4月11日、FoZZtoneのミニアルバム『LOVE』がリリースされる。今作は『LOVE』を始めとした5曲を収録。昨年は、気高く生きることをコンセプトに作り上げられた2枚組の超大作『NEW WORLD』のリリースや、東京・キネマ倶楽部で"組曲 白鯨"と題されたオペラ形式のライブを行なったりと、精力的に活動していた彼ら。しかし、昨年3月に起きた震災により、彼らにも変化が起きていた。今回リリースされる『LOVE』は、震災以降初めて書いた曲であり、作詞を手掛けた渡會将士(Vo&Gt)の心情が綴られた曲だ。『NEW WORLD』で人生を歌い、今作は「生きること」を強く訴える作品。今年の彼らの活動の中で非常に重要な1枚となるだろう。常に新しいアイディアを取り込み挑戦し続ける姿に、私は音楽と共に生きることを決意した彼らの生き様を感じた。今回は渡會に単独インタビューを敢行。「今バンドがすごく良い状態なんです」と言う彼の目はとても輝いていた。(interview:やまだともこ)
肉体が生きるサイクルは気持ち関係なしに回っている
── まさか渡會さんから『LOVE』という言葉が出てくるとは思っていなかったので、その衝撃はありましたが、どういう経緯でこの曲が作られていったんですか?
渡會:昨年は震災もあって、バンドもすごくナイーブな状態になっていたんです。ちょうど『NEW WORLD』のレコーディングをした直後でもあって、あのアルバムで全部出し尽くていたので、世の中に受け入れられなかった時に、俺の存在価値はないんじゃないかって。今までこんなこと一度も思ったことがなかったんですけど。それに世の中が不安な状況だったので、どうなっていくんだろうと考え込んでしまい、どんどんメンタル的に病んでしまったんです。それが昨年の夏から秋口ぐらいまで続いてましたね。それで、何とか外に出る努力をして、徐々に気持ちが回復していった。でも、それは時間が解決してくれたというわけではなくて、メンタルが弱っていてもお腹は減るし、髪は伸びるという肉体が生きようとするサイクルは、気持ち関係なしに回っていることに気付いたんです。一時期は、肉体も空っぽになってこのまま消えてしまうという恐怖もあったんだけど、体は普通に「生きるぞ!」と言っていたんです。それで、とにかく体を回す生き方をしようと考え方をシフト出来るようになって、朝早く出掛けることがあってもご飯を食べるとか、ヒゲがちょっと生えてきたら剃ろうとか、生きるためのサイクルを丁寧にやっていた時に、これは大事なことのような気がすると思い、『LOVE』を作りました。『NEW WORLD』で出し切ってしまったけれど、その後何かを見つけられたなっていう気はして、それもすごく大きかったです。
── 『LOVE』というタイトルになったのは?
渡會:特に具体的な理由はないんです。出来上がった時に「これは『LOVE』だな」って直感で思って。今『LOVE』は配信でリリースしているんですけど、“この曲のタイトルがなぜ『LOVE』なのか”という理由を、お客さんがネット上で言ってくれてるのを読みながら、「そうなんだ!」って気付かされてます。曲の展開とか理詰めでがっちり作っている部分もありますし、なんとなく気持ちを入れている部分もあって、不思議なバランス感で出来てる曲です。
── 今までこれだけ感情を前面に押し出した曲って、そんなにないですよね?
渡會:スタンスは根本的には変わってないと思うんですけど、アウトプットの仕方がヘタだったと今は思います。説明の方法を整理することが出来るようになったんだと思います。
── それは昨年の出来事があって、変わってきたというか。
渡會:一度空っぽになったことで、切り替わったような気がしています。歌詞で使っている“I'm glad to see you”は、昔から好きな言葉ではあるんですが、たぶん前だったら使わなかったと思いますし。
── この曲を初めて演奏されたのが、昨年12月に行なわれたキネマ倶楽部でのライブだったと思いますが、手応えとしてはどうでしたか?
渡會:最初はみんなタイトルに驚いていたみたいですよ。「あの人『LOVE』って言った?」って(笑)。「“わっち(渡會)が『LOVE』とか言うはずがない”ってネットで豪語している人がいたよ」という話を聞いた時は、そんなヤツじゃなくなって申し訳ないですって思いましたけど(笑)。
── 手拍子があったり、掛け合いがあったり、すでにライブの定番になりつつある曲ですよね。
渡會:良い感じです。ライブ中に意図的に掛け合いをやるようになったのも、本当につい最近ですから。
── ライブでも盛り上がるし、一聴して楽しい曲ではあるんですけど、歌詞は読んでいくほど奥深いですし、でも単純にわかりやすくなったとは違うんですよね?
渡會:すぐわかる良さってあると思うんですけど、じっくりわかる良さもすごく好きなんです。一聴しても素晴らしいと思えるけれど、聴けば聴くほど深みにはまる。もっともっと深まっていくようなところを真面目に目指そうと思っていて、入り口になるための簡単なフックはあるんだけど、出口が見えないぐらい深みを用意しておくという手法を考えてます。
失敗をすることがどれほど価値があることか
── ところで、2曲目の『TOUGH!!!』は“新世界”というワードが出てきますが、それは前作の『NEW WORLD』から繋がっているんですか?
