Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー長濱博史(アニメーション監督)/Rooftop2014年3月号

『蟲師 続章』

2014.03.01

「ファン」が集まっての制作

——1期は日常芝居がすごく丁寧で役者の方の演技も素晴らしく、これが理想だと感じて見させていただきました。制作には試行錯誤があると思うんですけどいかがですか?

長濱:とにかく原作を読むということだけでした。実は1話の編集作業では納得いかないままアフレコ(※2)をする状況になってしまって。その大きな要因としては、映像編集の方とどういったコミニュケーションをとったらいいかわからなかったんです。アフレコをやってみて「これはうまくいってないな」と思って、もう1回編集をやり直させてもらいました。2回目は自分の中で納得いく形で出来たので、それくらいですね。あとは原作のもつ時間の流れを損なわないようにどう30分の中に落とし込むかってことだけを考えて作りました。

——原作のある作品でも現場スタッフに監督の考えを伝えるのは難しいと思うのですが、そこもスムーズにいったんですか?

長濱:スムーズでした。同じ頭を持った人間なんてこの世にいないので、100%自分のコントロール下に置くというのは無理なんです。全て自分のカラーでやるのなら1人でやれよって話ですから。ですから原作の魅力を信じるところから始めました。スタッフも原作を好きになってもらって、そういう人達が集まれば微調整は効くんです。好きなポイントが多少違っても、あの原作が好きだと思える人が集まればきっとうまくいくと、ソコだけは信じていました。

——だからこそ2期も同じスタッフで作ることにこだわりがあったんですね。

長濱:はい、「面白かった」と言ってもらえた人とはコミュニケーションが成立していくんです。好きという絆で繋がっていられるので、原作が中心にあるということはとても大事なことなんです。

——理想の制作スタイルですね。

長濱:ありがたいです。予算や時間の関係で現実的にこれしか出来ないという限界は起こりえるんですが、メンタル面は下げる必要はないと思うんですよ。そもそも大好きな原作を預かってデビューさせるんだから、観てくれた人たちに「原作より綺麗」とか「原作よりアニメ版が好き」と言わせることをゴールに定めるのは間違っていると思うんです。

——原作の良さをそのまま伝えるということですね。

長濱:そうです。好きな原作の世界が広がっているって思ってもらえる様にしなきゃいけないと思っています。それを可能とするのは、好きでちゃんと表していこうという気持ちなんですよ。お客さんに“笑ってもらいたい”とか“喜んでもらいたい”ということは全て「気持ち」から成り立っているものじゃないですか。時間やお金と違って「気持ち」のコストはかからないから、そういう意味ではどんな作品でも理想の姿で進められるはずだと思うんです。

——そこは一番難しいところでもあると思います。

長濱:まず、難しくない仕事はないです。楽しんでもらおうとすると、どの作品も一緒なんです。じゃあその大変さに納得して挑めるかどうかの鍵は、その作品が世に出されて愛されるかどうかにかかってるんです。その作品のファンが喜んでくれたら、大変でも「あれ俺がやったんだよ」って言いたくなると思うんです。逆に「こんなんだったらアニメ化するんじゃないよ」って言われたら、「なんだったんだろうな俺の時間は」ってなるわけですよ。監督は全部をコントロールしているわけではないので、唯一できることは携わってくれたスタッフの皆さんに、「間違ってない、これが正解だ」と胸を張ってもらうことですね。関わってくれた方が話したくないって作品にはしたくないんです。そのために一番大きな力を持っているのは原作の魅力です。みんな原作が面白いから、絶対面白くなるって思うんです。コレをできるんだとなれば、大変でも「やりたい」と言ってくれるんです。

——最高の制作環境ですね。

長濱:そうなんです。みんな「きっといいものになる」って信用してくれてますね。例えば馬越(嘉彦)さん(※3)は、描き下ろしイラストの色も処理も全部僕に任せてくれるんです。そういう関係性で作られているから、「俺だけだよ、頑張っているの」って1人で抱え込まなくてすむんです。重責はばらし、喜びは分かち合う。「one for all all for one」ですよ(笑)。

——凄く信頼されているんですね。なにをする上でも、理想的な環境ですよ。

長濱:アニメは集団作業ですから。

——8年空いての制作で注意されていることはありますか?

長濱:当時と同じ気持ちでいられるかということですね。まず8年前は何をしていたかというところに立ち返ったんです。当時はとにかく原作を読んで、全体の構図を見て立体的に空間を作っていきました。そうすると話のリズムが生まれてきて、例えばここが何故暗くて影が落ちているのかということに、意味が見出せるようになるんです。同時にコマの大きさの理由も考えていくと、いるものとあえていらないものが見えてくるので、分解して再構成していくんです。それがもう一度できるかというのが課題でした。

——長濱さんの演出は実写的だなと感じてるんですが、影響を受けた作品はあるんですか?

長濱:実は子供の頃はあまりアニメが得意ではなかったんですよ。現実に存在しないし、人が描いた物の何が楽しいのかわからなかったんですね。アニメが面白いと思ったのは、かなり年齢が上がった中学生の頃で「人が作ってるから面白いんだ」って思ったんです。子どもの頃は実写のヒーロー物やドラマばかり見ていたので、それが影響しているのかもしれません。

——話数ごとにテーマカラーや音楽があるのも、実写作品に多い手法だなと感じてたんです。アニメだと合わないから急に画を作り直すというのが難しいところもあるので、話数ごとに音楽をというのは大変だったんじゃないですか?

長濱:そこは何の障害もなかったですね、最初からガチッとはまってました。

——音楽を先に作って映像を作っていくスタイルだったんですか?

長濱:同時です、どちらかがあって作っているわけではないです。

——スタッフの皆さんが同じ方向を向いていたからなんですね。引っ張っていくというよりは、肩を組んでゴールを目指す感じなんですか?

長濱:旗振りをしているような感覚ですね。「あそこを目指すんで一緒に来てください」と、そうすると「ああ、あそこを目指すんですね」ってなるじゃないですか。好きでいてくれればみんな同じ方向を向けると信じています。

——最後にファンの方に向けてのメッセージをお願いします。

長濱:1期がA面で2期はひっくり返してB面にという、同じアルバムのLPレコードの様な意識で作っています。「B面だからこういう構成にしたのか」とか、「こういう話があるのね」となるように皆で目指して頑張っているので、楽しみにしていてください。その点も含めてどんな出来栄えになっているのかなという気持ちで観てもらえたら嬉しいなと思っています。

 

 

※1:漫画を描く際、コマ割り、コマごとの構図、セリフ、キャラクターの配置などを大まかに表したもの。
※2:アフター・レコーディングの略で、アニメや映画・ドラマ等で撮影後に俳優の台詞(声)だけを別途録音する事。
※3:アニメ「蟲師」のキャラクターデザイン・総作画監督

 

<作品情報>

『蟲師 続章』2014年4月よりTOKYO MX,ABC 朝日放送ほかにて放送開始

「蟲師 特別篇『日蝕む翳』」Blu-ray&DVD
2014年4月23日(水)発売
Blu-ray 6,500円+税 / DVD 5,500円+税

comic「蟲師 特別篇 日蝕む翳」(アフタヌーンKCDX 発行/講談社)漆原友紀
2014年4月23日(水)発売

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