Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー黄瀬和哉(アニメーション監督)(Rooftop2013年7月号)

攻殻機動隊新シリーズ、起動!

2013.07.01

 20年以上に渡り国内外で多くのファンに愛されてきた攻殻機動隊。前作から2年の時を経て、新シリーズ『攻殻機動隊ARISE』の劇場公開がスタートした。各話約50分・全4部のシリーズで構成される本作で語られるのは、これまでの攻殻機動隊シリーズの"前夜"ともいえる物語。そして、ヒロイン・草薙素子の物語である。
 総監督を務めるのは、卓越した作画で今までのシリーズを支えてきた、アニメーター・黄瀬和哉。これまでとは違った視点から作品に携わる彼は、いま何を思うのか。公開を目前に控えた6月中旬、都内某所にてインタビューを敢行した。(interview:柏木 聡 / Asagaya/Loft A)

締め切りがプレッシャーです(笑)

——今回の『攻殻機動隊ARISE』には、いつ頃から関わられているのですか?

もう立ち上げから2年くらいは動いていますね。

——2011年のアニメミライで短編『たんすわらし。』を公開した直後くらいですか?

そうですね。『劇場版BLOOD-C』の総作画監督をやっている頃かな? そろそろ目処が立ち始めて来た頃に声をかけられて、「何?」って言ったらこれだったと。

——監督を受けることになってからのこの2年の間に、勉強の意味でも色々と作品を観たと思いますが影響受けた作品などはありますか?

その時期で一番記憶に残っているのはNHK大河ドラマの『龍馬伝』ですね。あとはイギリスBBCが作った『SHERLOCK(シャーロック)』って言う現代のシャーロック・ホームズみたいな短いドラマシリーズがあるんですけど、それがすごく面白かったですね。

——今回は感覚的に映画作りというよりはテレビシリーズ作りに近いのでしょうか。

映像なのでどっちもどっちだとは思っているんですけど、尺が尺なので映画的な余韻に浸るようなシーンは入れられないと思うので、どちらかというと長尺なドラマみたいにはなるような気がするんですけどね。

——攻殻機動隊といえば原作の士郎正宗先生でしたり押井守監督、神山健治監督と複数の方が携われていますが、そのことがプレッシャーになったりは?

どうせ同じものはできないし、違った事をやったら何かしらは言われるだろうなあという考えもありまして。特にプレッシャーはないですね、未だに。むしろ締め切りがプレッシャーです(笑)。

——攻殻機動隊は複数の監督がとられているのでオムニバスのような意味合いもあると思うのですが、シリーズの時系列が逆じゃないですか。押井監督の作品は草薙素子が公安9課から離れていくところになりますし、神山監督は9課が現役の頃の話。そして今回の黄瀬さんは9課設立の話になってますが、あえて過去にすることを選ばれたのは?

選んだわけではなくて、素子の出生の話だったりとか、9課設立前にはこういう部隊にいましたという話が士郎さん版のプロットの中にあったんです。それで(シリーズ構成・脚本の)冲方(丁)さんとも「ただの続編だと(今までと)違うものはやりにくいよね」という話もしてて、だったらもう思い切って過去編、9課設立の話にもっていくと広げやすいし、キャラクターがかぶらなくても大丈夫であろうと、そういう感じでしたね。神山さんの(『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』)は人形使いがいない世界で、押井さんの作品とは違う話の流れだったと思う。そのへんの話をしちゃうとプロットの新鮮味を出していくのは難しいし、最終的に素子が消えちゃうような話にしかならないなっていうのは、ちょこちょこ冲方さんとは話していたんですけどね。

——今回声優さんを一新されているのは、意識されてのことなのでしょうか?

はい。変えるんだったら全部変えようという。製作委員会の方たちは目が点になっていましたけど(笑)。でももう変えるんだったら全部変えますというのでやらせてもらいました。

——黄瀬さんは元々アニメーターとしてもI.G作画三大神と言われるくらい注目されていますが、作画出身の総監督ならではの視点というのはあると思いますか?

それはないですね。作画をするときは作画の頭になっちゃいますし、シナリオを読んだり行程のチェックをしているときっていうのはやっぱり全然違いますね。

過去の作品にそんなにとらわれないでいこう

——原作の攻殻機動隊の舞台は2030年で、意外と現在と近いですよね。さらに3年前の2027年を描くと言う事で、いま実際に起きていることがキャラクターデザインやストーリー展開に影響したりということはありますか?