渡會:『NEW WORLD』を出したのが自分にとってすごく大事なことで、そのネタを引っぱるというわけではないんですけど、延長線上にあることを提示したいと思っています。最近の音楽ってショット的な感覚で作品をリリースするミュージシャンが多いじゃないですか。そうじゃなくて、この1枚を聴いたら他も聴きたいと思ってもらったり、聴いた時に歴史やストーリーがあるんだなとか、バンドって面白いと思ってもらいたいんですよ。
── この曲はベースのパンチが効いた、バンドのグルーヴ感がとても気持ち良い曲ですよね。
渡會:曲は竹尾が元ネタを持ってきて、俺が歌を付けて、これで録る!ってすごく早く出来上がったんですけど、いざレコーディングになったときに一悶着あったんですよ(苦笑)。うちのバンドって、俺のキャラクターや歌い回しのアクが強いし、ギターの竹尾もものすごくキャラが濃い。サポートのドラマーもとてもうまくて、その人が8ビートを叩くだけでしっかりと目立つんです。それで、各々の采配でアレンジをやろうとなった時に、ベースのキャノン(菅野)がものすごく普通のベースラインを作って来て、「普通か! お前は!」ってみんなにディスられ倒して(笑)。「いや、普通も大事だと思うよ」って言ってきたので、「大事かもしれないけど、うちに普通はいらねえんだ」って。一生懸命頑張って考えてきてこの形になったんです。
── よくめげなかったですね。
渡會:そのねばり強さは未だに偉いなと思います。俺だったらキレてますね(苦笑)。不思議なカオス感が出ました。
── 歌詞としては『LOVE』も『TOUGH!!!』も愛が溢れたものになりましたが、3曲目の『GAME』は、エッジの効いたインストで。
渡會:ゲーム音楽を作ろうぜって言って。僕らの世代だと『ロックマン』っていうゲームが流行っていたんですけど、そういうイメージでゲームの効果音ぽい音を頑張って出したりしてます。元ネタを竹尾が持ってきて、構成をみんなで考えるという感じで。
── 竹尾さんの速弾きが炸裂し、どれだけ指の動きが速いかを見せつけるようでもありましたが(笑)。
渡會:本人は速弾きは得意じゃないって言っているんです。“味”をちゃんと出したいと言ってましたけど、結局ギター小僧なので、速いとか重いとか太いとか、そういうのを楽しんじゃいました。
── その楽しんでる感じは、次の『Tomorrow Never Knows』にも表れていて、まさかのラップ!? でしたけど(笑)。
渡會:元ネタ自体はインディーズの時に、こういう進行のコードでラップが乗ったらかっこいいねという話をしていて、当時は適当な英語でラップを乗せていたんです。それがパソコンの整理をしていたら出てきて、オケ録ってから、歌詞付けて、……もうラップはしないって決めました(笑)。バンドの状態が今すごく良いということもあって、『NEW WORLD』以降、出来ることややってないことに全部挑もうって思ったんです。挑まずにごちゃごちゃ言うのはダサイと思うし、お客さんに「挑戦しなくていいとこ挑戦してんな」って突っ込まれてもいいし、むしろ突っ込んでほしいぐらいのつもりで新しいことに挑もうと思ったので、ラップをやろうって一生懸命韻を踏むことを考えて。でも、これは書いてもらって良いんですけど、もうラップはやりません(笑)。歌詞を作ることも大変だし、所謂ラッパーの人たちの声ってラップをするための声として出来上がっているから、歌い終わった時にメンバーは「お前早口だな」って興奮してましたけど、ちょっと経って聴き直したら「ごめんなさい!」って思いましたよ。
── 実は私も味わい深い早口の曲という印象でした…。でも、韻を踏むって大変ですよね。
渡會:難しかったですね。フラットな状態の脳ならいくらでも考えられるんですけど、いざ作ろうとなると出て来ないもんなんですよ。バランス感がこれはロックの脳じゃないなって。ラップ脳の人たちはたぶん遊びの感覚を常に忘れずにいるから、それが勉強出来たという意味ではやって良かったと思ってます。とは言っても、ラップのバックグラウンドはすごく好きで、メッセージがないラップは絶対にやってはいけないと思ったので、歌詞が大変だったんです。今って堅実に生きようという思想が広がっていると思うんですけど、それが子供にも反映しているんですよね。たまたま出会う子供がしっかりしている子が多くて、もっと子供らしくいてもいいのにって。堅実に賢く、道を踏み外さなように生きようってことをみんな言いがちですけど、明日なんてわからないし、明日死ぬかもしれない。そしたら、その勉強明日やるの? いや遊ぶでしょって。特に若い子ってみんな就職とかを真面目に考えてる子がわりと多いかなと思っていて、もうちょっと夢見てもいいんじゃないかって。失敗をすることが、どれほど価値があることかをちゃんと発信しないと。そうなると、僕がやったラップにも意味があるんですよ(笑)。