今の日本の状況に対する危機感
──今回、ポスターやパンフの絵も描いている漫画家の近藤ようこさんが、この『戦争と一人の女』を昨年12月に書き下ろしの漫画として出されてますが、安吾作品の中でも比較的マイナーなこの小説が同時期に漫画と映画になるというのも奇妙な偶然ですよね。
たぶん近藤さんも現在に対する危機感みたいなものがあって過去の戦争を描こうとしたんじゃないかなと思います。実際描き上げるまでに7年かかったそうですが、奇しくも日本が平和憲法を捨て国防軍を創ろうとしている今の時期に、2つの『戦争と一人の女』が世に出るのは偶然とはいえ自分でも驚きました。
──あと、日刊ゲンダイの山田勝仁さんが、天皇の戦争責任を問う本作は原発事故の責任問題にもつながるとコメントしてましたね。
そう。それは小出裕章さん(京大助教授)も以前から言っていることですが、原発問題と戦争問題は似ているんです。つまり、曖昧なままに始まって、いざ問題が起こるとたいした責任追及もされずに結局はうやむやになる。僕は最初に脚本を読んで、ああ、これは3.11後の日本と同じだなと思いました。昨日たまたま韓国映画の『トガニ・幼き瞳の告発』を観たんです。それは韓国の養護学校で実際に行われていた児童虐待を告発したけど権力に潰されるという話で、最後に一緒に裁判を闘った女性が主人公に手紙を書くんですけど、そこには「私たちの闘いは世界を変えるためではなく、世界が私たちを変えないようにする闘いだ」とあって、僕はその言葉にすごく共感したんです。特に昨日の安倍首相の国会答弁を聞いた後だからなおさらだったんですが、今の日本には非常に危機感を持ってます。
──安吾は戦争中、絶望の果てに退廃していたと思うんですが、今の日本でも主人公の野村のように絶望している人はたくさんいるでしょうね。
確かに今の状況だとまともな人はどんどん自閉していく。ただこの映画は最後は希望で終わっているんです。最初、荒井さんはもっとペシミスティックなものとして脚本を書いたはずなんです。それが実際に映画になってみると、美術の磯見俊裕さんが(ラストシーンで)あの木を芽吹かせてくれたおかげで、意味が全然変わっちゃったと思うんです。僕は監督と言っても実は何もしてなくて、いろいろなスタッフのアイデアに助けられていますね。そういう意味では幸運でした。
──では最後に監督からのメッセージをお願いします。
こんなインディー映画の予算でここまで視野を広げた作品は珍しいと思うし、少なくともここ30年の日本映画の中で日本軍の蛮行や天皇の戦争責任を取り上げた映画は、劇映画でいったら『大日本帝国』(舛田利雄監督、1982年)、ドキュメンタリー映画では『ゆきゆきて、神軍』(原一男監督、1987年)以降、初めてだと思います。村上淳さんが最初に僕に言ったのは「こんなに下から突き上げる戦争映画は久しぶりだ」と。そこには僕も自信を持っていますので、是非多くの人達に観て欲しいですね。