Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューKOZZY IWAKAWA(Rooftop2013年7月号)

国境も時空も越えた、ロックンロールの源流を辿る旅

2013.07.01

L.A.の景色や空気感を音に反映させた

──サム・クックというソウル/リズム&ブルースの偉人の名曲を現地のミュージシャンやエンジニアの前で唄うなんて、とんでもないプレッシャーですよね。

「だって畏れ多くもサム・クックだよ? だいぶ気が引けたよね。でもいざ唄ってみたら彼らもノッてきたみたいで、原曲のアレンジとは全然違うことをやってたよ。それだけ盛り上がったってことなんだろうね。彼らは皆手慣れたミュージシャンだったけど、やっつけ仕事みたいにはならなかったし、凄く一生懸命やってくれた。経験豊かなミュージシャンにとって、こういう3コードのルーツ・ミュージックは基本中の基本なわけじゃない? でもそこで一切手を抜かずに、『もっとテンポを落としたほうがいいんじゃないか?』とか『こういうアレンジはどうだ?』とか『ここでもう1回KOZZYのソロを入れたほうがいい』とか、熱心にアドバイスをくれたのが嬉しかった。あと、『ブレイクが多い』とかね(笑)。『BRAND NEW CADILLAC』のソロは止まらなくていい、日本人は丁寧なんだよ、なんて言われてさ」

──もっとラフにやれと。でも、歌もプレイもいい塩梅に荒削りで、過不足ないバランスだと思いますけどね。

「うん。あと、緊張感もあるわけ。時間がないから1曲につき2、30分リハーサルをして、2、3回で録り終えるっていうのは最初に伝えてて、その中でやる緊張感があったんだよ」

──録りに何日掛けたんですか。

「2日。白人のミュージシャンと1日、黒人のミュージシャンと1日。しかも、最初の1日はほとんどが音決めで、メシ食って終わったみたいな(笑)。まぁ、お陰様で集中力は鍛えられてるからさ。よく遊んでよく仕事をするってそういうことだよね。レコーディング以外はほとんど運転してたぐらいだし(笑)。スタジオもL.A.のちょっと端っこのほうだったから、ハイウェイに乗っても1時間以上は掛かったんだよ」

──でも、そういう車窓から見える景色や空気感、温度や湿度がレコーディングに如実に反映されているんでしょうね。

「もちろん、それは間違いない。テイクの良い、悪いのジャッジもおおらかになるし、音の作り方や演奏の仕方までがアメリカンな感じになる。それこそが僕の作りたかった『THE ROOTS』というアルバムの醍醐味なんだよね。ロックンロールが生まれたアメリカまで出向いてルーツ・ミュージックを唄うっていう企画自体が大きなチャレンジだったし、今まで山ほどやってきたカバーとは全く違うものになるだろうと思った」

──実際、そうなりましたね。

「なったね。今回カバーした曲は今までことあるごとにやってきたものばかりで、たとえば『BRING IT ON HOME TO ME』は人の結婚パーティーで必ず唄う曲なんだよ。だいたいは声がでかすぎてマイクを飛ばして、迷惑掛けちゃうんだけどさ(笑)。だからまぁ、どの曲も得意と言えば得意なんだけど、現地のミュージシャンと一緒にやるのはさすがに畏れ多いなと思ってね。『外様ですけど、ちょっとやらせてもらっていいですか?』みたいな感じで(笑)。でもやっぱり、憧れのアメリカでルーツ・ミュージックを存分にやれる喜びのほうが大きかった。僕は若い頃からずっとアメリカに行きたくて、中学生の頃はルート66の沿道の主な都市を全部言えたし、地図の絵も描けたからね」

──そういうロックンロールとポップ・カルチャーに淫した人にしか醸し出せない、武骨で猥雑な音がギュッと凝縮していますよね。

「あの場の空気感はしっかり録れたと思う。だから向こうでミックスまでしなくても良かった。あと2、3日延ばせばミックスまでやれたと思うけど、敢えてここ(ロックスビル・スタジオ・ワン)へテープを持ち帰ってひも解いてみたんだよ。それは僕にしかできない密かな楽しみなんだよね。個々の息づかいまでちゃんと録れてるから面白いんだよ」

クラッシュからはどうしても逃れられない

──スペシャルズみたいなイギリスの2トーン・バンドの曲まで取り上げられているのがユニークだと思ったんですが、これは岩川さんの音楽人生においてのルーツということですよね。

