Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューKOZZY IWAKAWA(Rooftop2013年7月号)

国境も時空も越えた、ロックンロールの源流を辿る旅

2013.07.01

「音楽は国境を越える」。こんなありきたりで使い古された言葉でも、ロックンロールへの限りない愛情を身に宿し、海外のミュージシャンと比肩し得る超絶技巧を持つ生粋のエンターテイナーが発するのならば信用できる。
ザ・マックショウ/ザ・コルツの顔役、"KOZZY"こと岩川浩二が自身のルーツを辿るべく不滅のロックンロール・クラシックをカバーしたソロ・アルバム、『THE ROOTS』。盟友・トミー神田、伊東ミキオを引き連れ、ロックンロールの原産国であるアメリカはカリフォルニアで敢行された怒濤の弾丸レコーディングには、あのリトル・リチャードのバンド・メンバーも参戦。チャック・ベリーにラリー・ウィリアムズにサム・クックのオリジナル、ビートルズやストーンズの愛唱歌、果てはクラッシュやスペシャルズのレパートリーまでもが入り乱れた全15曲は、未来永劫聴き継がれていくべきマスターピースばかりだ。
その渾身の名演を純粋に楽しむだけでももちろんいいのだが、読者諸兄にはできれば原曲との聴き比べをお勧めしたい。積年の風化にもしっかり耐えてきた名曲の風格、それらを完全に血肉化した岩川の卓越した力量と感性が如実に窺えるからだ。ルーツを辿れば辿るほどロックンロールの深みと面白さが倍増すること、そうした追体験は国境も時空さえも容易に飛び越える自由な旅であることを『THE ROOTS』という作品は教えてくれるのである。(interview:椎名宗之)

リトル・リチャードのバンド・メンバーを現地調達

──バンドではなくソロとしてアルバムを作ろうとしたのは、何か思うところがあってのことだったんですか。

「そういうわけでもなくて、これまでもバンドの合間にソロは定期的にやってたんだよ。今回みたいなルーツ・ミュージックは昔からバンドでもソロでもずっとやってきたんだけど、そういう曲で固めたアルバムをバンドで作るとなるといろんなバランスを考えなくちゃいけないし、それよりもちょっとした息抜き程度のアルバムを最初は作るつもりでいた。バンドじゃなければ、気軽に海外へ行ってパパッと録って、後で自分の好きなようにまとめればいいと思ってたからさ。でも結局、始めてみればその時のセッション・メンバーから成るバンドになっちゃうんだよね」

──セッションはどんな形態で?

「黒人系と白人系、二手のミュージシャンに分かれて録った。日本からはトミー(マックショウ/コルツのトミー神田)と伊東ミキオを呼んでね」

──現地のミュージシャンは向こうで調達したんですか。

「信用の置けるコーディネーターを間に入れて、『こういう感じの人が欲しい』と事前に伝えて探してもらった。って言うのも、昔、コルツで海外レコーディングをした時にドラマーがあまりにヘタで帰ってもらったことがあったから(笑)。あと、向こうに知り合いの日本人ミュージシャンがいてね。その人に『それなりにロックンロールできそうなミュージシャン、いる?』って訊いたら、ちょうどその頃にリトル・リチャードのギグがあるから、そのバンドのミュージシャンだったら声を掛けられるよと言ってくれて」

──凄いミラクルですね。図らずもリトル・リチャードの「GOOD GOLLY MISS MOLLY」と「RIP IT UP」が入ったアルバムに、ご本家のバックを務めるミュージシャンが参加してくれるなんて。

「ラッキーだったよね。最初はそのリトル・リチャードのギグを見たいからL.A.へ行こう、ぐらいの感覚だったんだけどさ(笑)。まぁ、実際に見たリトル・リチャードはかなり衰えていたけど、今まで相当なパワーで生きてきた人だから、その消耗度が激しいんじゃないかな。でも、まだまだ長生きして欲しいよね」

──今回はカリフォルニアからルート66(アメリカのイリノイ州シカゴとカリフォルニア州サンタモニカを結んでいた旧国道)を車でひた走りながら制作されたということですが。

「リトル・リチャードのギグがラスベガスであって、車でそっちを走っていた時にルート66を通ってアリゾナ州まで行ってみたんだよ。まぁ、最終的には来るんじゃなかったと思ったけどね(笑)。なんて遠いんだ!? っていうぐらいの距離だったから。それでホントにシカゴまで行っちゃえば、ルート66を辿る音楽紀行みたいなアルバムになったんだけどね」

──録りはどちらのスタジオで?

「L.A.のキングサイズ・サウンドラボっていう所。去年、マックショウで使ったサンセット・サウンドみたいに環境の素晴らしいスタジオじゃなくて、今回はもっと庶民的なスタジオが良かった。倉庫を改造したみたいな所だったんだけど、設備も音も凄く良かったよ。現地のミュージシャンには事前にやる曲を聴いといてもらって、会ったその場でキーを合わせて、こっちのやりたいニュアンスを伝えて、出たとこ勝負だったけどね。『HOUND DOG』はこんな感じなんだけど…って伝えたら、『エエッ! プレスリーのしか聴いたことねぇよ』なんて言われたりして(笑)」

──ああ、今回はビッグ・ママ・ソーントンが唄った原曲をお手本にしてますからね。ということは、それほど年輩のミュージシャンではなかったんですか?

