caroline rocksから1年半ぶりの作品となる『final despair』がリリースされる。1st.『白い空気とカーディガンと頭痛』では「夢の世界」、2nd.『paralell.』では「街、現在」をそれぞれイメージし、感覚的な表現をしていたように思うが、今作は「絶望の先」をテーマに地に足がしっかりと着き、現実味を帯びた作品だという印象だった。また、サウンドも以前に比べると表現力が格段に豊かになり、バンドが一歩一歩確実に進んでいることが感じられた。
しかし、この作品を持って次のステージに向かっていくのだろうと思っていた矢先、彼らは12月10日に新宿LOFTで行なうワンマンライブをもって、解散することを発表した。これからというタイミングだったのになぜ?
今回は最高傑作にしてやむなく最後の作品となってしまった『final despair』の話、そして解散に至った経緯を訊いた。(interview:やまだともこ)
純粋な気持ちをちゃんと表現したかった
── 前作『paralell.』から1年半ぶりのリリースとなりますが、まずこの期間というのはどんな活動をされていたんですか?
渡辺僚啓(Gt.&Vo.):『paralell.』をリリースしたのが昨年の4月で、それからリリースツアーを回って、夏にツアーファイナルとして下北沢SHELTERで初ワンマン。その後、今後の方向性をどうしようかという葛藤があって、それまでスタジオセッション等で作りためていた新曲のネタがどうもしっくり来なくて全く新しい曲を1から作り始めました。その後ライブを休んで曲作りに集中しましょうって、年内決まっていたライブをやって以降9ヶ月間制作期間にして、その間に10曲ぐらい作ってレコーディングをしたのが今年の6月です。
── 10曲作られた中の5曲が今作『final despair』に収録されてますが、選曲の基準はあったんですか? バラエティに富んだ作品だと思いましたが。
平沼喜多郎(Dr.):幅を出したいとは言ってたね。いろんなタイプの曲を選びたいとは言っていて、それでバラエティに富んだものになったと思います。
── アルバムタイトルは『final despair』と名付けられ「絶望の先」をテーマにしているそうですが、こういったテーマで書こうと思ったのはどういった意味があるんですか?
渡辺:昨年の震災に直接的な影響があったかどうかはよくわからないですけど、全く曲作りが出来なくなってしまう時期があったんです。その時にいろいろと考える時間があって、せっかく人前に立って大きい声で歌っているんだから純粋な気持ちをちゃんと表現したいなという結論になり、自分なりのやり方で希望を見い出す歌を歌いたいと思ったんです。目の前にある絶望と向き合って、そこから始めようということを表現したいなと。そうして明確なテーマでどんどん曲が出来て行ったんです。出来上がり、今回の曲を作っていきました。
── 曲の作り方や歌詞の書き方もこれまでとは違ったんですか?
渡辺:今までは僕がネタを持っていって、バンドで話し合ったりセッションしながら曲を仕上げていきましたが、今回は歌詞も付けて、歌も入れて、各パートの音も入れてと、ある程度完成している状態のデモを持っていって、それをバンドで昇華するという作業でした。
── 1st.が夢の世界のイメージで、2nd.で少し現実味を帯びてきて、今作では現実を受け入れて進んでいく様を想像し、世界観がだいぶ変わってきていますね。
砂川一黄(Gt.):歌詞は深みに達した感じがしますね。特に1st.は無感情の部分がありましたが、今回のアルバムは渡辺の思いや考えがより色濃く出てるなという感じがしますね。
── 1曲目の『final tempest』は、サウンドはダンスチューンでしたけど、まさに歌詞は絶望と希望が交錯していますし。
砂川:この曲が「絶望からの希望」というテーマに一番沿っている気がします。
渡辺:今回のテーマの核ですね。
── そういった言葉のイメージを、みなさんが鳴らすサウンドが増幅させてくれる感じもあって。
砂川:渡辺の持っているイメージをどうしたらより膨らませることが出来るか、そしていかにしてcaroline rocksの4人で作品を作り上げるかと、今までは全くやってこなかったようなことも積極的にトライしました。
── 今回新たに開かれた引き出しというとどんなものになりますか?
平沼:僕は今回電子ドラムを初めて使ったんです。メインで入れてるのは『a isolated flower』なんですけど、電子系自体扱ったことがなくて感覚が掴めないので、今年の頭ぐらいから練習を含めてフレーズや音作りを始めました。叩いた感触も違うし、生ドラムと同じようなフレーズを叩いてもうまくいかないんです。電子は電子の特質したフレーズを作らないと変になっちゃう。でも、アルバムのテーマが明確だったので、世界観を増幅させるためには使って良かったなと思います。
和田日出海(Ba.):僕は今まで指弾きをちゃんとやったことがなかったんですけど、今回は指弾きで弾いてる曲もありますし、足元がだいぶ変わりました。前まではアン直でエフェクターはチューナーだけでしたけど、今は5〜6個あるんです。それを使うことによってまた世界観が広がったかなと思います。
── 砂川さんは?
砂川:機材面はいろいろありますけど、今までは僕のフレーズで言えば勢いで弾いてる力任せなフレーズが多かったんです。でも、渡辺からあがってきた音源を聴いて、これは力じゃないと感じたので、引き算した中でいかにして印象深いフレーズだったり、美しい旋律だったりを奏でられるかというところは録る時に考えましたね。でも、一番大きいのは渡辺がシンセを使ったことですね。それがきっかけでバンド全体のアンサンブルも考えようってなっていったんです。
渡辺:僕がエレキを弾いてるのは1曲目だけで、あとはシンセとアコギ。ギターロックという枠におさまりたくなくて、自分の良さも生かせる曲作りをしたいと思って鍵盤を入れました。
── なるほど。また、3曲目の『the circus of clowns』は全体的なサウンドにすごく色気を感じましたし、5曲目の『a isolated flower』はドラマティックなサウンドになってますね。
砂川:『the circus of clowns』は歌詞に「ピエロ」って出てくるので、僕は滑稽さを意識しているんです。どこかネジが1本外れている感じというか。『a isolated flower』は演奏の面で言えば人間味を出したくなくて、どっちかと言えば機械感というか、無機質で混沌とした曲だと僕は解釈しています。だから電子ドラムや効果音的なフレーズを使っているんです。ただ、核となっている部分に渡辺の思いがちゃんと入っているので、そういった意味ではドラマティックというか、一番カオスな曲かなと思います。
── ところで、先ほどお話を聞いて思ったんですが、今回は歌詞を読んでアレンジを考えていくことが多かったんですか?
砂川:歌詞も加味してますけど、曲を聴いた印象と渡辺からの意見を聞いて。
平沼:スタジオでその都度話をしながら細かい部分までやってました。
和田:だから僕は作業がけっこうギリギリになってしまったんです。なかなか納得出来ないところがあって、作ってはメンバーに聴かせてというのをレコーディング前の最後のスタジオまでやってました。
渡辺:世界観が軸になっている上で、アレンジでそれぞれの良さもちゃんと出ていたので納得してるし、良いものが出来たなと思います。