kimはバリトンギターとトランペットをリアルタイムでサンプリングしながら、研ぎ澄ました言葉の刃をラップに乗せる。midi*は変幻自在のグルーブを産み出すドラムで、それを支え、迎え撃つ。uhnellys(ウーネリーズ)はそんな男と女、たった2人からなるバンドだ。これまでTOKIEをはじめとする様々なプロデューサーやゲストプレイヤーを迎え、2006年から毎年定期的にリリースを続けてきた2人。昨年1年のブランクを置き、2011年の日本に叩き付けた渾身のニューアルバムは、まさに原点、2人だけの空間から産み落とされた最高な爆弾! 欧米ツアーの経験から海外での評価も高まる2人。ここが新章のスタート地点だ!!(インタビュー・文:前川誠)
──uhnellysは2006年から毎年定期的にリリースを重ねてきましたが、昨年は(リリースが)ありませんでしたよね。
kim 実はこの作品(『to too two』)は、今から半年前くらいに完成していたんですよ。でも、ここに入っている曲を演奏できるようになってからリリースしたかったので、少し寝かせていたんです。今まではリリースに合わせて曲を作ることが多かったから、リリースしたのにCDに入っている曲をライブでやらない、なんてことがあったんです。でも今回は、なるべくCDとライブの差を無くしたかった。だから今まではゲストが入ったり打ち込みを入れたりしていたけど、今回はそれも無しで。
──敢えて伺いたいのですが、今までメンバーを増やそうと思ったことはありますか?
kim ないです。……(midi*は)あるよね?
midi* 2人でやるのは大変だから(笑)。でも今となれば(uhnellysは)2人でしかやれないことだと思うし、例えば3人でやったとしても、それって面白いのかな? って思う。それなら他のバンドをやった方が良いんじゃないかって。
──この2人でやるからこそuhnellysなんだと。
midi* そうですね。だから今回は特に、この2人だけでガッチリやらないと、今までやってきたことが形にならないで、中途半端なままメンバーを入れるっていう方に逃げちゃうんじゃないかと思ったし。だから一度これで勝負したかった。
──今回はタイトルにしても、とにかく「2人」であることにこだわっていますよね。
kim 結局俺らは(CDよりも)2人だけでやってるライブの方が評判良いから、それをそのまま形にしたんですよ。
──すごく生々しい音に仕上がっていたと思います。
kim レコーディングは2人で一発録りでしたからね。
midi* エンジニアさんに「そこは分けて録った方が良いよ」って言われながら(笑)。
──完全にライブ録音だったんですね!
kim そうそう、密室に2人で籠って。歌もメイン以外は一緒に録ったから、ボーカルマイクに楽器の音が入っちゃってる。でも、今回はそういうのがやりたかったんです。
midi* 歌も含めて1日しかかかりませんでしたから。その日の雰囲気をそのまま、って感じで。
──そうして生々しくなった分、歌詞がもの凄くよく聴こえるようになりましたね。
kim 今回、実は歌詞が一番大事だったんですよ。もちろん今までもこだわって来たんですけど、例えば一小節に入れる言葉の数を、今回はだいぶ減らしたんです。早口で通り過ぎちゃうよりは、なるべく印象に残るようにしたかった。
──それだけ伝えたいことがあった、ということですか?
kim 今までは割とメッセージとして人に伝えるというよりは、何かを提示して、それを聴いた人に判断させるっていうやり方だったんです。でも今回は、「俺はこうだ!」っていうのを出したんですよ。
──そんなメッセージの大半を「怒り」が占めていますよね?
kim それはね、俺が音楽を作るうえでの根本ですよ。「楽しみたい」とか、そういう動機はほとんど無い。リスナーとしても、自分の怒りを解消するために音楽を聴くことが多いですし。だから自然とそうなっちゃうんでしょうね。
──それは何に対して怒ってるんですか? いま巷に溢れている音楽に対して?
kim いや、そういう訳じゃないけど……。
midi* そういうことよりも、世の中で「これでいいんじゃない?」「こんなもんじゃない?」ってされていることに対していちいち怒っているし、「それじゃダメなんだよ!」ってkimは言いたいんじゃないかって思います。例えばどこかで起こっている戦争って、普通「ああ、戦争ね」って流しがちだと思うんですけど、それに怒りを感じるみたいで。でも、それを音楽で表すのって、青臭くて恥ずかしいことって思う人も多いじゃないですか。それを、少しでも真正面から言うことで、「そういうことじゃないだろ!」って言いたいのかなって。
──その「怒り」を持続させるのって、難しくないですか?
kim そうでもないですよ。ニュースを観れば話題はいっぱいあるし、周りのミュージシャンを見れば、趣味なのかそれで食っていきたいのか分からないようなヤツがいっぱいいるし。……なんか、30歳超えたくらいのミュージシャンって、ヘンに横並びになりたがるんですよ。それが本当に面白くない。
midi* でも本当は、いつまでもそういうところに自分たちがいるっていう状況に対して、一番怒らなくちゃいけないと思うんですよ。周りのミュージシャンに怒りを感じるなら、さっさとこんな状況を抜け出して、その怒りをもっと有意義なところに向ければ良い。
kim だからこそ、今回のアルバムなんですよ。これで俺のやりたいことは完全に形にできたから、もしこれで(今の状況を)抜け出せなかったら、それはもう俺が上に届かないっていうだけなんで。満足できない作品を出して、売れなくて、でもこれは満足してないから俺らじゃないし……っていう状況が続いていたけど、今回はもう、俺らそのものだから。
──もし今の状況を抜け出せたら、もっと大きなものに怒りを向けることができる、ということですか。
kim そうです。活動も、もっと世界に向けて拡げられる気がする。
──今後もし歯車が上手く回ったとして、活動のベースはいつまでも日本に置きたいですか?
kim いや、全然。すぐにでも日本を離れたいです。だって、日本でミュージシャンをやるのなんてほぼ無理じゃないですか。ライブハウスくらいの規模のミュージシャンって、海外ならツアーを回っていれば生活できるけど、日本だとメシを食えないシステムになってるんですよ。
midi* 「逆輸入」みたいな形だと素直に聴いてくれる人もいますし。そこを上手く突破したいとは思いますね。日本に向けて届けたい気持ちはあるけど、なかなか「日本から」っていうのは難しいのかなっていう実感はあります。それはシステムだけの問題じゃないと思うし、もっと私たちも努力しなくちゃいけないと思うんだけど。
──ちなみに今年、このリリースの他に予定していることはありますか?
kim もう1枚アルバムを作ろうかなって。もう準備は始めてます。
──ペース速いですね!
kim フランク・ザッパは死ぬまでに60枚アルバムを出したんですけど、それが目標なんですよ。今はまだ5,6枚だから、急がないといけないんですけどね。
──『to too two』の反響は待たなくて良いんですか?
kim そうすると、周りの声に沿っちゃうんですよ。それより、今回のアルバムの曲を演奏しつつも、違うことやっていれば、もっと良いものができるんじゃないかって思って。
──とにかくどんどん前に行かないといけないと。サメみたいですね。
kim そうそう、止まると死ぬ、みたいなね(笑)。