7月11日にFoZZtoneのニューアルバム『INNER KINGDOM(内なる王国)』がリリースされる。
今年4月にはミニアルバム『LOVE』のリリース、そして6月には、OMA2(オーダーメイドアルバム2)『From the INNER KINGDOM(内なる王国より)』と題された、リスナーが12曲の中から10曲を選び、自身で曲順を考案してオーダーするアルバムを発表するなど精力的に活動している。そして、今回リリースされる『INNER KINGDOM(内なる王国)』は、『LOVE』からの流れを引き継いだ"フィジカル"がテーマとなり、より体が反応するサウンド、肉体を熱くさせるサウンドが詰まった作品に仕上がっていた。生きることを諦めたくなった時でも、自分の中(INNER)に気高く美しい王国(KINGDOM)があり今を生きる力を与えてくれる。そういったことが意識されたこの作品は、『disc physical「Beautiful gene」』と『disc mental「Pageant : Keller Water」』という2枚組となり、とても重量感のある作品だ。
今回もVo.&Gt.渡會将士に作品について話を聞いた。アルバムの内容量に比例して1時間では聞き尽くせないほどの作品だということも記しておきたい。(interview:やまだともこ)
体の反応を先行してほしい
── 4月に『LOVE』でお話を聞いた際、「今年のテーマはフィジカルです」と言ってましたけど、それが今作を聴いてすごく納得ができました。これまでの作品からの繋がりも見えましたし。
渡會:前回のアルバム『NEW WORLD』を経ての作品という意味合いとしても、自分たちの中でも連続性があった気がしてます。
── 『NEW WORLD』もすごく重量感のあるアルバムだと感じていましたが、『INNER KINGDOM(内なる王国)』は、それ以上にとても内容の濃いアルバムになりましたね。
渡會:これを計算して作ったんじゃないかと思ってる方が多いんですけど、『LOVE』を作った時から、苦しいこととか悲しいこととかあるけれど、僕たちの音楽を聴いて気が付いたら体が動いたっていうことを真面目にやろうかと言って制作に臨んだアルバムなんです。だから濃いと言われますけど、フィーリングで作ったと言ったほうが正しい。洋楽を聴く時って、このファルセット気持ちいいな、この歌声気持ちいいな、ギターかっこいいな、リズムかっこいいなと音をちゃんと聴いてるじゃないですか。そういうアプローチを僕らもしたんです。だから、あんまり難しいこと考えなくてもいいよって思ってます。根本的にこの盤で伝えたいのは、深く考えるよりも体で感じるということ。体の反応を先行してから、曲の意味、歌詞の意味を考えてもらえればしっくり来るんじゃないかと思います。とは言っても、このアルバムも一生聴いてもらいたいし、尋常じゃなく重たいアルバムになったということは自負してます(笑)。気持ちとしては踊って欲しいというのが根本でありますけど、50年後も聴いてもらえる作品であってほしい。60年代・70年代の作品って今でも聴き継がれているじゃないですか。自分たちもそうでありたいんです。
── その点で言えば、FoZZtoneの場合はCDを買って歌詞カードを読んでもらいたいと思うし、それで感情を掻き立てることも出来るし、考えさせる力も持っているし、何年先までも聴いていたい作品だと思います。
渡會:今ってインターネットを使えば、ボタン一発でなんでも調べることが出来る時代じゃないですか。でも、プロセスを楽しむのが人生だと思うんです。極論みんな死ぬし、死ぬために生きてると思ったらバカバカしいけど、それまでの過程をどれだけ素晴らしいものに出来るかというのが、気高く生きるということだと思うんです。だからオーダーメイドアルバムという企画も、曲順を考えてもらうとか、プロセスを楽しんでもらいたいなと思ったんです。
── そういったアイディアを提示するというのは、先頭に立って引っぱっていきたいという感覚なんですか?
渡會:全く。特にオーダーメイドアルバムをやっていて感動したのが、お客さん1人1人が考えた選曲のコンセプトがどれも輝かしいもので、僕らの選曲と全く対等の価値があるなと思ったんです。俺の選曲最高ってみんなが言い合って、お互いの曲順に対してそれもいいねって肯定的に話をしていて、自分が制作したものでこれだけ楽しんでもらえているし、僕もその中の1人でありたいなと思うし。
── その「プロセスを楽しんで欲しい」というFoZZtoneが提示した意図を、お客さんも汲み取っているということですね。
渡會:自分の名前がクレジットに載るという意味合いをすごく尊重して、自分の選曲ということを意識してやってくれたので、受け取るだけじゃなくて、それをどう味付けして楽しむか、素材を買ってきてどう料理するかを楽しめる人達なんだなって、それはすごく嬉しかったです。それに閉鎖的ではなく、僕らのやっていることを尊重した上で「FoZZtoneという良いバンドがいるんだよ」と広げる活動をしてくれているんです。僕自身は偏った、わかりづらい人生を送ってしまうめんどくさい人間だと思うんですけど、周りで携わってくれているあらゆる方々が、どう考えたってわかりづらいでしょというものを好意的に受け止めてくれているんです。
音楽を聴いて具体的に元気になって欲しい
── ところで、『INNER KINGDOM(内なる王国)』というタイトルにはどんな意味を持たせていますか?
