
発案から4年の月日を経て、映画『デストロイ・ヴィシャス』(監督:島田角栄)は、ついに今年3月5日より渋谷ユーロスペースにて公開されることとなった。さらに公開記念イベントとして、3月2日には『デストロイ・ヴィシャス』ナイトがロフトプラスワンで開催される。
では、今「こっち側」界隈で密かに話題になっているインディーズ映画『デストロイ・ヴィシャス』とは、一体どんな映画なのか?
奇跡に近い豪華キャスト、予測不能なストーリー、大胆な演出......そんな一筋縄ではいかない稀有な映画の誕生秘話を、島田角栄【監督/脚本】、リカヤ・スプナー【俳優】、ラブ・セクシー・ローズ【俳優】、田実健太郎【プロデューサー】、華雪ルイ【プロデューサー/脚本協力】といったメンバーが語り合う。(文・華雪ルイ)
【第一部】島田角栄 × リカヤ・スプナー × 田実健太郎 × 華雪ルイ
全てのハミダシ者たちに捧ぐ愛の讃歌
華雪ルイ 今年の3月5日からついに『デストロイ・ヴィシャス』が公開となるわけですが、この映画の話が持ち上がったのは、確か2007年3月に監督の『電撃BOPのセクシーマザーファッカーズに!!』の公開があって、その後すぐでしたよね?
島田角栄 そう。だから、発案から公開まで約4年の月日が流れたということで。
華雪 今はどんな気分?
島田 まあ色んな思いはあるけれど、それはぼちぼち語るとして、唐突やけど、この映画のエンディング曲(『桃園の誓い。』:REDЯUM)はホンマにエエね。これで映画全体がビシッと締まった気がする。健太郎(田実)さんのおかげやわ。
華雪 Pの健太郎(田実)さんは、この映画がまだ出来上がる前にこの曲をエンディングテーマにどうかって打診してたってことですが、それがここまでピッタリハマるのはすごいよね。
島田 俺が出した条件は、「女性ボーカル」で「ポップ過ぎない曲」ってことくらいで、まったく魂的なもんは伝えてなかったわけですよ。
田実健太郎 監督からエンディング曲の条件を聞いた時、ふとこのレッドラムの『桃園の誓い。』って曲が浮かんだんですよ。もう解散しちゃったんですけど、このバンドすごく好きだったんです。
島田 この曲は、ヒロインのマリアの心情がもろにハマッている。奇跡的なくらい。音楽に助けられてますよ、この映画は。
リカヤ・スプナー 昔から、優れた映画はエンディング曲がハマッてるもんね。確かにあの曲聴くと、いい映画観たなって気分で終われる。
華雪 マリアの中の何かが変わったことが、感覚的に伝わってきますよね。
島田 そうそう。どこもかしこもクソみたいな世の中だけど、そのまんまふてくされて生きてもしゃあないし、だったらこんな絶望的な世でもそれを全部受け入れて、前のめりに生きていこうやって気分が表れてる。
リカヤ そういうとこが、監督が掲げるパンクスピリッツに繋がってくるのかな?
華雪 そもそも島田監督にとってのパンクって何なんだろう?
島田 パンクロックに例えるとわかるけど、もともとロックは技術に優れていないとなかなか認められにくかったわけだよね。でもパンクというジャンルは、技術より魂が上回ったところに成立しちゃって、ヘタクソでもOK! って言ってくれた。ヘタなりに本気でやって、それで何か伝わるもんがあればええんちゃうってね。だから、思いだけで映画撮ってる俺みたいな者にとっては、パンクって言葉がすごく優しく感じるね。
リカヤ でもがむしゃらに一生懸命頑張っても、ただ寒いだけになっちゃうことも多いよね。そう考えると島田監督の本気度がハンパなく突き抜けてるから、面白い映画が作れるのかな(笑)。
華雪 サービス精神が旺盛なんじゃない? なんだかんだ言っても、映画は観てくれる人に楽しんでもらわなきゃいけないから。
リカヤ 監督自身が楽しんでやってるから、それが伝わるって部分もあるだろうけどね。空気を読むとか読めないとかって言うけど、あえて読まないってのが島田流って気もする。
華雪 主人公が聾のパンクロッカーという発想も、やっぱりそのパンクスピリッツに関係があるのかな?
島田 今までの音楽家の中で一番パンクなヤツって誰かな?って考えた時、やっぱベートーベンやろって思って。耳が聞こえなくなっても、音楽貫くって普通に凄いよ。ってゆうか、聴力を失ってもなお、俺はここでしか生きられへんからここで生きていく!って腹くくってるとこがパンクやなって。
華雪 で、前作のドキュメンタリー映画『ジャップ・ザ・ロック・リボルバー』に繋がっていったわけだよね。
島田 そう。もしかしたら現代にも、耳聞こえへんくて音楽やっている人がおるかもしれへんと思って調べたら、ブライト・アイズがいたわけ。そうなったらもう、ただ取材するだけで終わるなんて出来ないでしょう。ドキュメンタリー映画として撮らしてもらわずにはいられなかったんですよ、映像作家としては。
華雪 つまり『デストロイ・ヴィシャス』がなければ、『ジャップ・ザ・ロック・リボルバー』も生まれなかった。
島田 逆に『ジャップ・ザ・ロック・リボルバー』を撮らしてもらったおかげで、『デストロイ・ヴィシャス』が撮れたとも言える。長い旅やったけど、数々の本物に出会えた有意義な時間だったね。ついにここまで来たか!って、今はシンプルに感動してる。