ロフト3デイズってロックっぽくない!?
──ZIGZOの再結成は3.11に関係なく進められていたんですよね。
高野:計画自体は3.11の前からあったし、3.11の後も基本的な方針は変わってない。ただ、もう4人とも大人だから、意識の部分で3.11は決して避けて通れない凄く大きな出来事ですよね。解散前のZIGZOは9.11をテーマにした曲や社会的なメッセージを織り込んだ曲をレパートリーにしていたし、3.11のことや原発問題といった日本の現状についてメンバーと話すことが今も凄く多いんですよ。誰からともなくそういう話をするバンドなので、3.11以降の日本は重要なテーマになると思う。特にDENとRYOはBY-SEXUALの再結成を震災のチャリティでやったじゃないですか。DENが中心となってその収益の分配を決めて、3県の自治体の担当者と直接話しながら振り込みをしたから、被災地の復興に対する意識が凄く高いんです。
──もう一度ZIGZOをやることに気負いはなかったですか。
高野:解散から10年が経って、単純にまたZIGZOをやりたいよね、という気持ちがあったんですよ。正直、真面目にやる気はあまりなかったんだけど、まんと周りに乗せられたと言うか(笑)。俺は1回限りの再結成でいいんじゃないかと思っていたくらいで。
──僕は3月の赤坂ブリッツで初めてZIGZOを見たんですけど、ステージに立つ哲さんがいつもの哲さんじゃないように思えたんです(笑)。1曲目がピンのヴォーカルから始まったのも凄く意外で。
高野:あの日のライヴを映像で見返すと、普段持ってるギターがないから手のやり場に困ってるのが自分でも分かるんですよね。そう言えば「ちょっと郷ひろみっぽい」って誰かに言われたんですよ、本人は石橋凌さんのつもりだったのに(笑)。
──『SNAP YOUR FINGERS』のつもりが『GOLDFINGER '99』になってしまったと(笑)。
高野:別に郷ひろみさんがダメなわけじゃないけど、慣れないことはするもんじゃないなと(笑)。
──ZIGZOのレパートリーはクオリティの高い楽曲ばかりだし、それらをまた再現できる喜びが純粋にありますよね?
高野:また唄える喜びは素直にありましたね。それと、去年被災地に出向いていろんな話を現地の人たちとできて、直接触れ合って理解を深められた経験が個人的にとても大きかったんです。その経験を通じて、音楽をやることで誰かの役に立つことの意味を真剣に考えるようになった。ZIGZOをやることで誰かの役に立ったり、純粋に喜んでもらえるのであれば、それは進んでやるべきだなと思って。同じ叫ぶ行為でもZIGZOならより大きな場所で叫べるわけだし、落ち込んでる人に対してより大きな声で「頑張れよ!」って叫べるじゃないですか。またZIGZOをやることが発表された時に凄く反響もあったし、みんなが喜んでくれるのはとてもいいことだなと思ったんですよ。今はそういう単純なことが原動力になっていますね。10年間眠っていた曲たちを唄える喜び、4人でまた新たなに曲を生み出す喜びも凄くあるけど、単純に誰かに喜んでもらえる喜びが俺にとっては大きなやり甲斐のひとつなんです。そういうシンプルさが3.11以降、より明確になった気がする。
──不安材料はありませんでしたか。
高野:まぁ、再結成したバンドはみんなそうだと思うけど、最初は調子いいはずですよね。物珍しさもあるし、昔からのファンは喜んでくれるでしょう。でもその後、小康状態になった時が勝負ですよね。せっかくまたZIGZOをやる以上はしっかりと充実した活動にしたいし、そこは気負いと言えば気負いなのかもしれない。
──赤坂ブリッツでの再結成ライヴすらチケットが入手困難だったのに、今回の『TOUR THE 2nd SCENE ZIGZO』はまさかの新宿ロフト3デイズで締め括るツアーで、お客さんにとってはさらにハードルが上がってますよね(笑)。
高野:去年からスタッフと密談を繰り返していた時に、ブリッツの後の動きの話になったんです。きっと全国で待ち続けてくれた人たちがたくさんいるだろうから、ひとまずはお礼参りツアーをやろうと。で、東京はどうするんだ? という話になった時に、スタッフから「ロフト3デイズってロックっぽくない!?」という意見が飛び出したんですよ(笑)。それで盛り上がっちゃったんですね。
──とても有り難いことですよ。お客さんには申し訳ない部分もありますけど。
高野:3日間同じ内容だったら3日間すべて来られるお客さんには退屈だろうし、やってるこっちもつまらないので、3日とも違う趣向でやるつもりなんです。そのお陰でメンバー全員焦ってますけどね(笑)。ロフトの3デイズがあるからツアーでトータル50曲くらいはやることになるので大変ですよ。SAKURAさんもそうだし、カジもそうだし、風間(弘行)もそうなんだけど、ドラマーって唄い手の喉を考えずに勝手な意見を言う傾向にあるんですよね(笑)。「自分が叩けりゃ歌もOKだろ!?」みたいな感じで(笑)。