「そうだね。単純に『DO NOTHING』って曲が好きなんだよ。この曲に限らず、どれもそんな感じ。アメリカのルーツ・ミュージック以外の曲ってことで言えば、別にキャロルでも何でも良かったんだよ(笑)。要は音楽なんて気分だからさ。たとえば、わざわざアメリカまで行って本場の音楽を掘り下げて研究して、マニアックにやるみたいなのはイヤなんだよね。そういうことじゃない。僕がこのアルバムでやりたかったのは、純粋に格好いいなと感じたり、憧れていた曲を自分なりに気持ち良くプレイしたいってことだけ。『HEART AND SOUL』はドゥーワップの曲だけど、原曲のことなんてよく知らないからね。あれも『アメリカン・グラフィティ』で使われてる場面と曲の雰囲気が単純に好きだったから選んだだけなんだよ」

──やっぱり、「HEART AND SOUL」と「ALMOST GROWN」は『アメリカン・グラフィティ』のサントラ経由での引用ですか。

「もちろん。あのサントラはテープを何本もダメにするぐらい聴いてたからね。そういう二次的、三次的な影響でオリジナルを好きになった人っていっぱいいるんじゃないかな。そもそも『ALMOST GROWN』は直接好きになってレコードを買うような曲じゃないと思うよ(笑)」

──「I FOUGHT THE LAW」なんてまさにそんな曲ですよね。オリジナルのクリケッツよりもクラッシュのカバーのほうが断然知られているわけですから。

「そういうこと。原曲がどうこうなんて言われたって関係ないよ。クラッシュのカバーより格好いいのがあるかよ!? って僕は言いたい。よくいるんだよ、オリジナル至上主義みたいな研究肌の人がさ(笑)」

──今回のアルバム、クラッシュが裏テーマとしてある気がしたんです。「I FOUGHT THE LAW」と「BRAND NEW CADILLAC」はクラッシュのレパートリーだったし、「SEA CRUISE」の頭には「WRONG 'EM BOYO」みたいに「STAGGER LEE」が挟まれているし。

「やっぱり、クラッシュからは逃れられないね。そこからはどうしても抜けられなくて、自分の血として存在してるんだよ。クラッシュを聴くまでの音楽と、クラッシュを聴いてからの音楽は僕の中で全然違ったし、クラッシュがカバーすることで知り得た音楽もいっぱいある。音楽って、そういうふうにいろいろと繋がっていくものなんだ。自分が納得の行く形でルーツ・ミュージックを再現するっていうのは、音楽としっかり向き合うことだと僕は思うんだよね。それをみんなが喜んで聴いてくれるのは凄く嬉しい。今まさにツアーの真っ最中なんだけど、マックショウのファンの人はもちろん、リズム&ブルースばかりやってた頃のコルツが好きで久々にライブに来てくれた人もいて、みんながこういうルーツ・ミュージックを純粋に楽しんでくれていたのが嬉しくてね」

──僕もビートルズやストーンズのカバーからオリジナルを辿って聴く行為をさんざんしましたけど、この『THE ROOTS』でも原曲を知ることで得られる発見や楽しさを伝えたいという制作の意図がありましたか。

「もちろんあったよ。今のほうがルーツを辿るのが簡単でしょ? インターネットで名前を検索すればすぐに出てくるし、アマゾンでもその手のCDが驚くほど安く手に入る。昔はとにかく探すのに時間が掛かったし、新宿のレコード屋を回るのも1日じゃ終わらなかった。でも、だからこそ余計に愛着も湧いたし、探すこと自体に楽しさがあったよね。20歳になるかならないかの頃に大貫憲章さんの『LONDON NITE』へ行ってさ、憲章さんが掛けてるレコードの盤をジッと見るわけ。ツバキハウスのDJブースって凄く高くて、そこによじ登って覗き込むんだよ。『レコードの針が飛ぶから登ってくるんじゃねぇよ!』なんて怒られながらね。で、『なんだお前、リズム&ブルースが好きなのか?』って憲章さんに言われて、『このテープをやるから、擦り切れるまで聴けよ』ってリズム&ブルースのテープをくれてさ。でも、その中に僕が聴きたかった曲は入ってなかったんだよね(笑)」

──今や岩川さんが当時の憲章さんの役割を果たしているようにも思えますね。

「僕らもロックンロールの学校の先生になったほうがいいかもね(笑)。ロックンロールは生き方だなんて恥ずかしくて言えないけど、自分の人生を彩るようなものではあると思う。僕にとってロックンロールはファッションや酒なんかと同一線上にあるもので、身近にあって凄く大切なものなんだよね」

限られた条件の中でものを作る良さがある

──『THE ROOTS』を聴いた後に原曲を聴くと、岩川さんの歌とギターのスキルが如何に凄いかが逆説的にわかると思うんですよ。そういう違いを味わえる楽しさもルーツ探訪の醍醐味ですよね。

「『I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU』ひとつを取ってみても、いろんなバージョンがあるからね。僕は、これ三味線で弾いてるんじゃないか!? ぐらいのストーンズのしょぼさが大好きだったけど(笑)」

──「I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU」に触発されて、サンハウス経由で「恋をしようよ」というオリジナル曲を作ったルースターズみたいなバンドもいますね。

