱えて笑ったのは『Mr.Boo!』ですね。人を貶めて笑いを取る芸人は多いですけど、僕は自分がバカになって笑いを取るほうが好きですね。
ロフトプラスワンが人生の本番
──初めからピン芸人でやろうと思って芸能界に入ったんですか?
永野:コンビ芸も考えてましたけどね。2002年にそれまで所属していた事務所を辞めてフリーになったんですが、2007年にプラスワンで単独でやらせてもらった時、「自分のすべてを出し切ってやろう」と、ショートコントをみっちりやったんです。今でこそ、そのスタイルが定番ですけど、それが自分の中では「永野」単体として初めて納得がいく出来のライブだったんじゃないかなと思ってます。
──その2007年頃のネタのタイトルも持参してきたんですけど、「レズの魚屋さん」、「沖縄料理を思いっきり否定する人」、「メタリカのライブに来たメタリカのお母さん」と、この時点で永野さんが完成しているような気がします(笑)。
永野:うわ! ヤバい! 名作ぞろいですね(笑)。……ちょっとメモらせてもらっていいですか?
──どうぞどうぞ!
永野:「となりの家の二階の窓から自分の畑に射精された農夫」、「木村カエラは俺の嫁」……うわ〜、我ながらヤバいですね、これは。
──毎回、リハーサルの前にネタ表をもらうんですけど、そのタイトルだけでも本番が楽しみになっちゃいますね。
永野:いやあ、そう言われると嬉しいです。正直なところ、僕はロフトプラスワンが「人生の本番」だと思ってますんで。他の舞台は全部リハーサルみたいなもんですね(笑)。
──ありがたい限りですね。永野さんがそれほどまでに気合いを入れているという、今回の単独ライブに懸ける意気込みを聞かせてもらっていいですか?
永野:真面目な話、しばらくは単独でやらないつもりなんで、これが「永野」の集大成だと思ってもらっていいですね。凡人が見せられる最高の舞台にしたいです。サブタイトルをつけるなら『凡人・狂い咲きサンダーロード』ですかね(笑)。
──『凡人・狂い咲きサンダーロード』(笑)。全然、意味が分からないですけど。
永野:お笑いの天才がやってるライブなんかより、フツーのサラリーマンが週末の居酒屋で発狂してるところを見たほうが面白いんだ! っていうことを証明しようと思います。
──なるほど。とても楽しみです。……ところでそろそろ次のお仕事の時間じゃないですか?
永野:あ、そうですね。ちょっとマネージャーから電話が来たんで出ますね。(電話越しに)あ、ごめんなさい! いま近くの居酒屋でロフトプラスワンから取材を受けてまして。はい! すぐ行きます。呑むつもりじゃなかったんですけど。すいません!
──いとも簡単に裏切りますね。やっぱり永野さんはフツーじゃないと思います……。