Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューキノコホテル(Rooftop2013年1月号)

サディスティックでエロティックな愛と教育
新作『マリアンヌの誘惑』にみるキノコホテル四次元の美学

2013.01.03

子宮が熱くなるって素晴らしいこと

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──6曲目「エロス+独裁」からレコードでいうB面になりますが、いきなりのスキャットで雰囲気がガラリと変わりますね。ある意味キノコホテルにぴったりの世界観ですが。

 スキャットの曲は初めてなんですが、こういった伊集加代子的なスキャットは本当に難しい。歌詞を書きたくないっていうのもあったんですが、もう二度とスキャットの曲は作らないわ(笑)。でもこの曲はスキャットにして正解でした。

──7曲目「恋のチャンスは一度だけ」は初期からのファンにはお馴染みの曲で、『クラダ・シ・キノコ』にも収録されている隠れた代表曲ですね。

 今の4人編成になってからはまだ音源になっていなかった曲ですが、実演会をやっていくうちにだんだんいい形になってきたので、このへんで成仏させるのもいいかなと。昔の曲なので入れるかどうか迷ったんですけど。

──僕は歌詞にある“女の子には時間がないの”ってフレーズがすごく好きなんですよ。

 そう、時間がないんです。この曲は4年半ぐらい前に書いた曲ですが、この頃の方が真面目に作詞に取り組んでいたような気がしますね。今、こんな歌詞書けないもん。こんな乙女チックな歌詞(笑)。だからキノコホテルの原点みたいな所はあります。「気やすくさわらないで」というスタンスもそうだし、「女の子には時間がないの」というのもガールズバンドゆえの宿命みたいなのがありますね。ガールズバンドって短命なものが多いじゃないですか。キノコホテルも始めた頃はこんなに続くと思ってなかったから。だからガールズバンドの儚さと女性が美しくいられる時間の短さの両方を表しているのかもしれないですね。

──そしてアルバム大詰めの曲「回転ベッドの向こうがわ」。これは途中に長い間奏が展開されますが、ライブでもハイライトとなっていますね。

 ステージの時はこの間奏部分で私とケメちゃんが絡むんだけど、私の盛り上がり次第でマリアンヌ様の公開オナニーがどこまで続くか決まるわけよ。果てるまで続きますからね(笑)。他のメンバーは「今日は支配人長いなあ…」とか思ってるらしいですよ。

──ちなみに12月9日の時もかなり長かったですね。

 そうだった? ステージで私がケメちゃんのギターのネックをまたぐじゃない。最初は彼女もその体勢で速弾きしてるだけだったのが、最近は私が指示したわけでもないのにネックを前後にピストン運動するようになったの(笑)。「あら、この娘もやるわねえ」って思ったわ。

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──この曲は最たるものですが、キノコホテルは音楽とセックスを限りなく近づけていくのが1つのテーマのような気がします。

 そう、セックス感は出してますね。そういえば先日のキネマ倶楽部に来てた女性ファンの子が「マリアンヌ様の喘ぎ声で子宮が熱くなりました」って何かに書いているのをたまたま見たんです。ああ、ちゃんと私の狙い通りに熱くさせているんだって嬉しかった。子宮が熱くなるって素晴らしいことですよね。一人でも多くの女性に感じて欲しいわ。

──そういう音楽って今まであまりなかったかもしれないですね。

 そうね。女の人が女性の子宮を熱くするのはなかなかできないかもしれない。

──特に最近はアイドルブームというのもあって、世の中はかわいいものばかりが過剰に消費されている傾向にあると思います。

 お遊戯みたいなものばっかりですからね。子供にいろいろやらせて大人が喜んでるみたいで、私から見るとそっちの方が不健康な感じがする。露骨にストレートなエロの方が、人間がもともと持っている本能に近いと思うから。

──昔の歌謡曲はもっと人間くさかったり肉感的ないやらしさがあリましたね。あえてキノコホテルを歌謡曲的だというとしたら、そういう部分じゃないかと。

 子供は見ちゃダメとか、見てはいけないものを見てしまったとか、そういう昭和のエロのスピリットは持っていたいと思います。音楽性として昭和を追求する気はさらさらないんだけど、キノコホテルに精神的な昭和の名残があるというのはなんとなくわかる。それは、今の日本の若い人達がなくしちゃったんだけど、本来あるべき姿なんじゃないのかって思うし、そういうものを拾い集めてきて今の新しいものとして提示したい。キノコホテルのやりたいことってそういうことなのかもしれない。やっぱり今流行っているものって気持ち悪いですもん。キャリーなんとかさんとか、私はちょっとダメですね。

──ネットの普及も大きいと思います。バーチャルなコミュニケーションが増える一方で、肉体性は随分失われたのでは。

 コミュニケーションの方法は完全に変わったと思う。かつては世の中に対して公然と発言する人って限られていたと思うんですが、今は誰でもできちゃうから。それで、本来発言する資格もないようなバカが世の中にしゃしゃり出てきては引っかき回して、結局みんなが嫌な思いをしてるってことが多いじゃないですか。

──ネットの炎上とかホントくだらないですよね。リアルに体をぶつけ合ったり触れあったりする機会が減ってるんじゃないかと思います。

 ろくに知りもしないくせに何かぐちゃぐちゃ言ってないで、ちゃんと見てから言って欲しいです。なんて言ってもしょうがないんだけど、ホント嫌な時代だなあと痛感しますよ(溜息)

──キノコホテルが実演会を大切にしているのは、そこが人としてリアルな空間だからなんじゃないかと。

 キノコホテルで私も人様の前に出てやっているわけだけど、自分はなかなか勇気のいることをやってるなと思う時があります。よくやってるなと(笑)