「そうだね。まぁ、ドン・ヘフィントンっていう白人のドラマーは僕らよりもちょっと上だったけど、自分たちよりちょっと上ってことはもうかなりのオッサンだよね(笑)。彼はボブ・ディランやウォールフラワーズとも共演したことがあるから、ボブとジェイコブの親子両方とセッションを経験したことになるみたい。あと、ヴァン・ダイク・パークスのツアーで日本に来たことがあるとも言ってたね」

こんなに巧く唄えるヤツが日本にいるのか!?

1307kozzy_ap.jpg──収録曲は50年代産の不滅のロックンロール・クラシックが中心ですが、選曲はかなり練ったんですか。

「いや、全然(笑)。かなり行き当たりばったりだったよ。でも、どれも慣れ親しんだ曲ばかりだから造作なくやれた。ただ、初めて顔を合わせた向こうのミュージシャンと一緒にやるわけだから、細かいニュアンスを伝えるのが難しかったね。日本でこの手の曲をやる時は、たとえば『場末のキャバレーみたいな雰囲気で』みたいに言えばこちらの意図も伝わるけど、そういう伝え方は向こうじゃ全然通じないからさ。だけどみんな腕は立つし、勘も良かったよ。サックスのデヴィッド・ラリックは特に勘の冴えたヤツで、雰囲気に応じてバリトン・サックスに替えてくれたりしたね。彼はセッション・ミュージシャンの傍らスカのバンドをずっとやっているからスペシャルズも大好きで、オールド・ロックンロールも大好きで、共通項が多かったんだよ。歳も近くてね。最初はあまり期待してなかったんだけど、プレイも人柄も凄く良かった」

──ソロでも一発録りが基本だったんですか。

「もちろん。数回通しで合わせたらすぐに録り。その場の雰囲気を大事にしたかったから、前日までのリハーサルは一切やらなかった。片やリトル・リチャードの曲はドラムのマーク・ホーランドもサックスのケニー・ウォーカーも黒人で、凄くパワフルで刺激的だったね。特にマークのドラムは尋常じゃなかったよ。『何なの!? そのバネ!』みたいなさ(笑)。意識して黒人と白人に分けたわけじゃないんだけど、混ぜてやってみたらもっと面白くなっただろうね。今回は時間がなくてできなかったんだけどさ」

──両チームの違いを端的に言うとどんなところなんでしょう?

「やっぱり、ドラムのリズムじゃないかな。全然違ったからね。マークのドラムは『そんなに強く叩いたら壊れるだろ!?』って感じだったし、音がでかすぎてドラムの音決めの話ができなかったぐらいだよ(笑)。普通に叩いてるのに轟音なんだから、とにかく凄かった。その場にあったドラムをちょっとチューニングしてそれだから。それはきっと、彼がライブ中心で叩いてきた百戦錬磨のドラマーだからだろうね」

──ドラムはマイク1本だったんですか。

「一応数本立てたけど、僕が最終的にミックスした時はほとんど使わなかったね。彼らは凄くバランスがいいし、そこで鳴ってた音を活かせばそれで良かった。だから、僕がミックスでやったことは特にこれと言ってないんだよ。テープで録って、それを日本へ持ち帰って少しいじっただけ。まぁ、『今時テープかぁ…』って顔はしてたけど(笑)、そういうオールド・スタイルの録り方に抵抗のないミュージシャンばかりで助かったよ」

──機材もマックショウ同様、徹底してビンテージにこだわったんですよね。

「アメリカの古いプリアンプやマイクは、高い金を出してレンタルしない限り向こうにはないんだよ。だから僕が持ってる40年代、50年代のリボン・マイクなんかをこっちから持ってったわけ。向こうのエンジニアも『初めて使った』って言ってたね」

──はるばる日本からやって来たミュージシャンが自国の古いロックンロールを完璧に唄いこなすわけですから、現地のミュージシャンたちは相当面喰らったんじゃないですか。

「うん、まさに。最初はやっぱり、僕らのことをナメてた部分もあったと思うよ。向こうは当然ビジネスとしてやって来て、それをドライにこなすわけだからさ。でも、サム・クックの『BRING IT ON HOME TO ME』をその場で唄ったら、彼らの反応が一発で変わった。『こんなに巧く唄えるヤツが日本にいるのか!?』って思ったみたいだね」

──それ、最高級の賛辞じゃないですか。

「ただ、『唄うのが早いよ』とは言われた。僕としては黒人の唄い方を意識して凄く溜めて唄ったつもりだったんだけど、『早くて付いていけないよ』って。テンポの問題じゃなくて、タイム感なんだろうね」

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THE ROOTS

【収録曲】
01. SEA CRUISE[Huey "Piano" Smith and The Clown]
02. GOOD GOLLY MISS MOLLY[Little Richard]
03. WATCH YOUR STEP[Bobby Parker]
04. HOUND DOG[Big Mama Thornton]
05. I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU[Willie Dixon]
06. THAT MELLOW SAXOPHONE[Roy Montrell]
07. ALMOST GROWN[Chuck Berry]
08. BRING IT ON HOME TO ME[Sam Cooke]
09. RAUNCHY[Bill Justis]
10. BAD BOY[Larry Williams]
11. BRAND NEW CADILLAC[Vince Taylor]
12. RIP IT UP[Little Richard]
13. DO NOTHING[The Specials]
14. I FOUGHT THE LAW[The Crickets]
15. HEART AND SOUL[Hoagy Carmichael]

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