原作自体が一回戦争が起きちゃっているその後の話なので、その前の社会の形態とかっていうのは残ってはいるけど、そんなにそこを秩序的に作り込む必要もないのかなと思ってます。

——冲方さんのプロットはどうですか?

面白いですよね、やっぱり。ただ、どう映像化すればいいんだろうというところもたまにありますけど。文章で書くのとそれを映像にするのって違うなあとは思いつつ。何とか冲方さんがやりたいものと各話の監督さんがやりたかったものを拾い上げて、うまくやりたいなあとは常に思ってます。

——過去の作品に携った経験を踏まえて、描きたい話があったりは?

それよりむしろ、過去の作品にそんなにとらわれないでいこうっていうのが自分の中で前提であるんですよ。「前の作品を観た方が良いですか?」って訊かれても「観なくて良いです」って言ってやっていますので。

——それでもこれだけ長く続いていて人気もある作品だと影響はありますよね。

影響はありますし、冲方さんにしても、スタッフの方がみんな攻殻機動隊が好きだったりするので、今までの作品からずれるようなキャラクター像にはなっていないですね。

——総監督として関わることで、今までとの意識の違いはありますか?

特にはないんですけど、一話に関してはメインで関わるところが少なかったので、上がったフィルムを観た時にものすごい新鮮さを感じたところはありました。今までは内容やどういう絵が上がって来るのかが全部分かっていたので、観ても反省しかなかったんですけど、今回に関しては話だったりコンテだったりとかは目を通しているんですが、どういう画面になるのかが想像出来ていなかったので、視聴者目線で観ることができて新鮮でした。面白いなあと思いましたよ。

——今回は9課が設立されるというゴールが決まっているじゃないですか。やはり演出する時に制約が出てくるんでしょうか。

出てくるんでしょうけれど、そのへんは脚本の冲方さんに丸投げ状態ですね。丸投げしながらまあちょっと相談されたりとか。こちらから何か提示するというのはそんなにはやってないです。それよりも、士郎さんが作って来た誰も知らないようなプロットを広げていく感覚ですね。

——公開されている冒頭8分を見ますと、素子が精神的に若いなと。いままでの作品って一歩引いた落ち着いているキャラクターというイメージが強かったのですが。

まあ今回は最終的にそこに至るよっていう段階だから、何をやっても良いんじゃないっていう。すごくゆるい感じで。若い素子だったり未熟な素子だったり、少し可愛らしいところを描ければ良いかなと思っています。

——攻殻機動隊の世界って義体の度合いがキャラクター毎に違うじゃないですか。例えば、トグサはほぼ生身、素子は全身義体、というところでキャラクター作り・演出で考られたところは?

絵作りでは特にないんですけど、演出的にはやっぱり出てきますよね。人じゃないアクションだったり行動だったりっていうのは、細かく演出さんが作って来ています。やっぱりね、スタッフに攻殻機動隊好きな人が多いんですよ。

——原作の士郎正宗先生からある程度の制約が出たりとかもするんでしょうか?

ほとんど「NO」は言われなくて、お任せに近いというか。「自分が出来る範囲のことはもうやっちゃったし、出したものに関しては自分がこれを作品として発表することはない」っていうことを公言されているらしいので。あとは好きにしてっていう。冲方さんはそれがかなりプレッシャーだそうです。

——黄瀬総監督は?

僕は本当にプレッシャーらしきものは感じていないです。

——4部に分かれて公開ということで2話目にいくまでの期間があいてしまいますが、そういうところで意識されていることは?

観た人が興味を無くす前に次の作品を出せれば、っていうところですね。あがってくるものはすごく面白いものになると思うので。制作期間を短縮出来たら一番いいんですけどそれはできないので、予定しているスパンでコンスタントに送り出せる様にしていきたいなっていうのはあります。本当にそこだけですね。

——総監督を経験してこれからやっていきたいことはありますか?

今はそんな余裕はないです。とにかくこれを終わらせなきゃ、って。

——最後にお客さんに向けてのメッセージをお願いします。

一話を観た後で次も観たいって思ってもらえたら一番なので、まずは一話を見て欲しいですね。そこから後は、ぼやーっと楽しみにしておいて欲しいです(笑)。

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