渡會:昨年は震災があり、震災に限らずそれぞれ生きていく中でいろいろと大変なことが起こりますけど、なんだかんだ生きてるじゃないですか。それって誰かが助けてくれたからとか、運が良いからとかももちろんあるけれど、同時に自分の中でトラブルが起こってもなんとか乗り越えていけるパワーがあるんじゃないのかなって。それはフィジカルとかメンタルとかですらない、何かもっと奥にすごいものを持っているんじゃないかと思っているんです。「皆さんに助けてもらったおかげです」と言うのも日本人らしくていいけど、「俺の内側にあるパワーハンパないから」って思った方が、次のトラブルが来た時にも頑張って乗り越えようと思えるんじゃないかと。
── 『LOVE』で言っていた、“体は生きようとしていた”ということですね。
渡會:根源的にみんながすごいパワーを内側に持っていたら良いなって。それを持っているという前提で、生きていこうよというメッセージを言葉にしようかなと思ったんです。インナーは“内側”という意味で使ってますけど、ネガティブなイメージもあるから、その後に来るのが開けたものなら良いなって。それで“キングダム”になって、“内なる王国”にしました。
── 今作では『Beautiful gene』(M-4)の途中で『LOVE』のサウンドを入れたり、ギターソロの部分が『MOTHER ROCK』(M-10)だったりと、他にもありますが面白い仕掛けがたくさんありますね。
渡會:面白いからやってみようという発想だったんです。周りが思っているほど、そこは難しく考えてないというか…。今回レコーディングのスケジュールを立てるチームの人が、まさかこんなに濃いアルバムになるとは思っていなかったから、普通のスケジューリングをしてくれたんです。でも、作業をしているうちにもうちょっと録ろうかってどんどんこだわっていたら圧倒的に日が少なくなってきて、参加してくれているエンジニアさんとかスタッフさんが動ける日も限られているし、この期間内になんとか録らなければという状況だったんです。でも、それを苦しいとか、曲が出来ないって思ったら絶対に良いアルバムは作れないし、“フィジカル”をテーマにしたアルバムだから、「乗れるリズムないですか?」「こういうのはどう?」「それいいね!」というやりとりをしながら進めて行きました。
── そう言われると、スペイン風のロックサウンドの『Fish,Chips,Cigarettes』(M-5)や、スカのリズムが印象的な『Club Rubber Soul』(M-6)も、乗れるという意味ではすごくわかります。
渡會:『Fish,Chips,Cigarettes』は家でギターを弾いていたらフレーズが出てきて、「これ良くね?」って。『Club Rubber Soul』もフェスでスカを演奏したら気持ち良いよねって。それでスカパラさんの曲を聴いたんですけど、うちにはホーンセクションがいない。でもスカの雰囲気を出すにはどうしたら良いんだろうって、スカの秘訣はなんなのかを研究して、普通のスネアが入るところにドラムのキックが入るとかセッションしながら、こういう感じなんだ! ってやってるうちに楽しくなってこのまま録ろう! って。でも楽しいだけのアルバムにはしたくなかったので、『FIND OUT』(M-2)や『half myself』(M-7)を作ったんです。『FIND OUT』は『LOVE』の後に際限なく広がっていくとかってドラマチックじゃないなと思って、『half myself』は一番最後に出来た曲なんですけど、やっぱりスカの印象が強かったのと、『MOTHER ROCK』の最後がとんでもないことになってしまったので(笑)。悲しみがないと喜びが増幅されない気がして、悲しみパートの曲を作るというので、『half myself』を録りました。
── 『MOTHER ROCK』は最後がスタジアム風というか、「ガンズ・アンド・ローゼズみたいな架空のロックバンドをでっち上げてみました(笑)」と紙資料に書いてありましたが、あんなに大袈裟に終わるとは思わなかったですよ。
渡會:お客さんが聴いた時にどういう反応になるかなと思いますけど、あの曲に辿り着くまでの過程って確かに濃いし、何か考えなければいけないのかなという流れがあると思うんです。でも真面目に聴いていたら最後に「え?」ってなりますよね(笑)。“フィジカル”をテーマにしたのも、音楽を聴いて具体的に元気になって欲しいと思ったんですよ。それは「僕たちの音楽を聴けば元気になりますよ」というキャッチコピーじゃなくて、聴き終わった後にちょっと笑ってるとか、聴き終わった後に口角が上がって背中がすっと伸びるとか、気持ちが良いとか、音楽はそういう効果があるということを真面目に考えたいなって思っていたら、『MOTHER ROCK』の形になってしまったんです。でもあれを大爆笑しながらレコーディングしていて、その感じが聴いてくれた人に伝われば一番良いなと思うんです。『LOVE』も良い曲を作れたと思いますけど、リズムで楽しくいこうぜと言いつつ、内面にはディープなものがあるので、考えさせられると言ってくれる人もいたんです。でも、このアルバムでは最後の出口が「派手にやろうぜ!」っていう雰囲気になっていて、何かしらの効果が出るアルバムになりました。聴き終えた時に必ず聴く前と反応が変わるという。そういうアルバムだと思います。
── 最後に入っている歓声は、FoZZtoneのライブの歓声からですか?
渡會:自分たちでも入れたり、お客さんの声とか、無料の音源とかいろいろな人の声を集めてます。お客さんを交えたオーダーメイドアルバム等の企画をやる中で、知らず知らずのうちにお客さんが締める割合が大きくなっているんです。だから、歓声もそうだし、今回のジャケットに手のシルエットが出てくるんですけど、それはFoZZtoneのライブ写真からデザイナーさんが引っぱってくれたんです。手のシルエットなのに楽しそうだし、それにすごく感動したんです。自分に還元された気がして。それが作品としてまた世に出てお客さんがそこから反応していくという。すごく良いジャケットになりました。
── 自分が作った音楽でこれだけの人の感情を震わせたり、喜んでくれているって、すごい嬉しくないですか?
渡會:すごい嬉しいです。こんなにめんどくさい音楽なのに(笑)。