「ルースターズも格好良かったよね。ファースト、セカンドのインパクトは相当あったし、オリジナルのクオリティとカバーのセンスがハンパじゃなかった。カバーの原曲を聴いても、ルースターズのバージョンで刷り込まれてるから今いちピンと来なかったりしてさ(笑)。でも、人それぞれでいろんな解釈があっていいと思う。僕の『THE ROOTS』を聴いて、“この曲はあまりパンチがないな”って感じる人がいるかもしれないし、それもまた一興なんだよ。『I FOUGHT THE LAW』の自分のバージョンを聴いて、やっぱりクラッシュのカバーは凄く格好いいなと思ったもん。さっきも話したけど、その筋のマニアは『原曲がいい』とかつべこべ言うじゃない? 僕だってクリケッツの原曲はもちろん知ってるけど、『面倒くさいよ、お前ら』って言いたいね(笑)。ロックンロールはそうやって情報をかき集めてナンボじゃなくて、身体で覚えてるものだからさ。ラジオからクラッシュの『I FOUGHT THE LAW』が流れてきたら、自然と身体が動き出す。そういうものじゃない?」

──確かに。ちなみに、今回の渡米経験がマックショウの次作に活かされそうですか。

「そうだね。アメリカにいると日本の素晴らしさを逆に痛感するんだよ。マックショウでアメリカへ行った時も、日本のロックンロールの大衆性っていいなと思ったしね。日本にいる時よりもアメリカにいたほうが日本語の響きの良さを思い知らされるって言うかさ。『Here Comes The Rocka-Rolla 〜情熱のロカ・ローラ〜』以降、日本語のフォーマットにこだわってロックンロールをやりたいと強く意識するようになったんだよね。五・七・五から成る俳句みたいに、決まったフォーマットから外れないで季語を盛り込みつつ詠んでみるとか、限られた条件の中でものを作る良さがあるんだよ。日本語のロックンロールにこだわり抜くのはそれと似ていて、凄く難しいトライアルなんだけど、やっぱり楽しい。今回は全編英語だったし、何度も唄うと顎が凄く痛くてね。使う顔の筋肉が日本語とは全然違う。そういう経験を積むと余計に日本語の響きが恋しくなるし、マックショウに戻れる良さが自分にはあるんだろうね」

──僕はマックショウを聴くたびに日本人に生まれて良かったなといつも思うし、世界に誇る純国産車の素晴らしさと相通ずるものを感じるんですよね。

「アメリカでは日本車の人気が凄く高いんだよ。高性能で燃費もいいし、故障も少ないからね。向こうじゃ日本では見かけない日本車なんかもたくさん走っていて、アメリカ人にはもはやアメリカ車と日本車の意識の差がないんじゃないかな。僕らのロックンロールもそんなふうになりたいし、バンドでもソロでも国境の垣根を越えるような活動をしていきたい。今回はこっちから出向いて向こうのルーツ・ミュージックをやってみたけど、現地のミュージシャンをこっちに連れてきたらどうなるか? とか、逆にマックショウとして海外でライブをやってみたらどうなるか? とか、やりたいことがいっぱいあるよ」

──『THE ROOTS』を作り上げたことで、音楽は国境を越えるということを実感できたのも大きいのでは?

「うん、まさにね。向こうのミュージシャンと一緒にやっても、自分が日本人だからっていう引け目を全く感じなかったし、遜色のないプレイが充分にできる自信もついたんだよね。プレッシャーもひっくるめて音楽を楽しめるしさ。今回強く感じたのは、音楽は自由に旅をさせてくれるし、そこに国境なんてないってこと。だからこれからも旅を続けたいね。今回は行けなかったシカゴまでいつか旅をしてみたいし、イギリスはイギリスでまた別に行ってみたい。どこへ行くにしても、そこで自分が見た景色や感じた空気を切り取ってみんなに音楽として聴かせたいから、この『THE ROOTS』は第2弾、第3弾とこれからも作っていきたいよね」

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THE ROOTS

【収録曲】
01. SEA CRUISE[Huey "Piano" Smith and The Clown]
02. GOOD GOLLY MISS MOLLY[Little Richard]
03. WATCH YOUR STEP[Bobby Parker]
04. HOUND DOG[Big Mama Thornton]
05. I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU[Willie Dixon]
06. THAT MELLOW SAXOPHONE[Roy Montrell]
07. ALMOST GROWN[Chuck Berry]
08. BRING IT ON HOME TO ME[Sam Cooke]
09. RAUNCHY[Bill Justis]
10. BAD BOY[Larry Williams]
11. BRAND NEW CADILLAC[Vince Taylor]
12. RIP IT UP[Little Richard]
13. DO NOTHING[The Specials]
14. I FOUGHT THE LAW[The Crickets]
15. HEART AND SOUL[Hoagy Carmichael]

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