アンプの前に立って自分の内側から出てくるもの
──今回のツアー、全公演の全演奏曲を配信販売するというのも前代未聞ですよね。
高野:どうするんだろうね? 絶対に間違えまくると思うけど(笑)。まぁ、過去の音源を再発するよりも面白いんじゃないかっていう発想ですよ。全公演、全演奏曲を収録となると、ライヴでやった以上に格好付けることはできないし、それはひとつのバンドの姿勢として受け取ってもらえればいい。「ヘタクソだなぁ、間違えまくってるじゃん!」っていうのも含めて好きになってくれたら嬉しいなと(笑)。
──ZIGZOはライヴ・デビューこそ渋谷ラ・ママでしたけど、結成当初から赤坂ブリッツを始めとして大きな会場でライヴをやることが多かったですよね。
高野:音楽性云々の前に、俺以外の3人の人気で一気に注目を集めたバンドでしたからね。でも、デビューして1年が経った頃に「何だ、こいつらヴィジュアル系じゃなくて凄く真っ当なロック・バンドじゃん!」って気付いたのが事務所とレコード会社だったっていう(笑)。それでセカンド・アルバム辺りから方向性の仕切り直しが始まったんですね。でも、その矢先にバンドが終わってしまった。だから、もしこの先サード・アルバムを作るとしたら、ロック・バンドの進化と真価が問われる3枚目になるわけですよ。10年という歳月を経て1枚のアルバムを作れたら面白いですけどね。
──仮にアルバム制作の話が決まったら、10年の間に4人が培ったものが集約された、実に濃密な作品になるのでは?
高野:そうなればいいけど、俺の場合、瞬間的に出てくるものを捉えて曲にするんですよ。そこに10年分の深みがあると思いたいけど。
──その瞬間的に出てくるものというのは、ZIGZOよりもジュンジュラのほうが先に落とし込みやすいんじゃないですか。
高野:そうかもしれない。でも、その区別はあまりしてないかな。その日の気分もあるしね。あえて意識してやっているのは、家で曲を作らないことなんですよ。nilでもジュンジュラでもZIGZOでも、その場で曲を作ることにしているんです。アンプの前に立った時に曲作りのスイッチを入れて、さぁ何が出てくるのか!? っていう感じで自分を追い込む。30歳になるくらいまではやりたいことや湧き出るアイディアがいっぱいあったけど、それもいつしか枯れてきて、自分の焼き直しみたいな曲しか作れなくなるんですよ。でも、この歳になると自分の内側から出てくるものを待つコツが分かってくる。それが俺にはでっかいアンプの前に立ってでっかい音を鳴らした瞬間なんです。お酒の力に頼らなくてもスイッチを入れられるので(笑)。
──これだけ数多くのユニットを並行してやっていて、ペース配分はどうしているんですか。
高野:配分はしてないですね。それほど深く考えていないのかもしれない。スケジュールの調整も敏腕マネージャーが何とかしてくれるし。でもまぁ、忙しいは忙しいですよね、有り難いことに。全く休みのないスケジュールも過去にあったんだけど、その時はひとつのバンドしかやっていなかった。どっちがラクなのかは分からないけど、今のところはしんどいとは思いませんね。しんどくなったらどれかを休めばいいだけの話だから(笑)。自分は意外と責任感の強いほうだと自覚していて、追い込まれる時は相当なところまで追い込まれるはずなんですよ。だから、ある程度の部分まではいい意味で無責任でいようかなと思って。
──哲さんは小滝橋通りにあった頃のロフトはよく出ていたんですか。
高野:うん。MEGA 8 BALLの時にね。nilは歌舞伎町に移ってからかな。俺は中学生まで大久保3丁目に住んでいて、ロフトは近所だったんです。友達と「いつかここに出ようね」って言いながらロフトの前を通った記憶がある。考えてみれば19の頃にはロフトに出られたから、けっこう早く夢が叶ったことになるんですよ。
──お客さんとしてロフトへ足を運んだのは、どんなバンドが目当てで?
高野:よく覚えているのはTRACY。あと、THEATRE BROOKの中打ちに紛れて呑んでたこともあったなぁ(笑)。
──じゃあ、インディーズ電力に至る伏線がちゃんとあったわけですね(笑)。
高野:偶然にもね。誰かにタイジさんを紹介されて、「うわ、テレビに出てるモジャモジャ頭の人だ!」って思った(笑)。そうやって見ず知らずの人もない交ぜになって呑んだくれる感じは今も変わらずロフトやシェルター特有のものだし、凄く面白い。それと、俺は直接は知らないけど、70年代のロフトは中央線文化の発信源で、日本のロックと共に歩んできたわけでしょう? ロック好きの連中はみんなその伝統に吸い寄せられて、場所が変わっても大塚君を始めとするスタッフはロフトらしさを受け継いでいるのがいいよね。みんなロックが好きで、ロフトの匂いが好きで集まっているしさ。最近は減ったけど、カジなんかと「じゃあロフトへ寄って帰ろうか?」ってことになるし、駅前の立ち呑み屋みたいなところもあるよね(笑)。