──僕もそう思います。支配人自ら痴女と名乗ってまでして…。

 まあ痴女なのは間違いないですけどね(笑)。

感傷的な気持ちはほとんどなかった

──そして9曲目の「悪魔なファズ」。ファズとオルガンはキノコホテルの代名詞と言わんばかりの攻撃的な曲ですね。

 そう。キノコホテルと言えばオルガンとファズ。どちらかがメインのバンドはよくあるんですが、それを真っ向からぶつけているというのが面白いんです。それをデビュー当時から主張しているのでわかっている方には言わずもがなですが、それを曲で表したのがこれですね。

──ケメさんの成長ぶりを堪能するのもいいですね。

 もちろん各メンバーの成長はめざましいんですけど、ケメちゃんはうちに入社してきた当初は前任者のフレーズを弾くだけでステージも地味だったんです。ただ彼女はああ見えてとても努力家なので、いつもギターを練習しているし、今は音的にもテクニック的にもステージングもキノコホテルに欠かせないギタリストに成長してくれたという感じですね。

──女性ギタリストとしては最も華があるし、今の時代を代表するギタリストだと思います。そして最後の曲は実演会ではメンバー紹介の曲である「♯84」

 これもさんざんステージでやってきた曲で、7曲目同様、成仏系ですね。

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──そしてこのアルバム・ラストの曲が今のメンバー4人にとっての最後の録音曲となってしまいました。

 そうね。録った時はまだエマちゃんの退職の話はなかったのですが、ステージを締める曲が、アルバムの締めの曲になっていて、そしてここで従業員が1人脱退していく。もちろん偶然なんですが、レコ発の「サロン・ド・キノコ」でのエマちゃん退職までの一連の流れは、1つの締め括りとして「ああ、美しいな」と自分でも思ったほど。このままキノコホテルを廃業してもいいぐらいにね。

──エマちゃんの退職はいつ決まったんですか?

 レコーディングが終わって、発売が12月5日に決まって、それに向けた準備をしているさなかにそういう話になったのかな。

──ブログではそういう予感もあったと書いてますが。

 まあ女の子だし、いつそういうことになってもおかしくないですから。これまでに何回もメンバーは代わっているので、いまさら驚くこともないですね。私も去る者を追うタイプではないので。

──でも一番古いというのもあり、抜けた穴としては大きいんじゃないですか?

 もちろんエマちゃんのファンにとっては大きなショックだったと思います。でも空いた穴は埋めるしかないし、バンドはこれからも続いていくわけだから。彼女がいた4年半は一つの思い出としてあるけれど、先のことを考えないと。だから感傷的な気持ちはほとんどなかった。

──そうですか。僕は9日のキネマ倶楽部でのエマちゃんの退社式では思わず泣いてしまいました。

 そういう人は多かったですね。いろいろな偶然が重なったからだけど、リリースからツアーファイナルまでの流れはなかなかドラマティックだったと思いますよ。

──先ほどの“女の子には時間がないの”という言葉が、なんか感慨深いです。幸いにしてキノコホテルはまだまだ続いていくわけですが。

 このROOFTOPが出る頃には新編成のキノコホテルのステージが1回か2回ぐらい終わってる頃だと思いますが、新ベーシストとしてジュリエッタ霧島が入社します。なんていうか…、とても才能のあるベーシストで、実はさっき初めて音合わせをしたんですがバンドとしての手応えをすごく感じました。来年も既に実演会が20本以上決まっているのですが、それを重ねていくうちに彼女がキノコホテルに馴染んでいってファンの人達に認知されていくんじゃないかな。だからこれからは、いろんな意味でちゃんと音を聴いてくれるファンが残ってくれればいいと思うんです。メンバーが可愛いから来るみたいな人はもう来なくなってもいいし、音楽としてきちんと評価してくれるお客さんだけがいればいいですね。

──実際、アルバム毎の進化のスピードは異様に速いですよ。

 だから『マリアンヌの誘惑』はそれまでの4人で4年間積み上げてきたことの1つの集大成と言えると思いますね。

──そして第1期キノコホテルが終わり、いよいよ第2期が始まるといった感じですね。

 まあ自分としては第3期が終わって次は4期ぐらいの感覚ですけど(笑)。自分でもこれからキノコホテルがどうなっていくのか楽しみだわ。

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マリアンヌの誘惑

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1. 四次元の美学
2. 球体関節
3. 業火
4. 愛と教育
5. その時なにが起こったの?
6. エロス+独裁
7. 恋のチャンスは一度だけ
8. 回転ベッドの向こうがわ
9. 悪魔なファズ
10. ♯84

LIVE INFOライブ情報

実演会スケジュール

1月19日(土)タワーレコード渋谷店
1月21日(月)渋谷O-EAST 
1月24日(木)新宿ロフト w/戸川純
1月26日(土)高円寺UFO club w/ムッシュかまやつ 
2月09日(土)京都 磔磔
2月10日(日)京都 磔磔
2月15日(金)徳島FIGARO
2月16日(土)高松swagg
2月23日(土)zepp福岡
2月26日(火)渋谷www w/N'夙川ボーイズ
4月07日(日)沖縄Output
4月13日(土)札幌Soundlab mole
4月14日(日)札幌Soundlab mole
4月20日(土)島根 松江B1
4月30日(火)名古屋クラブクアトロ
5月02日(木)恵比寿 リキッドルーム
5月11日(土)博多BEAT STATION
5月24日(金)神戸 太陽と虎
5月25日(土)大阪Shangri-La
and more...
 
※キノコホテルのミニアルバム、2013年春・発売予定!
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